第六話: 2名様、ごあんな~い!





 ……。


 ……。


 …………で、だ。



 とりあえず事情を説明して着て貰うから……という感じで一旦別れた剛の下に、再び番町から連絡が有ったのは……かれこれ、2時間後の事だった。


 待ち合わせ場所として定めたのは、学校と剛の自宅との、ちょうど中間の位置に有る、マクドナルドの2階だ。


 そのマクドナルドは、立地的な関係から駅前などにある店に比べて広々としている。店内も綺麗で空調も聞いており、平日とはいえ……それなりに混雑していた。


 どうして2階を選んだか……単に、喫煙スペースである2階の方が空いているからなのと、レジがある1階よりも、外からも店員からも、監視の目が少ないと思ったからであった。


 そして、実際に剛が店に入った時……1階に比べて、2階の方が空いていた。時間帯の恩恵も、有ったのだろう。


 客は点々と席に座っているだけで、変なやつは居ない。


 ちらりと店内を見回した剛は、隅の席……上手い具合に角の席が空いているのを見つけたので、そこに腰を下ろした。



 ……なんだか、妙な気分だと剛は思った。



 一旦、家に戻ってシャワーを浴びた。何時もなら頼んでなくても顔を見せに来る女王が、こんな時に限って姿を見せなかったのは……まあ、仕方ないとして。


 中学の時は、何度か当時の友人たちとこうして待ち合わせをした覚えがあるが……どうにも、感覚が違う。



(……いや、ああ、そうか)



 注文したオレンジジュース(Mサイズ)のストローを咥えながら、少し間を置いてから、剛は気付いた。



(考えてみれば、これから風俗店に連れて行くんだよなあ……そりゃあ違うだろ。しかも、ほぼ初対面の男二人を連れて……)



 気まずい……そう、気まずいのだと、剛はため息を零した。


 考えてみれば、日本でおそらく初ではなかろうか。


 己がオーナーを務める風俗店に、同級生を招待するというのは。しかも、自分も相手も学生であり、未成年である。


 風俗そのものが『そんな馬鹿な話があるか』という言い訳で成り立つ、限りなく黒に近いグレー。露見すれば、只ではすまない。


 けれども、それをしなければならない。そうしろと、『異世界人』である女王たちに命令されてしまったのだから。



 ……正直な気持ちとしては、だ。あっさり二人も見つかった、それ自体は、幸先が良いのは確かだ。



 『課題』さえクリアすれば優しい『夢華屋』だが、言い換えれば、『課題』をクリア出来なければ、その優しさはあっさり剛の前から消えてしまう。


 それは、言葉にされなくとも……何となく、剛は察していた。



 不満は、当然有る。



 しかし、始まりから今に至るまで、全てが一方的に成されている事でも、逆らう事は出来ない。それが出来るような相手ではないからだ。


 なので、事の成り行きが色々あるにせよ、剛としてはトラブルなく『課題』を……いや、この場合においては『仕事』を完遂出来れば、それで良いと……ひとまず、己の中で折り合いを付けた。



(……ここに居る人たちも、まさか俺たちがこれから風俗に行くだなんて夢にも思っていないだろうな)



 そうして、少しばかり気分が持ち直した剛は……ちらりと室内に視線を向けながら、内心にて溜息を零した。



(……とりあえず、残りは13人。下手に条件に合わない人を連れていけば、俺の評価が下がりそうだし……上手い事、探さないとなあ)



 バックに『異世界人』が付いているとはいえ、真正面から『条件』を尋ねる度胸はまだ、剛には無い。というか、常識的に考えたらそんなの無理だ。


 だが、恥ずかしいとか尋ねにくいとか大目に見て貰えそうな感じはまるでなく……その内、覚悟をしなければ……と。



「すまん、待ったか?」



 掛けられた言葉に、ハッと我に返る。


 見やれば、お盆を手にしたまま軽く頭を下げる番町と、次いで、その後ろに着いて来ている連れのボーイッシュな少女……え、女?



(え、女? なんで女を?)



