第11話 各想い

 シュケルは壁に身体を当ててリラックスしながら聞いていたが、メルーの意外な発言に驚き壁から身体が離れる。

 引き続き、シエルが話し始める。


「健太は恐らくお嬢ちゃんの殺気を感じた。石を投げた瞬間、魔力を発動し、石の投げた方向を変えたのじゃ。人間は戦う為の能力が無い種族だからこそ、レンジャーの鍛錬をしていると聞く。しかし健太はレンジャーの能力は、急にバピラにやってきた事もありゼロだ。環境が変わり身についた魔力かもしれん。それらも少しずつラマ国で調べねばあるまい。」


「アタシも行くわ!」

話の間にリサが加わった。


「へ?」「え?」「えー!」

 シュケル、シエル、メルーの順で声が出たが、改めてシエルが応じる。


「リサと言ったな。お嬢ちゃん。なかなかの命中率を誇るレンジャーの稽古をしている模様じゃな?健太が阻止せねばメルーに小石が命中していたじゃろう。」


「苦労したわよ!?アタシのレンジャーの能力はまだまだこれからよ!?アタシも魔法が使いたい。レンジャー能力と魔法と2つ得る事で強くなれるし。」


 リサはワクワクした表情で応えたが、そこにメルーが一言・・・


「あなたは連れて行かないわよ!?」


「はあ?なんでよ?」


「人間は悪知恵だけは達者なんだから、魔法を使用出来る様になれば、ラマ国を崩壊しようと考えるわ?それに・・・石を投げつけた人間なんかをだーれが連れて行くもんですか!!」


「な・・・何ですって!!」


再びリサとメルーは睨み合いが始まった。


「まあ待てメルーとお嬢ちゃん。それに健太が絶対に魔力を持っているとは限らん!たまたま遠くから飛んできた魔力が付着しただけかもしれんしのう。」


 シエルは煽てるが、メルーとリサは顔をくっつけ合って睨み合いは続いていた。


「ぐぬぬぬぬぬぬ、はやく教えなさいよ〜魔法のコツを!ぐぬぬぬぬぬぬ」


「うぬぬぬぬぬぬ、だ〜れがあんたなんかに教えるもんですか!うぬぬぬぬぬぬ。」


そして、ついに健太がやってきた。


「ワリーワリーじじい共。お待たせ!」


健太は特に大きな荷物はなく、リュックサックを背負い、持ち運び網にサッカーボールを入れていた。




 シュールの入り口には全員集まっていた。健太を見送る為だ。


「良いか?お前達、この事は誰にも知られてはならぬ。ここにいる者達の秘密じゃ。特に・・・バドームの連中にはな。」


入り口に来てからシュケルは何度もそればかりを言っている。


「健太君、何か新発見したら絶対に教えてくださいよー!」

 勉強熱心なウルフのラウルは、ラマ国に行く健太が羨ましく感じている様子。


「健太〜、美味しい食べ物あったら送ってね〜」

「んだんだ。送ってね〜」

 いつも一緒のリザードマンのマルスとモノマネばかりのノーラは食いしん坊な所がありすぎる。送ると必ずクセになって送れ送れと言い続けるだろうと苦笑いする健太。


「まぁ健太、俺は自慢の耳と足がある。シュールの笛も持って行けよ、鳴らしてくれたら飛んで行くぜ!?」

 やはりリョウは役に立つ。健太がシュールに来た時から意気投合し、悪巧みをしてきた仲であった。

 そんなリョウだが、運動神経抜群ではあるが、学力は殆どない。しかし、このリョウは将来ピカトーレンを代表する存在になるのはまだまだ、かなり先の話。


「健太、アタシはあんたなんかに負けないんだから!ラマだろうがバドームだろうが勝手に行って来なさい!」

 相変わらずツンとしているリサ。心までもツンとしているのかデレっとしているのかわからないが、健太とリサはこの4年間で決して仲が良かったわけではなかった。

とはいえ、いつも怒り始めるのは必ずリサ。健太に特別な感情があるのだろうか・・・


「もうすぐ夜じゃ、ワシやメルーは夜でも見えるが健太よ、人間は夜に弱い。早い事移動するぞ。」


「わかった。じゃあ、行ってくる!じゃ〜ね〜みんな〜」


 健太は手を振りながらラマ方向へと歩き始めた。シュールの皆も手を振り、健太を見送った。照れ臭く、手を振らない者もいたが・・・



第3章 ラマ国中央図書館へ続く

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