第4話:飛べる者、落ちる者
廃棄区画内への進軍を開始して序盤、高台にある学校跡とおぼしき施設を確認した千翼はそちらに向かっていた。
最初の砲撃の範囲から少しずれた位置で被害がほとんどない区画であったが、テロリストの〈ドギー〉らしき機影が三機か四機ほど動いていたのを確認した為だ。
「――各部隊はそのまま中央を制圧に」
通信越しで指揮をしながら、その辿り着いた千翼。
案の定、その校庭に三機の〈ドギー〉がいた。
そのうち中央にいた一機が背面に装備した機関砲を向け、射撃してきた。千翼は機体の装備した盾を構えつつジグザグの軌道を描く様に直進する。
他の二機も射撃を始める、それより先に千翼が行動に出た。60mm対物突撃銃を盾の横目から構え、
右の一機が接近戦を仕掛けてくる。それよりも先に左の機体に再度、今度は二回射撃。一発目を避けた〈ドギー〉が続く二発目に撃ち抜かれて沈黙させられた。
そして最後の一機に向き直る。既に目の前まで迫っていた。
両前脚を振り上げ、今にも飛びかかろうとばかりの〈ドギー〉。
あわや危機一髪、となっていたであろう、その状況。
そんな状況で彼女はどうしたのか。
その場で盾を投擲。衝撃で怯んだ隙に開いた左腕でナイフを取り出し、突き刺して撃墜した。
彼女の搭乗する〈カウタロス〉は高性能機であるが同時に生産数が他機種より少なく、そのために搭乗者となれる者もまた同じく少なかった。故に彼女はそれに恥じない戦闘力を有していた。
それはそれとして。体育館だったであろう建物の中を確認する。
「これは……」
何らかの機械や資料らしきものの山があった。しかし。焼き打ちにでもあったかという様に焼かれていた。
自分たちで隠蔽のためにやったんだ、と想像するのは容易かった。
「無駄足になってしまったか」
そんな時だった。
突然鳴った聞いたことのない警報で、千翼は異変に気が付いた。
味方機が撃墜されたという知らせだ。ほぼ同じタイミングで三機。続けて一機、また一機と味方機の反応が消失していく。
『東側で六機やられました!』
「何が起きてるんですか!」
続けて送られてきた通信に応じる。
『白い異形型の所属不明機が、突然現れて!!!』
「所属不明機……数は?」
『一機です! たった一機!』
たった一機に三機も損失したのか。そんな疑問が浮かぶ程には信じられなかった。
「白い以外に特徴は?」
『腕が長くて、獣脚型、異様に尖った頭部、あと異様に早い!』
挙げられたキーワードが全く脳内で図形に変換できずにいた。B級映画のバケモノみたいだと空気を読まずに言う訳にもいかずとりあえずで指示を送る。
「後退しながら迎撃を。他の班を向かわせます、包囲して撃破しなさい」
『無理です、やられr……うわぁっ!!!』
が、それが届くより先に通信が途絶してしまった。
「――北方面・南方面の部隊は全軍東へ!!! 西部隊もそちらに向かってください!!!」
本当にバケモノが現れたんじゃないだろうか、と。尋常じゃないなにかを察知し、可能な限りの戦力で当たらせる。
『なんだこいつ、早すぎて追い切れな――背後を……!!?』
『馬鹿な……140mmが通らないッ!!?』
『〈ピグリム〉の装甲が……何でっ──!!?』
『来るな……来るなァァァァァァ』
どんな状況か想像できない阿鼻叫喚の通信。
同時に次から次へと味方機の反応が消滅していく。
消えゆく声に幾つも入る、白い異形、という言葉。
「……一体、何が……?」
動揺のあまりに声が上擦っていた。
今何が起きているのかを理解できない。
しかし、次の瞬間には、無理矢理理解させられることとなる。
そいつがたった今彼女がいる体育館であったであろうこの場所の壁をぶち破って来たのだから。
後退しながら射撃してくる機体へと接近し、一閃の元に両断する〈メーヴェ〉。
これで〈メリッサ〉六機を屠ったところだ。
「まだ来る……!!!」
コクピットの中で笑みを浮かべている刹那。その表情とは裏腹に思考の方は至って冷静であった。
「一斉に掛からせるあたり指揮官は比較的優秀なようだな」
近代戦術に於いて、戦力の分散配置と逐次投入はやってはいけないことの一つと言われている。とはいえ、どちらか片方を応用したりなどの限定的な話であればそれらが適切な判断と成り得る戦況も少なからず存在する。
分散配置しつつ一斉攻撃をさせた〈自由解放戦線〉へやったそれだ。最も、自分より格下の相手に対する攻撃ということではあるが。
「俺とメーヴェはそんなに甘くないがなッ!」
駆け出す〈メーヴェ〉。
掲げる左腕の電磁防御帯により砲撃を回避。接近して、右腕の刃で一機の〈メリッサ〉を一撃で両断した。
廃墟の壁を蹴って跳躍し、道路越しの別の廃墟の壁へと伝い、また伝い、立体的な機動を描きながら空中から強襲し仕留める。
〈ピグリム〉からの砲撃を受けた。140mm砲の砲撃。さすがに両腕で防御を行った。
爆裂。凄まじい衝撃と爆音がコクピットを揺さぶる。
それでも、機体は無傷。
爆煙を斬り裂きながら接近し、両腕で刃を展開し切り伏せた。
そうして一機、また一機と屠っていく。
今更だが〈メーヴェ〉の操作方式は操縦桿入力式である。本来なら入力速度が思考操縦より早いはずがないのだが。元々の機体ポテンシャルが相当に高いことも要因の一つであり。潜伏していた二年もの間、OSを更新する度に機体の運動能力を自分が気絶しないギリギリまで引き上げて調整したこと。彼自身もクマや野犬などとの戦闘経験を積んでいたこと。なにより彼自身が思い切りがよすぎること、などの要因が重なり、超人的な機動が可能となっていたのだ。
もう一機の〈ピグリム〉を確認。
近くにある学校跡の方へと向かっていた。
「学校に、もう一機居る……?」
さりげなく映った体育館の窓越しに映し出された〈カウタロス〉の姿。
「行ってみるか」
ここまで電力残量を気にして使用しなかった電磁スラスターを吹かし、加速を掛けて〈ピグリム〉を猛追する。
体育館まで数メートルというところまでたどり着き、スラスター噴射の威勢のままに回転しながらアイアンクローの要領で頭部を鷲掴みにして体育館の壁へと共に突っ込んだ。
「なっ……あ……!!?」
突然やってきた異形の機体を目の前に、千翼は一瞬言葉を失っていた。
オイルを垂らす〈ピグリム〉の頭部を片手で鷲掴みにする機体。一緒に突入したというかそのまま押しつぶされた僚機の成れの果てであった。
言葉だけでは全く想像できなかった、言われていた特徴が、あまりにもしっくりくる程その姿を現していた。
そいつが鉄の生首を放り投げ、こちらに迫って来た。
突っ込んできた機体がぶつかる直前、そいつの腕を掴み、どうにか抑える。しかし。徐々に押され返されていく。
〈カウタロス〉が単純な力比べで押し負ける。その受け入れがたい事実が画面越しの目前で起きていた。
「白い、異形の機体……貴方ね、イレギュラーはッ!!?」
「アンタが大将機だなッ!!!」
相対する二機。互いに通じないコクピットの中で、お互いの正体に気付くこともなく、二人はほぼ同時に吼えていた。
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