第3話 東の国にて

 汽車を降りた場所は東の国で一番の都市イーストベルだった。以前はマナと一緒にここで暮らしたこともある。

 懐かしさを感じながら人の多い通りを歩いていく。この国は特に農業が盛んで、通りのそこかしこに、野菜や果物の露店が並んでいる。

「お嬢ちゃん、うちの果物はどうだい、新鮮で美味しいよ」

「お嬢さん、一人で偉いねえ。ママのお使いかい?」

「お嬢さん」「お嬢ちゃん」

 通りのあちこちで声をかけられたが愛想笑いで誤魔化した。私は決してお嬢さんと呼ばれるような年齢ではない。ただ、見た目は確かにお嬢さんと呼ばれて当然のものをしている。

 果物のいい匂いでお腹がなった。

「そう言えば昨日から何も食べてないなぁ」

「ユーイは食べなくても平気だよ」

「そういう問題じゃないんだよ」

 オドに文句を言いながら歩いていく。仕方がないと思いながらお腹をさすった。お金は計画的に使わないといけない。

「お金に困ってるなら、あれを売れば?」

「あれって、マナがくれた石のこと?」

「宝石だよ」

「ふうん。そんなに高く売れるの?」

「しばらく遊んで暮らせるよ」

「本当!?」

「うん」

 どうしようと鞄を探りながら考えた。でもこれはマナから困った時に売りなさいと言われてもらった物だ。それを簡単に売るのは躊躇われた。

「あの」

 果物のいい匂いをできるだけ嗅がないようにしていると、誰かに声をかけられた。振り向くと、そこには少女が立っていた。

 おさげの黒髪にあどけなさが残る顔をした少女だった。

「お腹がすいてるんだったら、これあげるわ」

 自分の持っている籠から赤い果物を取り出し、差し出してきた。私は手を振って遠慮する。

「大丈夫です。心配してくれてありがとうございます」

 少女のか細い腕を見ればわかる。この少女は十分な栄養を摂れていないはずだ。

「でも、お腹がすいてるんじゃない?ごめんなさいね、たくさんは分けてあげられないんだけど」

「本当に、悪いですから。それ、あなたの大切な食べ物ですよね」

「大丈夫だから!」

 そう言って果物を押し付けられた。

 きっと自分も裕福ではないはずなのに、こうやって食べ物を分けてくれようとしている。何だか胸が温かくなった。

「ありがとう、ございます」

 果物を受け取ると、少女はにこりと微笑んだ。

「あたし、リン。あなたは?」

「ユーイ、です」

 名乗ってふと、鞄の中にあった物を思い出した。

「リンさん、すみません。何かお礼を」

「え、お礼だなんて」

 鞄から宝石を取り出す。

「これ、どうぞ」

「えぇええ?」

 オドの驚く声が聞こえた。

 手渡すと、リンは驚いて手を振って私の手に宝石を戻す。

「こんな高価そうなもの受け取れないわ。あたしが渡したのは、安い果物だもの」

「いいえ、いいんです。これは私が持っていても役に立たないものですから」

「うーん、でも、お腹が空いているならそれを売った方がお金になると思うわ」

 私は首を振った。

「私は、あなたの気持ちに応えたくて」

 上手く言えない。伝わるといいなと思いながら宝石をリンの手に置いた。

「そっか、うん。ユーイ、ありがとう。あたし、これを大事にするわ」

「はい」

 リンはにこりと笑った後、私に何度もお礼を言って去って行った。笑顔が素敵な少女だったなと思いながら果物を噛み締めると、甘酸っぱい味が口の中に広がった。

「ねぇ、ユーイ」

「何、オド」

「よかったの?あれを売っていたら、そんな果物よりいい物が飽きるくらい買えたよ」

「わかってないなあ、オドは。あの子がくれたこの果物に比べたら、あんな宝石に大した価値はないよ」

「うーん?」

 オドが唸った。

「何だろう、あの人だかり」

 歩いていると広場があって、そこには人だかりができていた。どうやら誰かが演説をしていて、それを皆が囲んで見ているようだった。

「科学こそがこの世界を導くのです。魔法使いの時代は終わりました。これからは科学の時代なのです。魔法とは、選ばれた一部の者しか使うことができず、その範囲も限定的だ。しかし、科学は違う。誰もが等しく、その恩恵を享受できる。科学こそが人々を幸福にできるのです。現に中央の発展は急速に進んでいます。この東の国でも、どんどんと科学は拡がっていくでしょう」

