第五話: 少なくとも、悪いやつではなさそうで……
……。
……。
…………そうして、数日後。
そんな、一目で暑いと直感させられてしまう光景がそこかしこで見られる……猛暑日の最中。
「……連れてこいって言ったって、どうしろと?」
ポツリと、誰もいない教室に零れたその呟きは、当然のことながら、誰の耳にも届くことはなかった。
茹るような暑さの中、身体中からじんわりと汗を噴き出しながら……剛は、体感的にはほとんど馴染みのない、己が所属している教室の自席にて腰を下ろしていた。
……剛は今、学校に居る。
どうして居るのか、それは、単に女王たちより厳命された『験担ぎの為の客』を見つけてくる為であり、滞在しても見咎められない場所がそこであったからだ。
そして、どうしてその為に学校に来ているのか……それは、彼女たちが提示した『客の基準』というか、前提条件が思ったよりも難しいからであった。
というのも、彼女たちが提示した条件は3つ。
一つは、『婚姻関係にない独身の者(恋人が居ても駄目)である』
二つは、『最低でも6ヵ月以内に性行為(準ずる行為も)を行っていない者』
三つは、『性病を患っていない者、あるいは、感染させてしまう類の疾患持ちは駄目』
この、3つである。
一個でも該当していたらアウトで、これに該当しなくとも場合によっては駄目らしく……中でも、一つ目と二つ目の厳しさは凄まじいものであるらしい。
普通、三つ目が一番厳しいのではないかと思うところだが、『夢華屋』にとって、そこは幾らでも対処出来るから、そこまでの問題ではないらしい。
……で、話を戻そう。
特に厳しいのが、二つ目だ。
一つ目はセーフであっても場合によってはアウトという程度の厳しさらしいが、二つ目は問答無用でアウトだ。
剛にはよく分からないが、彼女たち曰く、『他の女の臭いを漂わせたやつは例外なく駄目』らしい。
しかも、それは近々来てくれる15人だけでなく、『夢華嬢』はほとんど例外なく、二つ目に該当する者はアウトだとか。
正直、それを聞いた時、何じゃそりゃあと剛は思った。
だって、臭いなんてそれこそ風呂に入って念入りに身体を洗えば分からなくなる。仮に鼻が利くにしても、二日は間を置けば……絶対に分からないと思ったからだ。
でも、彼女たちは……『夢華嬢』は、違うらしい。
剛には上手く理解出来なかったが、とにかく二つ目に該当する男は、異世界人にとっては吐き気すら覚えてしまうぐらいに酷い臭いを発しているらしい。
近くに居て接触していた(つまり、しばらく話しこんでいた等)程度ならば、事前に風呂に入れば良いだけだからセーフ。相手が近親者であるならば、基本的にはセーフ。
性行為に至らなくとも、それに準ずる行為は基本的にアウト。特に、粘膜接触を果たしていた場合は凄まじいらしく、店内に入ることすら拒絶するぐらいに酷いらしい。
説明するのは難しいが、ある種の本能というか、『異世界人特有の体質』らしく、こればっかりは我慢や慣れでどうにか出来る問題ではないらしい。
だから、二つ目は問答無用なのだとか。
……それを考えれば、だ。
開け放った窓の向こうから聞こえて来る蝉の声に耳を傾けながら、「まあ、合理的といえば、合理的かなあ……」剛は誰に言うでもなく呟いた。
……確かに、だ。現代における倫理的な話を除けば、合理的ではある。
実際の事情など剛にとって知る由も無いことだが、少なくとも、剛が調べた限りでは、大学生や社会人よりもよほど基準をクリアできる割合は大きいように思える。
何せ、互いに親の枷というか目が無くなるのがそれぐらいだ。
高校では生活の大部分が学校という枠に組み込まれているが、大学生(あるいは、社会人)ともなれば、場合にもよるがだいたいは自由になる。
それを思えば、高校生の内なら……と、思うのも不自然ではない。
中学生ではなく、高校生というのは……まあ、よほどの例外でなければ精通を終えて身体も成熟し、最低限の知識は有しているだろうという打算もあるのだろうと、剛は推測する。
(彼女なり奥さんなり、あるいはそういう相手が居る人は問答無用で駄目……まあ、事前のトラブル防止策なんだろうけど、でも、そういう体質って本当なんだろうか?)