 思わず、剛は番町に返事をする事もせず、ジロリと少女を見やる。女顔の男かと思ったが……改めて見ると、やっぱり女だ。


 それも、率直な感想は美少女。で、その彼女は、カジュアルな格好をしていた。


 少しばかりくせ毛のショートカットに、何かしらのキャラがプリントされたシャツ。膝までのズボンから伸びる足はすらりと細く、真っ白だ。


 その手は……番町の裾を掴んでいる。


 長身で顔立ちの整った番町と、このボーイッシュな少女……パッと見た限りでは、彼氏彼女……でなくとも、親密な関係なのではと思ってしまうのも、無理は無かった。


 だからこそ……剛は困惑した。


 思い返せば、番町はダチを連れてくると言っただけで、同性を連れてくるとは言っていなかった。だからといって、まさか女を連れてくるとも思っていなかった。



 ……いったい、どういうつもりだ?



 思わず、剛の視線が番町と少女を行き来する。


 すると、視線の意味に気付いた少女は、苦笑と……僅かばかりの不機嫌を滲ませながら、剛から視線を逸らした。



「……あー、その、座っていいか?」



 当然、それに気付かない番町ではない。


 とりあえず、何時までも立たせるわけにもいかないと思った剛が促せば、二人は剛の対面に座る。そして、二人ともが一口、ジュースで唇を湿らせると。



「その、信じられないと思うが……こいつ、こう見えて男なんだよ」



 にわかには信じ難い発言が、番町より成されたのであった。失礼な話だが、剛は……疑いの眼差しを向けたのであった。



 ……。


 ……。


 …………まあ、詳しく話を聞けば、だ。



 何処から見ても女にしか見えない、このボーイッシュな男(仮)の名は、鬼瓦秀一おにがわら・しゅういち


 剛は知らなかったが、同じ高校に通っている同級生であった。それに関しても、生徒手帳を見せられた剛は(心底驚いたが)納得した。


 それで、だ。


 見た目とは裏腹の厳つい名前ではあるが、重要なのはそこではない。彼は……中々に複雑な経緯の果てに、今の容姿になっていることを教えられた。



 簡潔に述べるのであれば、秀一は……物心付いた頃からとして育てられていたらしい。



 それ故に、諸々の仕草や振る舞いは完全に女性のソレ。生来の見た目や体質の影響もあって、今でも見た目は女性にしか見えない。


 そのせいで、これまで色々と嫌な事があったらしく、今の自分を吹っ切る為にも……という想いで、ここに来たのだということを涙ながらに語ったのであった。



「…………そうか」



 正直に言おう。


 まさか、風俗に招待するというだけの話に、そこまで思い詰めた人物が来るとは考えていなかった……というのが、剛の本音であった。


 いや、それ以前に、アレだ。そもそも、マクドナルドでこんな重い話をするなと、剛は言いたかった。


 ……幸いにも、剛たち3人が座った席は店の端っこで、角にある。


 それ故に、剛が話し始めてから終わるまで、誰も気付いていない。加えて、長身で体格もある番町が壁になっているおかげで、誰も秀一の涙に気付いてはいなかった。



「……お前、何でこんな重いのを抱えているやつを連れてきたんだよ。何かほら、こう……どうしたらいいか、分からなくなるだろ」

「すまん。でも、こういうのは第三者が説明すると長くなるし、実物が直接話した方が、色々と判断しやすいだろうなあって思って……」

「判断? 何を?」



 番町の言葉に、剛は首を傾げた。すると、「……私の、この見た目の事だよ」ようやく涙を止めた秀一が、自らの顔を指差した。



「貴方も間違えた通り、私の見た目は女性だ。だから、男扱いも女扱いもされなくて、せいぜいヌイグルミ扱いなんだ」

「ああ……何か納得した」

「仕方ないとは思うんだ。言葉遣いだって、小さなころから強制されたから染み着いてしまった。声だって、女性にしか聞こえない。男の恰好をしていても、そういう恰好をした女の子として見られてしまう」

「……正直、ごめん」

「貴方は悪くないよ。自分でも、そう見られても仕方ないって思っているから……でも、ここまで見た目が女性だと、男の振る舞いをすると逆に痛々しそうな目で見られてしまう」

