第11話 ガチャガチャ
子供が大好きで大人もついついはまってしまう大体三百円くらいで買えるもの。
それがガチャガチャである。
可愛らしいアクセサリーなどの小物が中心であり思わず俺もガチャガチャがあると買うことこそ稀だが、そのずらりと並んだガチャガチャ台のラインナップを見てしまうこともしばしば。
『私も、人並みにおしゃれとかしてみたいですわ……でも学校の規則やお家の体裁もありますし……』
今朝。
学校で、そんな悩みを内心思っている一花さん。
俺は何気なくその助け舟としてぽつりと呟く。
「今日はおもちゃ屋にでも寄ってくか」
俺がそういうと彼女は興味深そうな視線を俺に浴びせるが、俺が振り返るとあわてて視線を前に戻す。
『おもちゃ屋さん……幼いころから英才教育を受けていた私にとってあこがれの場所……』
そんな寂しげな表情をするなよ。
「誰か一緒に来てくれないかなぁ……」
俺は悲しいことにあんまり友達……いやほとんどいないのだ。
『!』
彼女はこちらに再び視線を向けると心なしか目から星がでそうなほど好奇心に満ちている。
「…………まぁいいや、一人で行くか」
『どうして、私に声をかけませんのよ!』
いや、よくよく考えてみたら、いきなり馴れ馴れしく声をかけたらファンに何されるかわからないし。
そうしてきた近所のおもちゃ屋さんで俺はガチャガチャをやる。
好みのガチャガチャがあったけど、いざ金を払って出てきたのはあんまり好きなのじゃないなぁ。
いつしか後ろに自然にいる彼女に俺は言う。
「よかったら、その……もらってくれませんか?」
『いいんですの!』
かなり女性向けの可愛らしいマスコットが当たったので、俺は彼女に渡す。
しゃがみ込んで前髪をかき分ける一連の優雅な仕草をして俺のガチャガチャをやる様子を見ていた彼女はその言葉を聞くと、立ち上がり、お菓子をもらう子供のように両手でそれを受け取る。
「…………まぁ、もらっておきましょう」
言葉とキラキラな瞳の違いに俺は微笑ましく思いながら俺は帰る。
翌日、彼女はカバンにそれをつけて、ファンクラブの一部でその変化に驚きおののいたというらしい。
確かに、彼女の表情は心なしか緩んでいる。
『カバンにこんな可愛らしいアクセサリーがつけられる日が来るなんて……』
たかだか三百円でこんなに無邪気に喜んでくれるなら、確かに男が女性にいろんなものをプレゼントする心理がわかる気がする。
いいことをした気分だ。
俺もなんだか嬉しい。
そんなのんきな日常をおくっている。
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