と、同時に。
(ネットとかで見ると、客として来るならリピーターになりやすいって話だけど、そういうのは一切関係なく却下って……見た目以外の部分も『異世界人』ってやつなのかな、やっぱり……)
と、同時に……彼女たちが語っていた『異世界人の体質』とやらもそうだが、独特な風習があるのだなと、剛は幾度目かとなる溜息を零しながら……さて、と気持ちを切り替えた。
……そんな事よりも、だ。まず、剛が考えなければならないのは、誰を誘うか、それに尽きた。
何せ、剛には親しい友人など一人もいない。
考えると空しくなるが、事実として、誘えるような気の置けない間柄の同性(要は、友達)は1人もいないのだ。
でなければ、夏休みの最中、唾を吐き捨てる気力すら奪ってゆく猛暑の中、特に当てもなく学校に来たりなどしない。
……中学の時……あの事が起こる前は居たが、もうそれは昔の話だ。
仕方ない事であるとはいえ、剛自身の気持ちとしては顔も見たくないし思い出したくもない顔ぶれしかいない。
少なくとも、今更になって『あの時は悪かった』などと言われても……仲良くはなれないだろう。
しかし、そうなると問題になるのが……その、交友関係の狭さで……単純に、誘えそうな知り合いがいないのだ。
(誘うだけなら付いて来るやつはいるかもしれないが……下手に誘うと、その後でどんな悪評が立つか分からないんだよなあ……)
そう、そうなのだ。剛がすぐさま行動に移せない理由が、そこであった。
剛とて、同じ男だ。経緯は何であれ、経験したからこそ分かる。
アレは、ハマる。
現時点でハマり掛けている自分が言うのも何だが、アレにハマらない男は早々いないだろうと……剛は内心にて断言する。
だからこそ、想像してしまうのだ。もし、見方を変えたら、どのように思われるのか……ということを。
……仮に、諸々を逆転してみよう。
自分は、とある女子に恋する男子。
その女子は、それこそテレビでしか見られないような美男子たちと特別な繋がりがある『女』から、その美男子たちとSEXしろと命令される。
その女子は、拒否出来ない。
『女』の真意は何であれ、『異世界人』という強大なバックが居る相手の命令に逆らってどうなるか……それこそ、自殺以外の手段で逃げる道など無い。
結果、自殺しないのであれば女子は美男子たちに身を明け渡す。
それを、見る事しか出来ない自分。どうにも出来ない自分。
助けたくても力は及ばず、ただ心の中で『女』に対し憎悪を募らせ、『異世界人』に憎悪を募らせ、自分の無力さに憎悪を募らせるしかない……そう、普通に無理だ。
仮に、己が女子の立場であったなら、普通に恨む。
恋人関係でもないのに恨むのは筋違いなのだが、そんなの関係なく恨み抜いて……そう、そこだ、そこが問題なのだ。
(今更筋違いの恨みを買うのも癪だし、経緯も考えずに面白半分で広めるやつもいるからな……)
中学から続く悪評も有る事に加え、剛は人間の醜さと卑しさを嫌というほど痛感させられた。故に、剛は基本的に人間というやつを信用していない。
それに加えて、課題が終わった後の、辛うじて残っているクラスメイトたちから向けられていた……あの、異質を見る眼差し。
後でこちら側だけ一方的に『加害者』扱いされるのは嫌だし、どうせ誘うなら互いに納得済みで事を済ませたい。
それが、剛の本音であり、外せない前提であった。
……。
……。
…………けれども、そればかりに固執していては、それこそ夏休みを全部使っても1人も見つけられない可能性は大だ。
「……やっぱり、諦めないと駄目かな」
もう、数える事すら億劫になる、幾度目かとなる堂々巡りの難問。ポツリと零した嘆きと共に、いよいよ諦めてしまおうかと考え始めた剛の耳に。
「何を、諦めるって?」
「――え?」
前触れもなく、唐突に答えたのは。
「諦めるって、何を?」
金髪に目つきが些か悪い、夏服として指定された長身の男であった。
その男は、教室の出入り口から覗き込むようにして剛を見つめていた。服装は剛と同じく夏服のカッターシャツで、上履きの色から同級生であるのがすぐに分かった。