「ああ、うん」

「おかげで、寄って来るのは事情を知らない男と、レズビアンの女。そして、私みたいに女の子にしか見えない男……いわゆる、男のが好きなゲイだけなんだ」

「そ、そうか、そんな呼び方をするのか……」

「何も悪い事していないのに、騙したなと一方的に罵られる。私みたいなのが好きな女も、この姿の私が好きなだけであって、少しでも男の部分を出そうとすると……分かるでしょ?」

「…………」

「私は、トランスジェンダーでも何でもない。私は、自分が男であると認められたいんだ……お願いします。私は、男に成りたい」

「…………」



 真剣な眼差しと共に頭を下げた秀一の姿に、剛は何も言えなかった。


 彼の隣で、同じように頭を下げた番町に対しても……同様であった。



「……とにかく、顔を上げてくれ。俺は、誰かに頭を下げられるほどに偉いわけじゃないから」



 けれども、黙っているわけにはいかない。


 二人の頭を上げさせた剛は、残っていたジュースを一気に飲み干す。それを見て、二人も慌てて自分たちのジュースを一気に飲み干す。


 そうして、固唾を呑んで返答を待つ二人を他所に、剛は大きなため息と共に腕を組んで……自分なりに、上手い言葉を組み立て……それを、素直に告げた。



「とりあえず、大丈夫かどうかは俺が判断する事じゃない。条件に見た目は含まれていないから、おそらく大丈夫だとは思うけど……俺の方からも、少しは声を掛ける。それで、いいか?」



 そう妥協案を示せば、二人は……特に、番町の方が嬉しそうな顔をしたのを見て。



 ――こいつ、やっぱり良いやつだな。



 そう、剛は思ったのであった。








 ……と、いう感じの些細なハプニングを経た後。ひとまず、最低限の説明を終えた剛たち3人は、『夢華屋(日本店)』へと向かった。


 さすがに、最寄の駅まで移動して、そこからバスに乗って近場まで……は、遠すぎたので、タクシーを使用する事となった。


 これに、番町と秀一の二人も割り勘という形で支払おうとしたが、剛は固辞こじした。


 理由としては、今回の仕事に関して、事前に経費として前金を貰っており、そこから移動費などを出すようにと厳命されているからだ。


 ……ちなみに、雑費という名目で幾らか私用に回しても良いと言われているので、さっそくお菓子などに流用しているが、それでも余分に渡されているので足りない事はない。


 なので、招待するというよりは、福引でタダ券貰った程度の感覚で受け取ってくれという感じで二人を宥め……ているうちに、何事もなく到着した。


 すると、案の定、二人は緊張で身体を固くした。まあ、無理も無いなと剛は思った。


 建物自体が、一介の学生では入る事は無いぐらいに豪華なのもそうだが、これから……色々とスルのだと、ほのかな予感を二人に与えていたから。



「……大丈夫、終わった頃には慣れるから」



 もちろん、それは剛が通った道でもある。


 最初の頃の自分も、こんな感じなのかな……と思いつつ、受付横を通り、従業員用の通路へと入り……『スタッフのみ』と印字された扉をノックする。


 ……室内には、女王だけがソファーに座っていた。



「こんにちは。剛くんから話は聞いていると思うけど、私が『夢華屋』のオーナー……まあ、ボスである、女王よ。気軽に、女王さんって呼んでね」



 そう言って、女王は朗らかに笑った。その笑みは実に可愛らしく、美人なのに『可愛らしい』という形容詞を3人が同時に思い浮かべたぐらいであった。


 ……ある程度見慣れた剛は別として、二人は違ったようだ。


 ちらりと剛が視線を向ければ、頬を真っ赤に染めた秀一は……それはもうカチコチに心身を硬直させ、出されたお茶すら緊張のあまり飲めないようであった。


 大して、番町の方は顔色も変わらず、出されたお茶もゆっくりと飲んで、落ち着いている。しかし、そう見えるだけで、視線があちらこちらに動いているのが剛には分かった。



(……自分が通った道だからこそ分かるが、傍からはバレバレだったのか)



