第23話 水中の街

 制限時間はおそらく30分も無いだろう。しかし、ついに健太の力作ルアーに食いついた。健太はリールの無い竿で引いていく。徐々に徐々に岸側へと釣り糸は近づいてきた。


「くっ!なんなんだこの重さ!クジラを引っ張っているみたい・・・」


岸まで後1メートルになった時であった。


グイグイグイ


「え?」


 魚の力強さに負け、健太は身体ごと湖へと引きづり込まれた。


ドボーーン!


 健太は不安になった。ぶちぶちの猫、ドズラ、そしてイルグルは大物を釣り上げた。しかしその魚の大きさはとても1人で釣り上げる事が困難なサイズであり、一番心配なのが・・・


(うわ!来た!!)


 一番心配なのが、食べられてしまうのではないか!という事だが・・・

 健太は見た。大きな身体、黒い鱗、鋭い牙。釣りを覚えた小学生五年生の時に見た事がある。あれは、間違いなくブラックバスそのものであった。


(クソッ、水の中じゃ何も出来ない)


 巨大なブラックバスは健太の周りをグルグル何周もするが、いつしか大きな口を開けて健太に食らいつきそうになる。


「ブブブ!!!」


 健太は竿を両手で前に出し、ブラックバスが食いつくのを防ぐ。竿をガシガシ噛みついたが一旦離れた。


(まずい、息が続かない・・・)


再び健太の周りをグルグルするブラックバスに対し、健太は徐々に上昇し。息継ぎを行う。


「ブハァ!ハァッハァッハァッ!」


 健太は息継ぎをする事が出来たが、ピンチは続く、左右見渡しても水の中じゃないとブラックバスの姿は見えない。

 と、思いきや、健太の正面で大きな魚が飛び上がる。

 水面を超え空高く飛び跳ね、そのまま健太に向かってブラックバスの鋭い歯が近づいて来た。


「ハッ!まずい!」


ザッバーン!!


 健太は両手で竿を横に持ち、食いつきを防いだ。間一髪、健太は助かったがあまりの衝撃で竿を手から離してしまう。

 次に襲われると、食べられてしまうかもしれない等と、考える間もなく、ブラックバスは健太に食らいついてきた。


(ウギャ!食べられるー!!)





「ただいま戻りました。今日も僕は大物を釣っちゃいました♪」


「おおお」

「す、すげー!」

「またあの子か〜」


 中央地区の釣り上げ報告所では、終盤に差し掛かっていた。流回矢るえしは間もなく4周目に突入する。

 イルグルは自身過去最大級の、6メートル80センチ級のナマズを釣り上げていた。


「あら?師匠!健太君、健太君がいませんねぇ、もう家に帰ったのかな?」


 この日審査委員をしているシエルも未だ見ていない様子。


「まだ報告所ここに来ていない様じゃがのう。」


「まぁ、僕のこの大物を釣ったのを健太君見ていたから、諦めて帰ったんでしょう。」


健太の命が危ない事を知らない彼らは、そういった会話をしていた。





「ハッ!!」


 健太は意識を取り戻した。どうやら生きている様だ。


(えっと・・・俺は一体・・・思い出せ思い出せ・・・

 しまった!気を失ったか!気づけば俺は岸で寝ていた・・・隣にはなんと8メートル級のブラックバスがバタバタしている・・・一体何があったんだ?)


「健太・・・すごぉおおおおい!!」


「うぁあぁああああびっくりしたああ!!」


誰もいないと思ったが、メルーがいた。


「なんだメルーか、俺って・・・?」


「え?覚えてないの~~~?この巨大な古代黒魚の背中に乗って遊んでなかった?最後に魚と一緒にこの岸に飛んで来て変な着地してたから1分くらい動かなかったけど・・・」


(背中に?俺そんな行動したっけな?・・・まぁ、いいや。俺は遂に釣り上げたのか!やった、やったぞ~~~!!)


「健太、もう時間になるわよ?この魚で健太の審査に入るけどい~い?」


「お?メルーは審査側の者なんだ?勿論勿論!!お願いします!!」


 (よっし!マジでこれって俺が優勝したんじゃねぇ?フフフ黒助よ、V3ならず!!ふはははは!!)


「ハッ!!」


 思い出そうと頭が考えていたが、健太は重要な事を思い出した。


「ん?どうしたの?」


メルーが首を傾げながら聞いてくる。


「いや、なんでもない!」


 健太はあえて何も言わなかった。そう、食べられそうになった時を思い出したのだ。襲いかかるブラックバスの口を交わし、背ビレにしがみつき、そのまま泳いで暴れるブラックバス。水面を飛び跳ねたり潜ったりを繰り返していた。

 そんな中、ブラックバスが湖の底まで暴れながら泳いだ時、健太は確かに見たのだ。


(な・・・なんで水の底に俺の街があるんだ?)



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