ALL MY THINGS 〜耳鳴りが止まるまで〜
はいとく
プロローグ
「ねえ、そこの”M”の人!」
“M”の人?オレの事か?
多分オレを呼んでいるんだろう、声のした方を見ると、ポニーテールを
「やっと気づいた!」
そう言って彼女は、街の中心にある公園のベンチに腰掛けて、日が傾くのをボーっと見ていたオレのところまで駆けて来た。
途中、彼女が、つまづく様な物が何も無いのにズッコケて、転びそうになった事には触れないであげよう。
「アンタの”M”ってやっぱマゾって事なの?」
なんと!?初対面の異性を相手に何を言うかコイツ…幾らカワイイからといって、礼儀と言うものをだな…それに、どちらかと言えばオレは”S”…そうじゃない!
「いや多分、魔術師って事じゃないかな。」
ローブを身に着けているだけでは魔術師には見えないのか?いや、もしかしたら彼女の周りには、そう言うマゾがいるのか?
未だ、疑いの眼差しを向けられているのを感じつつ、オレも聞いてみた。
「じゃあ、君の”S”は…?」
「私?侍よ?多分だけどね。」
自信は無いらしい…でも、確かに左手に刀を持っている。
少し説明が必要だろう。
オレの名前は
一浪して今年、大学に入学したオレは講義には真面目に出ていたが、サークルに入ったりする事もなく暇さえ有れば家で、ある、ロールプレイングゲームをしていた。
ゲームの名前は、
ー”ALL MY THINGS”ー
3Dキャラを操作して、オープン・ワールドで自由に遊ぶ普通のRPGなのだが、このゲームを面白いと思ったのはヘッドセットを使用してスキルや魔法の発動を声で行う事だった。
オレのゲーム内のキャラクターネームは”M・ヨースケ”。
名前の頭に付いている“M”というのは称号の様なもので、職業選択のシステムが無い、このゲームで、ステータスや装備に応じてシステムが自動的に付加してくる部分だ。
「アンタはなんとなく魔術師ね?だから”M”よ。」という感じに。
さらに例を挙げると、彼女の様に刀剣を持っていて”S”ならサムライ、”K”なら剣士となる。もし”B”なら武士だろう。
ゲームの制作者の遊び心なのかも知れないが、この付加された称号によって習得出来るスキルや魔法が決められているのが、少々厄介なのだ。
オレの様に魔術師に認定されている人が、刀を持っても称号がM(魔術師)のままなら、刀のスキルは習得出来ない。
スキルや魔法の発動はスキルポイントを消費する。その消費量は、それぞれのスキル、魔法ごとに異なるが、
名前の部分は全角カタカナ4文字と決まっている。濁点も1文字に入る。
なんだか数十年前のゲームのようだが、最近の何て読むのか分からない名前の人が居ないのには、好感が持てた。
ゲームのマップは、中心部にある【セントラル・パーク】の東西南北をそれぞれ、【イースト】【ウエスト】【サウス】【ノース】の4つの街が取り囲む様に作られている。
そんな、お気に入りのゲームをプレイしていたある日、モニターから激しい光のエフェクトが発生し…
どのくらいだろう…
気を失っていた…?いや、眠っていたのか?
目の前にある武器屋を見ると、
オレは【サウス・シティ】の街にいた。プレイ中のゲーム内で、オレが居た場所だ。
一体、何が起こったのか、状況を
新着は2件。
1件目の内容は蘇生方法の変更のお知らせだった。
今までは死ぬと自動的に街の教会で蘇生していたが、これからは他のプレイヤーの祈りによって蘇生する。との事だった。
それと2件目はハングリーメーターの追加。これについては何も説明が無かった…
結局、何も分からず途方に暮れていたオレに話し掛けてきたのが彼女だった…
「ちょっと、聞いてる?」
説明に夢中になっていたオレは、彼女の事をすっかり忘れていた。
「アンタ、レベルは?」
「48だけど。」
(私より上じゃない…ま、まぁイイわ。)
「アンタ、蘇生方法の変更は確認した?」
「ああ、もちろん。」
「アンタもソロみたいだから仲間が必要でしょ?私とパーティー組みなさい、私は”S・アズキ”、侍よ。」
パーティーの誘いだったのか!オレにも、やっとモテ期が来たのか?いや待て、ココは冷静になるところだ。女の子に誘われた事なんて、今まで一度たりとも無かったオレだ。何か
「えっと、その前に聞いて良いかな?」
「なによ?」
「君はどうやって
「分からないわ。ゲームしてたらモニターが光ったのよ。で、視界が真っ暗になって、気がついたら此処にいたわ。アンタは違うの?」
「オレも同じだよ。」
NPCでは無い様だな…
「良かったぁ〜!」
「良かった?」
「うん。だってさ、此処にいる人が実はみんなNPCで、人間が自分だけだったら悲しくない?」
そう言う事か。
「うん、確かにね。」
自分だけじゃ無いってのは不幸中の幸いか…
「あ、あとさ、君って、その、何て言うか本人?それともアバター?」
しまった!好みのルックスだから、つい、要らん事を聞いてしまった!
「ん?ちょっとアンタ、女の子を見た目で選ぶタイプ?サイテーね。んーまぁイイわ。本人よ。ご不満?」
「いや、全然。(むしろ、ド・ストライクです!)」
「で、どうするの?組むの?組まないの?」
「えっと、君レベルは?」
「45よ?文句ある?!」
低くはないな。まぁ、低くてもオレが守ってあげちゃうけどね。
現在、このゲームのMAXレベルは50なのだ。
それにしてもソソる服装だ…防具をつける前の剣道着の様なのだが、
おそらくオレと同じく、アバターの着ていた服装だと思うが、ゲーム制作者のセンスはオレとドンピシャだ。
と言う事で、断る理由は無いな。
「文句無いです…」
「じゃあパーティー結成って事でイイわね?って言うか、ココにはアバターの人は居ないみたいよ。理由は分からないけど。」
「じゃあ、パーティー結成記念に食事にでも行きましょう!」
そう言えば腹減ったなぁ。って、ん?
「食堂あるの?」
「アンタ、街の中見てないの?」
「うん。まだ…」
「食堂もあるし、レストランだってあるわよ。」
「ちなみに、お弁当屋さんもあったわよ。」
なんと!
気付かなかったが、街の中の造りにも変更が有ったようだ。そう言う事なら、腹が減っては何とやらだ。
「オッケー!行こう!お酒もあるかなぁ?」
「どうかしら。」
「出来ればキンキンに冷えたビールが飲みたいなぁ。」
「あはははっ!さっ、行きましょう!」
まだ夕陽が眩しく、夕食には少し早かったが、パーティーを組んだ2人は少しだけ足早にレストランに向かった。
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