 話している内容の一部が聞こえてきた。

「どうやら科学派の人みたい」

「そうだね」

 科学とは、ここ100年くらいで急速に発展してきた技術だ。以前までは魔法使いが世界を先導してきたが、科学が台頭して発展を続け、今では力は拮抗している。西の国では魔法使いの影響がまだまだ強いが、中央は科学派の勢力がどんどんと伸びてきており、現在はこうやって科学を他国へも布教している。

 以前、マナも科学は便利だと言っていた。どこか寂しい目をして、科学が魔法に取って代わることになるかも知れないと続けていたのを思い出す。その時、私には何のことかよく分からなかったが、人々が平等に幸福になれるというのなら、魔法と共存はできないのだろうかと今では思う。

 あの演説している人、どこかで見たことがある気がする。

 話に聞き入っていると、誰かが肩に手を置いた。

「ユーイさん、ですね」

 慌てて振り向くと、そこには黒いフードを被った人物が三人私を取り囲むように立っていた。

「協会の者です。あなたを連れ戻すよう、指示を受けています」

 早い。こんなに早く見つかってしまうとは思わなかった。

「ご同行いただけますか。テレサニア様がお待ちです」

「テレサニアさんの……!」

 オドに声をかけようとすると、黒いフードの男が人差し指を立てて唇に当てた。

「ここで揉めれば被害が出ますがよろしいのですか」

 ハッとして周囲を確認する。

 駄目だ。人が多すぎる。ここで抵抗すれば必ず誰かを巻き込むことになる。他人を犠牲にして自分の願いを叶えるくらいならば、もう一度機会を待った方がいい。

 観念して身を差し出そうとすると、不意に誰かが叫んだ。

「おい!ここに協会のやつらがいるぞ!」

 声が広場に響く。協会のやつらというのは私たちのことだ。科学派の人たちが演説を中断し、こちらを見ている。まずい、協会と科学派は相容れない存在だ。

「まずいな。急いでこの場を離れないと」

 黒いフードの男が私の手首を掴んだ。

「その子から手を放せ、この人攫いの魔法使いが!」

 逆からも手首を掴まれて引っ張られた。黒いフードの男は一瞬たじろぎ、私の手首を握る力が緩む。その隙に、一気に逆方向へ引き寄せられた。

 黒いフードの人たちは舌打ちし、一目散に走り去って行く。

「大丈夫かい?」

 そこには赤髪の青年がいた。

「え、あの……」

 広場の中心にいた科学派の人たちが駆け寄ってくる。

「君たち、大丈夫か。怪我はないか。おい、お前たち、周囲を警戒しろ」

 演説をしていた人物が、他の科学派の人たちに命令する。

 どうしよう、追われているとは言え、私も協会の人間だ。調べられれば素性がバレてしまう恐れがある。

「それにしても、どうして協会が君のような女の子を?」

「それは……」

 答えあぐねていると青年が前に出た。

「奴らは突然僕の妹を攫おうとしたんです」

 妹?

