第4話 リンとの出会い

「見事だったね、流石ユーイ。魔法を使わずに体術だけであそこまで野盗の集団をぼこぼこにするなんて、見ていて気分がよかったよ」

 オドが楽しそうに言った。

 イーストベルを出てからここに来るまで、野盗の襲撃が二度あった。あまり治安がいいとは言い難い。

「マナに色々なところに連れ回されてたから、一般人相手なら後れは取らないよ。魔法を使えば大怪我させちゃうかもしれないし、体術で撃退が一番だからね」

 歩いていると遠くに村が見えてきた。目指していた村だろう。

「ねえ、オド。ここに来る途中にあった大穴って、何の大穴だったんだろう」

 道中見かけた大穴について思い出した。イーストベルを出てから1日くらい歩いたところにあった大穴だ。覗き込んで見たが底は見えなかった。

「さあ、わからないよ」

「そっか。オドがわからないんじゃ仕方ないね」

 空から何か降ってきたのかも知れない。隕石というものが空のずっと向こうから落ちてくることがあるらしいと、マナが教えてくれた。

「ユーイ」

「何、オド?」

「大丈夫?」

「平気だよ。1日歩いたくらい、たいしたことないよ」

「ならいいよ」

 村の入り口に着いた。村は石垣で囲まれ、獣達の侵入を防げるように作っているらしい。入り口には男が二人立っていた。交代で見張りをしているのだろう。

「お嬢ちゃん、どこから来たんだい?」

 私に気がついた中年の男性が声をかけてきた。

「どうも、こんにちは。私は、えーと、イーストベルから来ました」

「歩いてここまで?随分かかると思うが」

 じろじろと私を見る。どうやら怪しんでいるようだ。

「親御さんは?まさか君みたいな小さい子が一人っていうことはないだろ?」

 つい苦笑いする。

 困った。ヒサカのことを聞ける雰囲気ではない。この場をどうやって誤魔化そうかと悩んでいると、村の中から聞き覚えのある声がした。

「もしかして、ユーイ?」

「リン、さん?」

 イーストベルで果物をくれたリンだった。

「何だ、リン。この子の知り合いか?」

「ええ、お父さん。昨日イーストベルで知り合ったの。何か縁があったのね。また会えるなんて思わなかったわ」

 渡りに船だ。イーストベルでの縁に感謝しなくてはならない。

「また会えて嬉しいです、リンさん。昨日はありがとうございました」

 リンはどういたしましてと微笑んだ。改めて見ると歳の頃は16歳くらいだろうか。見た目の年齢で言えば私よりも上だろう。

「リン、この子はどうして一人なんだ?」

「お父さん。ここはあたしに任せて。ほら、大人の男の人が二人で囲んだら、ユーイが怖がってしまうわ」

「え?ああ、すまん」

 どうやら見張りの男性の一人はリンの父親らしい。

「それで、ユーイ。どうしてこの村に?」

「人を探してるんです」

「どんな人?この村の人かしら」

「この村にいるかもしれないっていう話を聞いてきたんです。名前は、ヒサカさんって言います。リンさんは知ってますか?」

 リンと父親、さらにもう一人の見張りの男性が顔を見合わせた。

「ヒサカ先生、もちろん知ってるわ!」

「ヒサカ先生の知り合いか?」

「ヒサカさんがここにいるんですか?」

 まさか本当にいるとは思わなかった。

「ここにはいないの」

 リンが言った。

「月に一度だけ、村にいらっしゃるの。今度いらっしゃるのは一週間後なのよ」

「そうなんですか」

 一週間後。すぐには会えないということだが、この村にヒサカがやってくる。とりあえずどこかで野宿をしてまた一週間後にここに来ればいい。

「分かりました。一週間後にまた来ます」

 お礼を言ってその場を立ち去ろうとすると、リンに呼び止められた。

「待って、ユーイ。あなた、遠くから歩いてきたんでしょう。泊まる場所はあるの?食べるものは?」

 リンが矢継ぎ早に聞いてくる。泊まるのは野宿でも何でもいいし、食べなくても死ぬことはない。リンが父親を見つめた。それを見た父親はにやりと笑って親指を立てる。何かの合図だろうか。

「うちに泊まっていって。たいしたものはないけれど、雨風は凌げると思うわ」

 突然の提案に私は手を振った。

「そんな……、リンさんにそんなご迷惑をおかけするわけには」

「ううん。あなたとあたしにはきっと縁があると思うの。だから、あたしはユーイを放っておけないわ。いいわよね、お父さん」

「ああ、こんな小さい子を放り出すくらいなら、俺が代わりに出ていってやる」

「ありがとう、お父さん!ね、ユーイ。あたしのうちに泊まっていって」

「リンさん」

 自分たちも決して裕福なわけではないはずなのに、どうして彼女達はこんなに他人に親切にできるのだろうか。

 いや、マナもそうだった。死にかけの私なんかを助けて、マナに得することなんて一つもなかったはずだ。それなのにマナは私を助けて、何の見返りも求めないままに死んだ。

 好意は素直に受け取っておくべきだよ、とマナが言っていたのを思い出す。

 一瞬、リンとマナが重なって泣きそうになった。

「リンさん、お邪魔して、いいですか」

「うん!喜んで!」

 屈託のない笑顔を見て、私もリンのようになりたいと心の底から思った。私の方が長く生きているのに、教えられることばかりだ。

「じゃあお父さん。あたしユーイと先に帰るわね」

「ああ、ユーイちゃん。綺麗な場所じゃないがゆっくりとしていってくれ」

 私は会釈をしてリンの後をついていく。途中すれ違う村人達は最初怪訝な様子で私を見ていたが、リンが全員に「私の友達なの!」と紹介してくれた。

「リンちゃんの友達かあ。なら大丈夫だなあ」

 みんなに信用されているんだ。少しリンが羨ましい

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