第6話 支え合うということ

先程まではヘルに自由を奪われ、動けなかったと思ったら相棒にはその存在を忘れられていた?そんなの

「理不尽だ」

とはいえ、今までのシエスタとおそらくはナギサという少女の会話を見ていたら混乱して俺の存在を忘れてしまったという推測もつく。俺もあそこまで感情的になるシエスタを初めてみた。

「悪かったね、助手」

「気にするな」

これくらいしか俺が言える言葉はない。

「話がある」

「ああ」

先程、シエスタが決意したヘルの中にある二つの人格を同時に出現させるということについて話されるのだろう。そう思っていたが、シエスタから告げられたのは思いもよらない事だった。

申し訳なさそうに一度、下を向きその後シエスタは

「しばらくの間、君とはお別れをしようと思

う」

と言った。

「何を……言ってるんだ」

理解できない。というよりは受け入れられない。この3年間、俺はシエスタとずっといた。今更、こいつがいない生活なんて想像できない。

「助手、君も聞こえてたでしょ。私はどうしてもやらないといけない事ができた。だから」

シエスタが続ける。

「私はもう君といられない。そうじゃなかったら、君を守りきれないかもしれない。私が君を守る。その約束を果たせなくなってしまう」

違う、そうじゃないだろ。俺がお前と一緒にいたのは……

「でもね、安心して。私は必ず、ナギサを救い。君の元へ戻ってくる。一度した約束は破らない。だから

少しの間、お別れだよ」

シエスタはそういった。

お別れ?何を言ってるんだこいつは。確かに、俺とお前の契約はお前が俺を守る代わりに、俺がお前の助手になるというものだ。そして、お前の言う通りこのまま一緒に行けば危険が大きくなってしまう。だから、一旦別れるべきだ。

しかし、俺がお前と交わした約束はまあ一つある。

「待ってくれ、シエスタ!」

俺が叫ぶと、このまま立ち去ろうとしていたシエスタが振り返った。

「シエスタ。俺とお前が交わした約束はもう一つあるだろ。一生側にいてくれ。そうお前に頼んだだろ」

全く、この探偵はそんな事も忘れてしまっていたのか。

「その契約なら結ばれていないはずだよ。君はすぐにそれを取り消したはずだよ」

そう、だった。あの時、俺は思わず発言を取り消してしまったのだ。くそ、なら俺は。何を言えばいい。俺はどうしたいんだ。

「はぁ。さっきから契約、契約って。

2

ヘルの瞳が赤く光る。

またか、素直にって何を……

「助手、私は君と離れたくない。君と過ごしたこの3年間は本当に楽しかった。私にとっては何よりの宝物だよ。でも、だからこそ。君との旅は一旦終わり。君にこれ以上、迷惑をかけたくないんだ」

シエスタ……

それは、俺だって同じだ。この3年間、確かにお前に振り回されっぱなしだった。理不尽な目にも沢山あった。それでも、100回の理不尽の間に1000回は笑った。お前との日々は俺にとっても宝物だ。そして、シエスタ。お前も……だから、

「何を馬鹿な事いってるんだ!お前は!

俺に迷惑をかけるから別れる?ふざけるな!

この3年間!

確かに俺はお前に振り回されてばかりだった!

でも、その度にお前は俺を助けてくれた!

そして!

お前は何度も俺を笑わせてくれた!

1人だった俺の光になってくれた!

俺は!

お前がいなきゃ生きていけないんだ!」

少しの間、沈黙が訪れる。

「ふふ。これはまた、強烈なプロポーズを受けてしまったね」

「はっ!」

シエスタの、いつもの声で元に戻った。

「君は、そんなに私の事が好きなんだ」

「それは…好きとかそんな事は言ってない」

あくまでも、あれは巻き込まれ体質の俺が生きていくためにシエスタが必要という話だ。

誰も好きだなんて言ってない。

「でもな」

これだけは言っておきたい。

「お前1人で抱えこもうとするな。俺たちはもう一つなんだ。楽しさも苦しみも喜びも全部、2人のものなんだ。だから、お前の荷物は俺も背負う」

俺がそう告げるとシエスタは少し微笑み

「そうだね。じゃあ、お願い。

助手、私の旅についてきて」

そう言ってシエスタは左手を俺に差し出してきた。

これに対し、俺が取るべき対応は一つだ。

「もちろんだ」

そう言って、俺はシエスタの左手に手を伸ばした。











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探偵はもう、死んでいる。 ルートΩ さらぎれい @Reito1029

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