「……誰だ?」
けれども、見覚えはない。少なくとも顔見知りではなかったので、剛は率直に尋ねた。
すると、男はポカンと呆けた様子で剛を見つめた。
先ほどの睨みつけるような雰囲気が和らぎ、見た目よりも優しそうな……と。
「……え、知らない?」
「……知らないけど?」
「マジで? クラスメイトだけど?」
「え?」
言われて、剛は記憶を掘り返す……が、しかし、該当するモノが一つもない。
それは、当然の結果だ。
何せ、1年の頃からクラスメイトを始めとして他者との交流を持てなかった事に加え、2年になってからは勉強&暗記の日々。
失礼な話だとは思うが、クラスメイトの顔など覚える余裕はなかったのだ。
「……ごめん、ここしばらくの記憶が曖昧だったから全然記憶にない」
とはいえ、仮(?)にもクラスメイトの顔はおろか名前すら覚えていないのも、失礼な話だろう。
そう思った剛は、素直に謝罪した。
「……お前、真面目な性格してんのな。そういう真面目さは損するぞ、絶対に」
それを見て、どんな琴線に触れたのかは定かではない。だが、興味を引く言葉ではあったのだろう……男は苦笑交じりにそう呟くと。
「俺は
――番町(ばんちょう)。その名に、剛は聞き覚えがある。
いわゆる、一匹狼というやつだろう。不良というわけではないが目つきが鋭いこともあって、どこそこで喧嘩していたとか、そういう話を一年の時にも耳にした覚えがあった。
「……よろしく、俺も名前でいいよ」
その、彼なのだろう。言葉と共に、彼は……いや、大戸番町と名乗ったクラスメイトは、ドカッと剛の前の席に腰を下ろした。
「……で?」
直後、そう言葉を続けた。
「……何が?」
意味が分からずに首を傾げる剛に、「何って、そんなの決まっているだろ」番町は気にした様子も無く笑った。
「さっき、諦めるって話してたろ」
「ああ、聞いてたの?」
「聞こえたんだよ。で、何を諦めるんだ?」
「…………」
――話して、良いモノか。
些か悩んだ剛ではあったが、話すことにした。
このまま一人で考え続けても埒が明かないのは確定的であったし、何となく……何となくではあるが、己に話し掛けてきた番町に対して思う所があったからだ。
……。
……。
…………端折るが、内容はそこまで複雑ではない。定期的に聞こえて来る、校庭にて部活に励む生徒たちの声をBGMに……これまでの経緯を簡潔に語った剛は。
「お前……苦労してんだな」
しみじみと……それでいて、心底同情するかのような番町の言葉に。
「……分かってくれるのか?」
思わず、剛は涙が零れそうになった。「いや、少しでも想像したら分かるだろ、そんなの……」それを、番町は茶化そうとはしなかった。
「そりゃあ、異世界側が関わっていたら必死になるわ。とてもじゃないけど、俺には出来ねえよ。ていうか、茶化せるやつは頭オカシイわ、マジで……」
「……いちおう聞いておくけど、俺はどんなふうに思われているんだ?」
「細かい部分は違うけど、大まかには『異世界人の脅迫に従う哀れな男子生徒』って感じだな」
「だいたい合っているから、否定は出来ない……で?」
「ん?」
「お前も、俺の『噂』は知っているだろ? 興味本位で話し掛けてきたってのは分かるが、何時までも俺と一緒に居ると、お前も同じ扱いにされるぞ」
首を傾げる番町に、剛はきっぱりと告げた。
そう、剛がこれまで1人で居た最大の理由が、そこだ。
幸いにも、この学校の教師陣は、噂を鵜呑みにしない者が多い。『一部の例外が居る』にせよ、この学校で注意されるような事をしていない剛を悪しき者として見る者は少ない。
だが、生徒たちは違う。
冷静に物事を見る者は居るだろうが、そんなのは声のデカい多数派の前では無力だ。
どんな理由であれ、剛と一緒に居ると同一視されてしまう。
だから、そういった良識な者たちは剛には近づかない。
近づくだけのメリットが無いし、親密な間柄でもない。
それを、剛は遠回しに告げた……つもりだったのだが。
「――噂って、お前なあ……俺があんな嘘だらけのくだらねえ噂を信じるマヌケに見えるのか?」
