第2話

〈村松〉

 このアルバイトを始めて三ヶ月は経っただろうか。 仕事には慣れてバイト仲間の文系大学生とはご飯を食べる程には交流を深めた。理系とはあまり会わないし、合わないしで付き合いは少ない。これって先入観だと思うのだけどね。文理の区別なんて無くせばいいのに。まぁいいか。今日はテスト準備があるので早入りして担当の席に一人収まった。誰もいない職場の快適な空気を今の内に吸い尽くしてやろう。

 監視カメラの映像を横眼でチェックする。塾を運営する側に就けば塾生時代は見透かせなかった機構が少し知覚できる。監視カメラはその一つで、職員室以外の全ての教室の様子を開館時間中映し出す。私が去年机に寝転がって教科書を暗記していた醜態も見られていた訳だ。トラウマが蘇ってひぃ恥ずかしい。

 授業開始にはまだ早いので無人が続くかと想定していたら、一人の女子学生が三号館四階自習室に入室してきた。彼女は桃色の頭髪からして私の担当するクラスの恵子ちゃんではないか。学校終わりそのまま来たのかな。二号館で授業のはずだけど態々四階を利用するのは何か理由があるのかね。別に自由だからいいんだけど。

 それにしても可愛いな。中学生って何でこんなに可愛いんだろう。小さい身体で喜色満面で、未成熟な鼓膜に少し囁けば直ぐ影響を受けてくれそうで。今から電撃訪問して一対一の個別指導に閉じ込めてあげたい。荷物を置いた女の子をモニターの上からなぞる。

 すると恵子ちゃんは突然脱ぎ出した。上着だけでなく学生の証たる制服、ワイシャツまで釦を外し公衆の面前ではお目にかかれない肌を露出させ、生まれたままの姿を取り戻した。だが幼児退行した訳ではないようで力強い二足歩行で安全確保に励み出す。

 は、はい?そこまで自由にしていいとは言ってないよ。これって少年法が効くとは言え公然猥褻罪に値するんじゃないの。初めての事態に職歴三ヶ月、人生十九年目にして熱く燃え滾るものが生まれた。勿論犯行の現場ではなく一人の少女が一糸纏わない光景に。

 汗ばむモニターの中で恵子ちゃんは教卓に位置取り、裸のスリルでは満ち足りず、あの行為に耽り始めた。指を、そ、そこに。入れた。入れて必死に動かしている。他人のこんな様子見るの初めてだ。しかも年下。自覚的な違法ダウンロードと同じで私こそ罰せられるのではないかと思い、私は見ていないと強く自己暗示し見続ける。今三号館に行けば秘かに実物を拝めるかもしれない、と発想したが階段の音で勘付かれてしまうか。それよりここで一部始終網膜に焼き付ける方が満足度を担保できるだろう。荒い画面上では黒いドットとして表現される口は拡大縮小に任せている。音声機能がないことに癇癪玉を点火させるのは初仕事だ。時間の感覚、時給の進捗を忘れてその身体現象に誘われる。

 暫くして少女の脚が一直線に伸びた。今日は数学のテストだった。

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