第16話 二人きりの時間
————翌日の朝、俺は高熱を出した。
当然である。
隣の席の生徒がプリント類や宿題などの連絡を済ませるために放課後休んだ生徒の家に訪問するのが暗黙の了解だった俺の学校では、一花さんが俺の家へやってくる。
家族は仕事で全員いない。
俺はだるい体でゆっくりとドアを開ける。
「…………辛そうね。はい、プリント」
俺はプリント類を受け取り、宿題の内容を聞く。
『突然の豪雨に体調を崩されて猫八様、可哀そう……』
――――――もっとそばに居て差し上げたい。
彼女の心の声でそれを聞いた瞬間、俺の胸は激しく締め付けられる。
一花さんは名残惜しそうに「それじゃあ……また学校で」と淡々と言い放つ。
「…………あ……ありがとう」
俺が言った瞬間、突然の雷雨。
「よかったらあがっていきますか?」
「…………そうね」
俺の部屋に初めて女性があがるという緊張感。
飲み物も用意できなかったが、彼女は冷静に「…………気にしないで」
といった。
俺と彼女の気まずい沈黙。
俺は独り言のようにつぶやいた。
「情けないな」
一花さんはそれを聞いて以前沈黙を保つ。
その内心は俺への心配の声でいっぱいだった。
「俺なんか……」
自然に出そうになった自己批判の言葉を吐きだそうとしたら彼女は、ゆっくりと口を開く。
「…………それは違うわ」
俺はうつむいた顔を彼女の方に向ける。
そして向けられた彼女の表情には温かい微笑みだった。
「覚えているかしら、あの日のことを」
俺は沈黙で否定してしまう。
「……無理もないわ、かなり幼かったころのことだもの」
そうして彼女は語りだす。
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