まさか、それを真っ向から否定されるというか……クラスメイトから小馬鹿にされるとは夢にも思っていなかった。
「……どうしてって顔だな」
そんな、剛の内心は顔に出ていたのだろう。「まあ、信じるか信じないかはお前次第だけどよ」何処か気の毒な様子でありながらも、番町はきっぱりと告げた。
「今はもう縁を切ったけど、俺、前は友達だったんだよな」
「なにが?」
「お前の幼馴染……木本優奈を孕ませた男の、だよ」
「……は?」
一瞬、剛は思考を止めた。
けれども、良くも悪くもこういう事態に慣れさせられていた剛は、しばしの間視線をさ迷わせた後……ポツリと、冗談かと問いただした。
「アホか、こんな胸糞悪い冗談を言うわけねえだろ」
すると、心底気分を害したかのように番町はため息を零した。
「気分悪くさせるつもりはねえけどさ、見せられたんだよ。そいつのスマホに映る、お前の幼馴染とのキス動画。めっちゃラブラブなやつ、音声付で」
「…………」
「だからさ、俺もそうだけど、アイツと縁を切ったやつや裏を知っているやつら……ガチでドン引きしてんの。擦り付けたアイツもそうだし、それを選んだお前の幼馴染だった女に対しても」
「…………」
「だから、裏ではすげぇ同情されているんだぞ。正直、俺も同情していた。だって、事情も何も知らない、自称情報通みたいなやつが面白半分で悪評垂れ流す横で、お前の幼馴染は顔色一つ変えずに被害者のフリをするんだぜ……俺がお前の立場なら、女性不信どころか人間不信になるぞ」
「……そ、そうか」
「それに、高校生にもなれば裏ぐらいは考えるようになるからな。女子たちの考えは知らねえけど、男子たちの大半は、お前が誰かに嵌められたんじゃないかって思っているから、別に嫌っているわけでもねえぞ」
「……そ、そうか」
そう、言葉を返すので剛は精一杯であった。
というか、それ以上にどうしろというのか……我が事ながら言葉が出ない剛を尻目に。
「――ま、それはそれとして話を戻そう。とりあえず、客を集めなきゃあならんのだろ」
実にあっけらかんとした様子で、パッと話を切り替えてしまった。正直、ありがたいと思ったことを、剛は胸の内に秘めた。
「お前なりに相手を厳選したいって気持ちは分かった。だが、実際に当ては有るのか? お前は……いや、剛はもう慣れているかもしれないが、誰も好き好んで『異世界人』と関わろうとするやつは少ないと思うぜ」
「それは……」
言われて、気付く。
そうだ、そもそも、コレに参加するということは、『=』、異世界と関わるということになる
悪い印象ばかりではないが、良い印象もそこまで多くない異世界人たちに対し、及び腰になるのは自然の流れだろう。
「少しは条件を緩めないと、そんなタイミング良く残り14人は集められないと思うぞ」
「そんなの分かって……14人?」
思わず聞き逃しそうになった。
というか、こいつ……思わず白けた眼差しを向ける剛に、「……悪いかよ」番町は……幾らか後ろめたそうに頭を掻いた。
「俺だって、男だぞ。そういうチャンスがあれば……って思って悪いかよ」
――悪くは無い。率直に、剛はそう思った。
しかし、同時に、彼女の一人や二人は居てもおかしくないし、むしろ居ない方が……と、思わなくもなかった。
まあ、それをあえて言葉にするような事はしないけれども。
「……でも、お前を入れると女子たちの反感を無駄に買うだろうから嫌かな」
「え、何で女子たちが関係するんだよ」
「いや、だってさ……」
「――そこをなんとか! 出来る限り手伝うから!」
「ちょ、分かった、分かったから落ち着け!」
机にぶつけんばかりの勢いで頭を下げる番町に、剛は慌てて止めさせた後……どうしたものかと剛は己の頭を掻いた。
「手伝ってくれるのは有り難いが、けれども、分かっているのか?」
暗に、尋ねる。すると、番町は分かっているさと剛へと居住まいを正した。
……まっすぐ、逸らされない視線。それを見て……剛は、溜息を一つ吐いた。
「番町みたいなイケメンなら、わざわざ俺のところに来なくても相手の一人や二人は居るだろ」
