第15話 悩み
一花さん……いや一花は振り返ってみれば俺にとって憧れだった。
孤高で才能の塊で美人。
いつもどこか憂いのある表情や冷静沈着な態度がかっこよかった。
どこにでもいるような普通な人間だと俺は俺自身のことをそう思っていた。
いつからそんなふうに自分のことを卑下にしようとしていたのだろうか。
俺は彼女に聞きたかった。
俺のどこが好きなのかを。
だから執事にそれだけが気になって尋ねたが、執事はそれを当然その返答を断った。
「それはこれからお付き合いしていけばわかることです。私などが口を出す問題ではありません」
そりゃそうだ。
俺は怖かった。
誰かに好かれた後、それを失望させるのが。
いつも俺は楽をする方法ばかり選んだ。
いつだって、人に気を遣ってしまう。
やがて相手の嫌なことに気が付いてしまうか俺の嫌なところを相手に気づかれてしまう。
そんなことをごちゃごちゃ授業中に青空を見ながら、考えていた。
つまり、何が言いたいかと言えば告白する勇気も彼女の告白を受け止める度胸も俺にはなかったのだ。
隣の彼女をふと見つめる。
彼女はどこか嬉しそうに授業を受けていた。
『今日は放課後にどんなことが待っているのでしょうか……楽しみですわ!』
そんなこんなで一日が終わろうとして突然の豪雨。
傘もささずに俺は走った。
言葉にならないもやっとした感情を雨でごまかしたい。
そんな気分だった。
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