オナバレッタ
沈黙静寂
第1話
〈恵子〉
駅から歩いて十五分、スクランブル交差点を跨いだ先にある学習塾に通う。校舎は少人数制ながら学年毎に分かれ、わたしが収容される教室は二号館にある。
学校帰り地元の駅を出る。時刻はまだ二時四十五分。このまま早めの帰宅にしてもいいけれど、身体は自然と真逆の道を辿った。塾の前まで至ると左より一号館、二号館、三号館と肩寄せ合う様子を特売品を吟味する主婦のように眺めて、若干迷った後、遥々した遠路にあるエントランスを通行する。エスカレートもエレベートもできない老練な鉄筋造りの階段を昇りに昇り、鼓動を乱しながら四階の床を踏む。引き戸を素直に引いて行きつけの自習室に行きついて息を吐く。思惑通り教室には人っ子一人いない。端の席で荷物を下ろして上着を背にかける。
塾には各号館各階に自習室が用意されている。この部屋は周囲の威圧的なビルの陰で薄暗く染まった三号館のビル側、しかも四階のため足音がすれば事前な検知できる。実際これまで利用してきた中で誰か来たことはない。誰もいないから必要ないけど一先ず勉強道具で机を陣取り大義名分は形作った。一号館の授業開始は五時、三号館は七時、わたしの授業が催されるのは二号館の一階。他の生徒は自習するにしてもここより芳しい喫茶店や図書館に腰を預けているだろう。ここではわたしは何をしてもいい。
まずは制服を脱ぐ。この時点でもう興奮する。靴と靴下を脱ぐ。うわ、教室で裸になっちゃってるよわたし。うわー。隣の机に置いて更衣室の趣を追加したら、出入口を念のため確認して興奮と冷静さの均衡を図る。ドアは敢えて開けっ放しのまま、教室前方へじっくり味わいながら進む。振り返って視野が変われば生徒で満杯になった数時間後の光景を思い浮かべて胸に疚しさが走る。教卓に乗ってそれを深く感じながら行為を始めた。
はぁ、んっ、んっ、あっ。学生の本分を遠目に見ながら本能に身を預ける。普段家で処理するより遥かに震える感性。とんでもない変態だ、今、ここで、わたし。黒板をバックに、授業中挙げる手が先生の知らない場所を指導する。わたしの姿をノートに取らないで。何言ってんだろ。
誰も知らないんだなわたしがこれ程開放的だなんて。優等生ぶっているけどこれが奥底の真実さ。あぁ声出したい。別に出して大丈夫だよね。ん、んんっ、うわ、あ、あ、頂点に達しそう、は、んぐ、「ふぁぁっ」はぁ、はぁ、はぁ……ふぅーっ。
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