当然と言えば、当然の疑問。こうなれば黙っているわけにもいかなくなったので、剛はあえて直球に疑問をぶつけた。
同性である剛の目から見ても、番町のような男を女子たちは放って置かないだろうなということが分かったうえでの質問であった。
「中学の時には居たけど、今はいねえよ。俺って、こう見えて女性不信だからな」
「は?」
すると、返された言葉がソレであった。
一瞬、何をいきなり言い出すのかと剛は目を瞬かせた。
「中学の時に、ダチ(友達)の彼女がさ、実は俺の事が小学生の頃からずっと好きだったって漫画みたいな話だ。だったらダチじゃなくて俺に告白すればいいじゃんって、思うだろ?」
「……まあ、そうだな」
「言うのも何だが、俺って小学校の時からモテててさ。何か知らねえけど、俺の事なのに、俺に告白するべからずみたいな不可侵条約を俺の知らねえ間に女子たちの中で勝手に張られてたみたいでさ」
「何それまるで意味が分からないんだが?」
一瞬、同じ言語を喋っているはずなのに、内容が理解出来なかった。
「だろ? 俺も未だに意味が分からん」
どうやらそれは、かつての番長も同じように思っていたようだ。
「それがどうも、中学に入ってからも続いていたみたいでな。俺からの告白はOKだけど、女子からの告白はNGとかいう、マジでワケ分からん状態になっていて」
「お、おう」
「そのダチの彼女……それを掻い潜る為に、わざわざ俺のダチの彼女になって、俺にアタックしてきたわけ。半年以上も、隠し通したまま」
「…………」
「正直、引いた。男冥利とかそれ以前に、そのやり方に引いた。勝手に不可侵条約作る女子たちにも引いて……でも、俺が本当に引いたというか、女を信じられなくなったのはその後だ」
「おい、止めろ」
「当然、俺は拒否したわけ。好き嫌い以前に、そんな事をするやつは信用できないし、そういう目で見れないって……そしたら、ソイツ俺に向かって何て言ったと思う?」
「……お前の事が好きだ、か?」
――こいつ、最後まで話すつもりだな。
そう言い掛けた剛は、心底嫌そうに……実際に嫌々ながら、問い掛けに答えれば、番町は……それ以上に苦々しい顔で吐き捨てた。
「『申し訳ないとは思っているけど、番町くんの事がずっと前から好きなの』……だってよ。顔をすげえ赤らめて、一世一代の告白って感じだった」
「……あ、うん」
「お前なら、俺の言わんとしていること、分かるよな?」
「……凄いエゴイストだな、とは思った」
尋ねられたので、剛は思った事をそのまま伝えた。
「それでも番町の事が好きって、言い換えれば『番長がどう思うかよりも自分の気持ちを優先した』ってことだろ」
「そう、そうなんだよ」
「それに加えて、番町の友達の想いも蔑ろにした。好きな人と、その好きな人の友達を傷付けているのに、それよりも自分の気持ちの方が大事だって暗に示しちゃったわけだ」
「そう、マジでそれ……正直、ドン引きした」
深々と……それはもう深々と、番町は何度も頷いた。
「そりゃあ、さあ。好きな気持ちは止められないってのは分かるよ。俺にだって、それぐらいは分かる。でもよ、いくら何でも限度があるだろ」
「……ノーコメント」
「しかも、ソイツ……その後でダチと別れたんだが、くっそ忌々しいことにダチが浮気をしているってでっち上げやがった」
「は? 何で?」
「俺が知るかよ……とにかく、その一件がキッカケで女が嫌になった。でも、俺も男だ……それでも勝手に溜まるし、正直、お店だろうが何だろうが童貞を卒業したい」
「おい」
勢い余って本音と実情をぶっちゃける番町に、剛はため息を零した。
……。
……。
…………でもまあ、悪いやつじゃなさそうだし……いいかな?
けれども、怯んだ様子もなく見つめてくる番町に……何と言えばいいのか、毒を抜かれた気分になった剛は……やれやれと、手を差し出した。
「――あ、そのダチも連れて来るから13人な」
「おい!」
反射的に引きかけた手を、それ以上の速さで握られた剛は……早まったかと思うのであった。
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