 その姿を見て思い出す、つい先日の自分を思い出し……堪らず、悶えそうになる。というか、少しばかり頭を抱えたくなった。


 けれども、そのように内心にて嵐が吹き荒れている非童貞を他所に、童貞2人は女王からの注意事項と最終確認を真剣な様子で聞いていた。


 まあ、注意事項とは言っても、そう大した中身ではない。


 当初は剛も、医者の診察結果ぐらい真面目に集中して聞いていたが、要は、支払い方法や施設内の説明、全体の一連の流れ、他には、やって良い事と悪い事を簡単に述べているだけだ。



 ……で、それらを大まかにまとめると、だ。




 一つ、暴力的な行為は御法度だ。


 事前に入念な契約を交わした後ならば大丈夫だが、その際、個室内は更に重点的な監視が成される。これは、契約に反する行為を行っているかの確認だ。


 必然的に快楽を伴う行為であるが故に、平時では利く理性のタガが外れてしまう事が多い。それが特に、世間一般では眉根をしかめる行為であればあるほど、その傾向は強い。


 どこまでOKかは担当する夢華嬢によって異なるが、基本的には嬢が止めてと口にした行為は中止する……それで、ほぼイケるとのこと。



 一つ、店や嬢の指示に従う事。


 例えば、『夢華屋』では入店の際に、性病の有無などを人知れずチェックされている。そこには異世界的な技術が駆使されているらしいが、そこでNGが出れば即Uターン。


 この時、凶器に該当する物もチェックされている。なので、ここでゴネて進もうとすれば、警察やヤクザよりもよっぽど怖い保安員が出てくるとのこと。


 他にも、行為を始める際にシャワーや歯磨き等(人によっては、爪切りもするのだとか)を促されるが、これに逆らってはいけない。


 これらはあくまでお互いの衛生面を考えたうえでの指示であり、シャワー等をしないまま行う場合は、そういったプレイの一つとして別途料金が課せられるようになっている。



 一つ、時間厳守であること。


 基本的には嬢が到着してからカウントが始まり、契約で定めた時間を1分でも過ぎれば追加料金。店や嬢の不手際による場合は別と、けっこう細かい。


 もちろん、店側もそこまで鬼ではない。意図的に延長代金を踏み倒そうとしない限り、着替えなどで手間取ったぐらいは、ある程度見て見ぬフリをしてくれる。



 一つ、スキン(コンドームのこと)に関してである。


 これは剛も最初は混乱した事だが、実は、『夢華屋』が他の風俗店と比べて最も異なるのは設備の豪華さや嬢の容姿やサービスの質よりも、この部分。


 なんと、驚くべき話だが……『夢華屋』では、基本的にノースキン。つまり、避妊具の不使用が原則なのだ。


 当然……という言い方も何だが、料金は初めから組み込まれている分だけ、少しばかり割高だ。


 その為、スキンを使用すると話して料金を下げた後で、いざ行為が始まってから……店側のミスという形でスキンを使わず、差額を踏み倒そうとする者が時々居る……らしい。


 そういった事が発覚した場合、受付に設置してあるカメラを即座にチェックされる。


 店側の落ち度であれば差額の支払いは無し。客側の落ち度であれば、罰金と厳重注意。これは初犯の場合に限り、二度、三度と続けば……命の保証はしないとのこと。




 そして、最も重要なのは……『夢華屋』は、『夢華屋』のルールによって動いているということ。




 実は、『夢華屋』が管理する敷地内は全て治外法権。つまり、『夢華屋』は他国の領地であり、この敷地内においてはその国の憲法の一切が適用されない。


 つまり、通報を受けても、警察は敷地内に一切踏み込めないのだ。


 加えて、実質的に世界の支配権を握っている異世界人へのちょっかいは、暗黙のタブーとして徹底されている。


 なので、敷地内に足を踏み入れたという理由で客を逮捕する事は出来ないし、それどころか、敵対行為とみなされる可能性を考え、職務質問すら……ということであった。



「……え、それって大丈夫なのか?」



 一通りの説明を聞き終えた直後。思わずといった様子で零した番町の言葉に、横で聞いていた秀一も青ざめた顔で頷いていた。


 ……まあ、そうなるよなあ。と、言うのが、剛の感想である。


 女王たちは脅すつもりなど無いとは思うが、見方を変えれば、非常に危険な場所であることを明言したようなものである。



「ん~、そういうわけじゃないんだけど……ほら、邪魔が入ったら興醒めしちゃうでしょ? そういうものだと思ってくれたらいいから」

「そ、そうですか……」

「う~ん、固い固い。これは悪い事とかじゃなくて、そんなふうに怖がられるようなものじゃないんだけど……どう説明したらいいのかしら……」



 ――チラリ、と。



 演技ではなく、本当に困った様子の女王から視線を向けられた剛は……内心よりこみ上げてくる苦笑を堪えつつ、無言のままに頷いた。



(この人、変に考え過ぎるせいなのか、天然な部分があるよな……)