「これは僕の推測ですが、奴らは教会に攫って行く子どもを探しにきているのかも知れません。皆さんも用心された方がいいかと」

「なるほどな。卑劣な奴らのやりそうなことだ。助言を感謝する。科学派は君たち市民の味方だ。応援を要請しておこう」

「ありがとうございます」

「よかったら家まで送って行かせようか」

「お気遣い、ありがたく頂戴しますが結構です。あちらではあなたの公演を待っている方々がいる。僕たちがこれ以上邪魔をするわけにはいきませんから」

「素晴らしい。ぜひ機会があれば中央を尋ねたまえ。私はアインベルクと言う者だ」

「はい、是非」

 青年が頭を下げると満足したように科学派のアインベルクは去って行った。

「ふん、下等なクズが」

 私は慌てて隣に立つ青年を見た。先ほどまでの柔和な笑顔はそこにはなく、殺気立っている。私の視線に気がついたようで青年が私を見て微笑んだ。

「もう大丈夫だよ、ユーイ」

 ゾッとした。

 名乗った覚えはないはずなのに名前を知られている。つまり、この人も協会側の人間である可能性が高い。

「心配しなくてもいい。僕は君を連れ戻そうとしている野蛮な輩ではないからね」

「あなたは一体誰なんですか」

「僕はルーイン。名前くらいは聞いたことがあるかな?」

「ルーインさん」

 その名前は教会にいる時に聞いたことがある。ルーインは魔法使いでもかなりの実力者で、四大元素を操る。

「少し歩こうか。科学派のバカどもに勘付かれては困る」

 言われるがままに歩き出す。

「しかし、たいしたものだな。あのテレサニアを出し抜くとは」

 ルーインの狙いがわからない。私を連れ戻そうとしているわけではなさそうではある。

「テレサニアの悔しがっている顔は見てみたかった気もするな」

 楽しそうに笑う。脱走の経緯も知っているようだ。

「どうしてルーインさんは私を協会に連れ戻そうとしないんですか」

「だって、君は脱走したいんだろう?」

 ルーインが首を傾げる。

「そうです、けど」

「なら君に不都合はないはずだが」

「ルーインさんに不都合はないんですか」

「僕に?」

 少しの沈黙があり、微笑んだ。

「君は僕がこの世で最も敬愛するマナの弟子だ。その君を贔屓するのは当然のことだろう。脱走したいと言うのなら喜んで手を貸そうじゃないか」

 肩に乗ったオドが警戒しているのがわかった。この人は本当のことを言っている、けれど、その中に嘘が混ざっている気がする。

「マナ、ですか」

 私はその名を口にすると、ルーインが足を止めた。振り向いて彼の顔を確認するが、前髪に隠れて表情が確認できない。

「私が、マナを殺したとしても、それでも」

 言い終える前にルーインの手が私の首を掴んでいた。

「あ……ぐ……」

 両手で私の首を締め上げていく。

「ユーイ!」

 オドが叫んだ。すると突然首から手を離され、私はその場にへたり込んで咳き込む。

「調子に乗るなよ、ユーイ。お前などにマナを殺せるはずがないんだ」

「すみま、せん」

 目頭が熱い。謝ると、ルーインがさっきまでの行動が嘘だったように微笑んだ。

「分かってくれさえすればいいんだ。君がおかしなことを言わなければ、僕は君に協力してあげられる」

 協力ってどういうことだろう。

「君はヒサカに会いたいんじゃないか」

「どうして、それを」

 的確に言い当てられ鼓動が早くなる。この人には底知れない不気味さがある。

「ヒサカはマナと交流のあった数少ない人物で魔法使いだ。おまけに協会にも滅多に顔を出さない変わり者。君が何をしようとしているのかは僕にはわからないが、脱走した君が頼るとすれば彼だろう」

