第2話 時空がまざるとき

 「あー、狩った狩った。ロインにも良い報告ができそうだぜ」

 「アンタは満足そうだけど……ボクはこんなグロテスクなモンスター見ていてSAN値直葬なんですけど」

 「わたしも調べ事したいのに……ワガママもうやめて〜」


 ネムは満足げに狩ったしっぽをかき集めながら喜んでいるが、他二人は不満げだ。

 ……それもそのはず。


―数分前


 「じゃあさ、わたしたちでジャンケンして勝った人の意見を聞くとかどう?」

 「あー……ボクもそれなら賛成なわけ」


 「えー!俺どうしてもコールドアイ狩りたい狩りたい狩りたいー!!!」


 そう言い、ネムは子供っぽく地団駄を踏み始めた。

 こうなるとラムネもあんみたも手が付けられない。

 気ままで勝手な英雄の子孫、それがネムだから。


 「まぁ……とりあえず帰ろう。今日はもうこんな時間だし。」

 「んー……わかった。俺もロインに会いたいし。」

 「わかったわ〜。お疲れ様〜」


 そう言って三人は帰ろうとする。

 ……と、言ってもこの三人、シェアハウス住居で同居しているのだが。


―――――


 「おーい!ローインーーー!!!」


 ネムは嬉しそうに声を上げる。

 そこにやってきたのは、空色のウェーブヘアーが特徴的な女の子”ロイン”だ。


 「ねぇねぇ、俺今日こんなにコールドアイ狩ったんだぜ!」

 「凄いじゃん〜!よくあんなキモイのとずっと戦ってられるよね、やっぱネムって度胸ある!」

 「おいおい!そっちかよ!」


 そんな感じで、二人は談笑していた。


 「ねぇラムネ」

 「どうしたわけ、あんみた」


 「……さっき、なんとなくだけど空がズレてる感じがしたの」

 「あーね、ソレ、ボクも感じた」


 空がズレる。文字通りの意味だ。

 鍾乳洞から出てきて、三人が空を見上げた時、青い空に浮かぶ白い雲が、まるでラグを起こしたかのように、切込みを入れられたかのように、ズレていたのだ。


 「ねぇネム」

 「ん?どうしたロイン?」


 ロインも少なからず気づいていたようで、ネムに聞き出す。


 「さっきさ、なんか……時空がズレた感じ、しなかった?」

 「あ?俺子供だからわかんねー」


 どうやらこの異変に気づいていないのはネムだけのようだ。


―その時。


 「それの事なら、ボクが教えてあげマスヨ〜」


 一同は同時に声を上げた。


 「「「「……誰?」」」」


―――――


 ラムネとそっくりな顔に、グラデーションのかかった髪。

 そして”不思議の国のアリス”に出てくるいかれ帽子屋を連想させる服の少女がやってきたのだ。


 「まぁ、ボクのことは”マッドハッター”と呼べデスヨ。」

 「そんなことより」

 「この世界は今日から永遠に”2014年”になりましたデスヨ。もう2021年には戻れないデスヨ!」


 どうやら、さっきの時空のズレと関連があるようだ。

 尤も、この時点では意図が不明だが。


―――――


 「そんなコトして、なんか意味があるわけ?」


 ラムネはマッドハッターに問い詰める。


 「ラムネラジオ、アンタならよく分かるハズデスヨ。これはアンタが望んだ世界。そして、そこのガキンチョ」


 そう言い、マッドハッターはネムを指す。


 「あ?俺もう12だし!ガキンチョじゃねーし!そも意味わかんねーし!」


 「まぁ落ち着けデスヨ。この2014年の世界はアンタにとっても理想郷。」


 「……はぁ?」


 「ちょっとちょっと、さっきから言ってる意味が分からないんだけどあんた、巫山戯るな。」


 そう正論を突きつけたのは、ロインだ。


 「まぁ、アンタには関係ないカラ。」

 「ボクはそこの水色と銀色とピンク色の理想を叶えに来たダケ」


 「あのさ……わたし、この世界では敵討ちなんてできない。だから戻して」


 頼み込んだのはあんみた。しかしマッドハッターは飄々とした態度でこう語る。


 「ピンクの悪魔、アンタにもいずれ解るデスヨ。この世界がみんなの理想郷であり、アンタたちが望んだ世界である事を。」


 「それじゃ、ボクは用事があるので。」

 「あるじゃあのん!」


 そう言い、マッドハッターは姿を消した。

 まるで意味がわからない。タイムスリップとも違うようだ。


 ……だって、今のメイプルワールドは、

2021年であり、2014年なのだから。

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