 言葉を選ばず直球に言えばいいのに……そう思いつつ、室内に置かれたガラス扉のロッカーより㊙と印字されたファイルを取り出すと、それをパラパラめくり……二人の前に差し出す。



 そこには……非常に美しい少女の笑顔が有った。



 背丈や見た目から、12、3歳ぐらいと思わしき、モデルかと思うぐらいに美しい少女の写真とプロフィールが載っていた。


 背丈はそれほど高くはないが、色気づく年頃なら、誰もが放ってはおかない容姿である。


 その証拠に、「……綺麗な子だね、芸能人?」緊張していた二人も思わず目を瞬かせ、肩の力を抜いたぐらいで……っと。



「……なあ、一つ聞きたい」



 真っ先に気付いた番町が……そっと、名前の横に印字された( )の部分を指差した。



「ここにある、31っていうのは、まさか……」

「そう、実年齢。この人、31歳のアラサーだよ」

「……嘘だろ?」

「本当らしいよ。それで、今は無いらしいけど、昔は向こうでも多かったらしいんだ……未成年を働かせているっていう通報が……」

「それは、まあ……この見た目なら、仕方ないだろ」

「年齢その他諸々、公的機関から取り寄せた正式なモノなのに、『そんなものは金で作った偽物だ!』って言い出されたら……もう、立ち入り禁止の治外法権にするしかないってのが夢華屋の主張なんだ」

「そ、そうか……」

「通報の度に警察に踏み込んで来られたら、営業妨害どころの話じゃない。そして、入店そのものをタブーにするのも禁じた結果、物々しい言い回しになった……って感じかな」



 そこまで言い終えた辺りで、チラリと剛は女王を見やる。


 すると、満足気な様子で頷いた女王より、視線で促される。


 それを察せられるようになっている剛は、「それじゃあ、選んで」少しばかりの気恥ずかしさを覚えながら……ファイルをとんとんと指で叩いた。



「へ? 選ぶって?」

「今回の相手。率直にいえば、この後SEXする女性をこのファイルの中から選んで」

「せっ――!?」



 あまりにも直球な言い回しに、困惑していた二人の頬が一気ぶ紅潮した。



「先に言っておくけど、全員成人しているから。見た目が未成年に見えたとしても、本当に見た目だけらしいから」



 けれども、そんな二人の動揺なんぞ、一度通った道である剛の前には通用するわけもなく。



(……これで良いんだろうか)



 我ながら、信じられない立ち位置に成っているな……と、内心にて剛は溜息を零すのであった。



「――それじゃあ、私たちは一足早く行きましょうか。いっぱい汗掻いたみたいだし、背中流してあげるね」

「え?」

「早速、二人も連れてきてくれたんだもの。複雑な気分なのに、私たちの為に動いてくれたこと……たっぷり、お礼するからね」

「い、いや、そこまでしてくれなくても……」

「い・い・か・ら……ね、一緒に気持ちよくなろうね❤」


 さすさす、と。



 有無を言わさないままに、剛の急所部分を柔らかく摩り始める女王の、熱のこもった吐息を前に……剛は、流されているなと恥じ入りたい気持ちであった。



「――あ、そうだ、言い忘れていたけど、夏休み明けに、剛くんの高校に異世界人の学生が転入する事になっているから。いわゆる、異文化交流ってやつよ」

「え?」

「現地の事は現地の人に聞くのが一番っていうし、みんな良い子だから。絶対、君を頼ってくると思うから……色々とエスコート、お願いするわね」

「――え゛え゛っ!?」



 けれども、流されようとした瞬間に発生した無視できない爆弾発言を前に、思わず剛の口からは変な声が出たのであった。





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