うの付く物

ふつれ

第1話

「なんでドヨウなのに学校があるんだ~~」

「それは、今日が水曜だからだよ」

「おかしい、みんなドヨウだって言ってるのに……」

 ……

 ふざけたことを言っている明里を無視して、私は昼食を食べる。お昼休みは有限なのだ。

 購買で買ってきた焼きそばパンは程々においしい。

 私が取り合わないことが不満なのか、明里は唇を尖らせる。顔が良いので、そういう可愛らしい仕草がいちいち様になる。もしうちの学校が共学だったら、クラスの男子たちはイチコロだろう。

「……土用の日といえば『うのつく物』だけど、何か食べた?」

 ずっと塩対応するのも可哀想なので、少しは話にのってやることにした。

 明里は調子よく答える。

「いやー、まだなんだよねー」

 まあ、まだお昼だ。休日でもないんだし、朝食昼食でいつもと違うものを食べようというのも少し面倒かもしれない。

 私も、まだ特に『うのつく物』は食べてないと思う。

「『うのつく物』って言ったら、やっぱりうなぎかな~。そうだ、美咲、後でうなぎ奢ってよ」

「いやいや、たけえわ」

 うなぎさんは、一高校生には高嶺の花すぎる。

「え~、じゃあ、うどんで我慢してやるか」

「嫌に現実的なラインに落とすな。私は奢らないからね」

「け、けちだ……」

 いやいやいや、どうして私がいけないみたいになっているんだ……

 明里は顔が良いせいか、周りの人に良くされがちだ。本人もそれが当然みたいな顔をしているし、ついつい雰囲気に流されて私も明里の手伝いをしてしまったりするんだけれども。

 流石に今日は流されないぞ。

 私の断固とした態度に諦めたのか、明里は少し話題を変えた。

「そういえば、『うのつく物』ってことは、別に頭文字が『う』じゃなくてもいいのかな」

 ……なるほど?

 確かに、普通に土用の丑の日の『うのつく物』と言えば、うなぎ、うどん、うり、うめぼし、などなど、頭文字に『う』がつく物を思い浮かべがちだが、『頭文字がうの物』じゃないんだから、実は言葉の中に『う』が含まれていれば良いのかもしれない。

 明里が続ける。

「例えば、トウストとか」

「いや、その『う』は伸ばし棒なんだよな」

 お姉さん、ちょっとおとぼけが過ぎますよ。

「じゃあ、ういろう!」

 それは確かに。

「って頭文字も『う』じゃしょうがないぞ」

 突っ込んでいるばかりいる私だが、じゃあ一つでも例を挙げてみろと言われると意外と難しい。人間不思議なもので、頭文字が『う』と決まっていれば考えやすいのに、途中に『う』が入るってだけだとどうも考えづらい。

 ういろうか……おんなじ和菓子の系統で何か……あ、そうだ。

「まんじゅう、とか」

「あー、確かにー」

 明里が手を叩く。しかし、すぐにその顔が曇った。

「でもあたし、まんじゅうはちょっと苦手なんだよね」

「へー、意外だな」

「なんかあの、べたっとしたあんこの甘さがちょっと……」

「ふむ、それは良いこと聞いた」

「……ちょっと、美咲?」

「気が変わったぞ。せっかくの土用の日だ。私が『うのつく物』を奢ってやる」

 いつも明里のペースに乗せられてばかりもいられない。たまには反撃させてもらおう。

「まんじゅうなら確か、購買に売ってたはず。今から買いに行くぞ」

 私は明里の手を引いて教室を出る。

「えー、こわいなー」

 妙な言い回しだとは思ったが。

 明里の声に笑いが含まれていたことに、このときの私は気づいていないのだった……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

うの付く物 ふつれ @ffuture23

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る