 一体どこまで知られているのか不安になる。そして同時に、この人のことは下手に刺激してはいけないと頭の中で反芻していた。

「この村に行くといい。僕も詳しい場所は知らないが、ヒサカはそのあたりにいる」

 そう言って地図を渡された。赤い丸印がされていて、そこに行けと言っているらしい。ルーインを信用していいのか少し悩んだ。

「そう警戒しなくていい。僕は君の味方だ。協会の方にもうまく話をつけておいてあげよう」

 微笑んでそう言うと踵を返す。やっと離れられると思い、ほっと胸を撫で下ろしていると、ルーインは忘れていたと振り返った。身が強張る。

「それと、テレサニアには気をつけろ」

「え……。それってどういう……」

 それ以上は何も言わずルーインはその場を去って行く。完全に姿が見えなくなったのを確認して地図に視線を落とした。

「ユーイ、あいつの言うこと信じるの?」

「他に当てもないし、東の国をゆっくりと回って探す時間はきっとないと思う。もう協会の人にも見つかっちゃったわけだし。ひとまず行ってみるよ」

「わかったよ。何かあったら対応できるようにしておくらから、ユーイも必ず指輪はしておいてね」

「うん、お願い」

 そう言って私は鞄から指輪を取り出して嵌めた。

「行こう、オド」

「うん、行こう、ユーイ」

 そして私たちは次の目的地へと向かう。




「全員殺されたと言うのは何かの冗談ですか」

「いいえ、本当です。ユーイを追わせていた者達から、ユーイを発見したと言う連絡があったきり音信不通になってしまったので、確認させたところ全員殺されていました」

 協会に届いた訃報を、私はにわかに信じられなかった。

「ユーイが彼らを殺したのですか」

「証拠はありません。しかし、魔法を使用して殺されたのは間違いないかと」

「なるほど。魔法ですか」

 部下からの報告に私は眉間を押さえる。先日から頭痛が続いている。

「彼らの遺体は回収していただけましたか」

「はい、現在こちらに運んでおります」

「丁重に扱いなさい。家族には私が話しましょう」

「テレサニア様の手をそこまで煩わせるわけにはまいりません。私どもで対処致します」

「いいえ、元はと言えばユーイを逃してしまった私の責です」

 あの夜、ユーイの脱走を許したことで部下が殺害された。逃すべきではなかった。そして、後を追うならば自分がやるべきだったのだ。

「その後のユーイの行方は掴めていますか」

「いいえ、消息不明です。おそらく東の国にはいるはずですが、イーストベルからは移動しているでしょう」

「東の国は小さな村落が多くありましたね。虱潰しというのは難しいでしょう」

 東の国にユーイが向かった理由が分かれば探すのは難しくない。

「東の国にはヒサカ卿がいましたね」

 東の賢者ヒサカ。ヒサカとはまだ顔を合わせたことがない。ちょうど私が魔法使いになる少し前に協会を離れ東の国に居座っているという噂を聞いている。マナと親しかったという噂も。ならば、弟子としてマナと行動を共にしていたユーイと面識がある可能性がある。

「ヒサカ卿を探せますか」

「はい!」

「十分に気をつけてください。身の危険を感じた場合はすぐにその場を離れ、私に連絡するように」

 敬礼をして走り去る部下を見送りながら、私は胸に残る疑問を拭い去ることはできなかった。ユーイを追わせていたのは私が育てた協会兵達だ。並の鍛え方はしていない。彼ら3人を殺害したというのであれば、相手は相当の手だれに違いない。

 しかもそこには魔法を使用していた痕跡があったというならば魔法使いを疑うのは当然だ。そしてその場にいた可能性が高いのはユーイ。

 ユーイには最強の魔法使いであったマナを殺しているという実績がある。だからユーイを疑うのは当然だ。

 しかし、と私は思う。

 ユーイと直接手合わせをした私には確信があった。

 ユーイに人は殺せない。

 私への攻撃の瞬間、全てにおいて躊躇があった。あまりの彼女の甘さに私も呆れたものだ。

 だとすれば、誰が私の部下を殺したのか。

 執務室を出たところで、扉の前で私が出てくるのを待っていたであろう人物がいた・

「シーヴェルト卿、何か用ですか」

「テレサニア、ユーイを追っているのか?」

「脱走した賊を野放しにはしておけませんから」

 それを聞くとシーヴェルトは顔を顰めた。

「クロックエンド様も、ユーイの事はしばらく放っておいても問題はないと言っていただろう。今は活発になっている科学派の動向を注視しておくべきだ。現協会最強である君が力を割くべきことを私怨で間違えないほうがいい」

