悪くない

 場所を知っているアズキのエスコートでオレ達はレストランに向かっていた。レストランは、街の中心にある公園から役所に続く、いわゆるメインストリートの中程にある、繁華街にあった。


「さあ、行きましょ!」

「あんまり急ぐと転ぶぞ?」

「大丈夫よっ!」


 公園でコケそうになっていたのを思い出したオレは、一応、忠告したのだが…


「おっとっと…」

「ほら。」


 案の定、扉の前の階段に転びそうになった。


「うるさい!行くわよ。」

「はいはい…」


 物怖ものおじしない彼女に手を引かれ、店内に入ったオレ達はNPCの案内で席に着いた。ディナーには少々早く、客もまばらな店内は、それぞれのテーブル席がパーテーションで区切くぎられ、ザッと見た感じ、カウンター席も合わせれば、50人位は座れそうな感じだ。照明もムードが有り、このゲームの開発者のセンスの良さが伺える。


 2人は向かい合わせで席に座り、食事がくるのを待っていた。


「クーッ!うまい!ビールが飲めるなんて思わなかったよ。」

「良かったわね。」


 オレは先にきたジョッキのビールを飲みながら、アズキにもアルコールをすすめてみた。


「君は飲まないの?」

「未成年よ。」

「そっか、いくつ?」

「19。文句ある?」


 少し、不機嫌そうに彼女は続けた。


「ねぇ私達パーティーなんだから、ってのやめない?私もアンタの事、ヨースケって呼ぶからヨースケも私の事、名前で呼んでよ。アズキでイイわ。」


 チャンとかタンとか付けたら怒るかな?

怒りそうなキャラだ。怒った様子を想像したら笑いそうになった。


「りょーかい。」

「じゃあ、アズキ?」

「なぁに?」

「耳鳴り…しないか?」

「ヨースケも?なんだろうね、私はもう気にならなくなったけど。」

「うん。オレも気にならなくなったけどさ。」


 今も耳鳴りは続いていた…


 少し話しているとNPCが料理を運んできた。


「おっ!美味うまそう!あ、お姉さんビールおかわりね。」

「ホントに好きなのね。」

「そりゃあ、もう!君も飲んでみたら?」


にらまれた。しつこかったか…?

違う!名前で呼ぶんだった!


「あっ、あの、アズキも飲んでみたら?」

「コンパで飲まされた事あるけど、苦いだけで美味しいとは思えなかったわ。」


未成年なのに飲んだ事はあるのか!イケナイ子だ!お父さんが、夜のお仕置きでもしてやろうか!…馬鹿か、オレは…


「じゃあ、カクテルとかは?あるかな…」


 メニューを手に取ろうとすると…


「しつこいわね!酔わせてどうするつもり?」

「いや、そんなつもりじゃなくてオレだけ酔って気分良くなってるのも悪いかなぁ〜って。」

「アハハ!冗談よ。そんな度胸無さそうだもんね。」


ムッ!


「オレだってやる時はやるんだぞっ!?」


精一杯の見栄だった。


「へー、ヤるんだ。ヨースケは何歳なの?」

「オレはハタチ。それにしてもココの料理、美味いなぁ。」

「うん、美味しいわね!」


 彼女いない歴20年を自分で意識してしまったので、食事の話題に切り替えた。


 オレはハンバーグ、アズキはドリア、それにサラダを2人でシェア。

リーズナブルとは言えない値段だが、味を考えると納得価格だ。


「それにしてもヨースケの服、ダサいわね。なんか、いかにも魔術師って感じで…」

「魔術師に見えてたんじゃん!」

「ゴメン、ゴメン、何て言って話し掛けようかって思ってたらね…」

「全く…」


ジーパンにTシャツにローブのどこがダサ…

ダサいか…


 それにしても何故、この子、アズキはオレにパーティーの話を持ち掛けてきたんだろう…

気にはなるが、オレ的には可愛い女の子とパーティーも組めたしココもそんなに、悪くない。そう思い始めていたのだが…


はっ!オレは重大な事を忘れていた。

お金が無い…


 此処ここの会計の話では無いが、とりあえず明日からの生活費が無い…


 アズキに相談してみよう。


「なぁ、」「ねぇ…」


 ほぼ同時だった。アズキも何か話が有るみたいだ。


「何よ?」

「うん、あのさ、明日から狩りに行かないか?オレ、実は金欠なんだ…」

「少し前に装備を更新したばっかりでさ。」

「実は私も。」

「じゃあ、明日に備えて今日はそろそろお開きにしようか。」

「そうね。」


 2人とも金欠なのも困ったものだが、オレだけ金欠で、パーティーを組んで早々、引け目を感じずに済んだのは良かった。


 会計を済ませて席を立ち、レストランを後にしようと出入口でいりぐちの扉に向かう途中、ふと気付いたのだが、レストランに入る前、70%位だったハングリーメーターが0%になっていた。


腹の減り具合を数値で確認出来るって事か?


 他にも何か有りそうな…そんな、なにか嫌な胸騒むなさわぎを残したまま、オレとアズキは、他のプレイヤー達でにぎわいはじめたレストランを後にした。

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