「私怨?もちろん科学派の動向については警戒しています。あなたこそユーイの脱走を軽視しすぎているのではありませんか。彼女はマナを殺しているのですよ。協会にとって危険な存在であることに間違いはないでしょう」

 シーヴェルトがため息をつく。

「とにかく、ユーイに執着するのはよすんだ、テレサニア」

「あなたのそれも個人の感情ではないのですか」

 シーヴェルトは軟禁されているユーイの面倒をよくみていた。それで情が移ったというならば納得のいく話だ。

「それはないと言えば嘘になるかも知れないが、協会の長であるクロックエンド様がそう言っているんだ。君は協会に叛逆するつもりなのか」

「叛逆するつもりなどありません」

 話は平行線だ。

 私はユーイの脱走をこのまま許すつもりはない。

 しばらくの沈黙があった。

「君がユーイを危険視する理由は何だ」

「最強の魔法使いを殺した魔法使いだからです」

「なるほどな」

 悩んだような仕草を見せる。

「ならば一つ取引をしよう」

「取引とは」

「ユーイを見逃してやってくれ」

「突然何を言い出すかと思えば理解に苦しみますね。あなたはどのような対価を払うおつもりですか」

「ユーイの秘密を一つ教えよう」

「ユーイの秘密?」

 意外な一言に私は少なからず動揺した。ユーイの秘密とは一体何なのか。興味がないと言えば嘘になる。

「それが私に何の関係がありますか」

 興味はあるが目先の事情とは別だ。ユーイを見逃すほどの理由になるとは思えない。

 シーヴェルトは私の質問には答えない。答えられないのか。

「シーヴェルト卿、先ほど私の部下がユーイの潜伏先であろう場所で殺害されました。そこには魔法を使用した痕跡があったと聞いています。殺したのはユーイだと思いますか」

「君の部下が?」

 驚いた後、彼はしばしの逡巡をして答えた。

「違うだろうな」

「そう思う理由は何ですか」

「それを聞けばユーイを見逃すか?」

「それとこれとは話が違います」

「その理由はユーイの秘密に関係しているとしてもか」

 ため息が出た。この男はどうしてもユーイを見逃してやりたいらしい。私の部下をユーイが殺せない理由がもしも甘さ以外にあるのだとすれば、それは確かに気になる点ではある。

「理由によっては見逃しましょう」

「それでは取引にならないだろう」

「では一つ、質問をさせてください」

「ああ、いいだろう」

「ユーイが今後、私の部下を殺す可能性はありますか」

「ないだろうな」

「何故そう思いますか」

「強靭に鍛えた君の部下だろう。彼女に殺せるはずがない」

 意味がわからなかった。鍛えているとは言え、私の部下は魔法使いではない。

「ユーイではまず勝てないだろうな。それに、彼女は甘い」

「甘さには私も同意です。しかし、勝てないことはないでしょう。ユーイは最強の魔法使いであるマナを殺しています。その気になれば、あなたや私も彼女に殺される可能性はあると思いますが」

「それはないだろう」

「何故そう言い切れるのですか」

「私はユーイの秘密を知っている」

「その秘密を知れば、私もその意味がわかるということですか」

「ああ」

 私は目を瞑った。

 ユーイと戦闘した時から、一つ思い当たることがあるしかし確証はない。もしかすると、それをシーヴェルトが話そうとしている秘密が後押しするかもしれない。

「いいでしょう。誓いを交わしましょう」

「いいだろう。彼女は−−−」

 ああ、やはり。

「約束だ、テレサニア。ユーイのことは見逃してやってくれ」

「命は見逃します」

「どういうことだ?」

 シーヴェルトが私を睨んだ。

「直接ユーイに会って確かめたいことがあります」

 そういうとシーヴェルトは納得いかない表情ではあったが、諦めたのかため息をついてその場を立ち去った。

 頭痛が酷い。

 しかし、休むわけにはいかない。ユーイに会わなければならない。部下に後のことを任せ、私は協会を出た。

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