第四回 ドラゴンが存在する条件
前書き
ドラゴン、それはロマン、いつの時代でも、どの国でも、夢想され、畏怖され、尊敬されてきた存在ではなかろうか。
そんなドラゴンだが、大きな体に翼をもち、体表は鱗に覆われ、強力なブレス攻撃を放つ、この辺りが共通項目であろうか。
これはあくまでも西洋的な考えで、東洋では蛇の延長に角を持つ姿、即ち龍として、その姿を夢想されている。
飛行
私にとって最大の謎がある。
彼らはその巨体をどうやって空に飛ばしているのか、である。
飛べる鳥の最大はアフリカノガンや白鳥で、全長は人間と同じ程度で、重さは二十キログラム程度からそれより軽い程度。
それより大きな個体としてダチョウが上がるのだが、ダチョウは飛ぶことができない。体高は二メートルに達し、体重は百キログラム前後で、小さな個体でも二十キログラムを超える。
これからわかることは、二十キログラムを皮切りに、飛べる鳥類と飛べない鳥類で別れていることだ。
飛ぶということは重力に抗う必要がある。その為に空気をかいて浮力を得る必要があり、翼が発達している。重力は体の重さに直結する為、軽い方が飛びやすい。必然的にある程度で体の大きさは制限を受けることになる。
ドラゴンはそんな鳥類とは比較にならないほど大きい。ということは必然的にそれなりの体重となるはずである。
それなりの体重となるならば、大量のエネルギーを必要とする。そんな非効率な進化を果たしてするのだろうか?
高所からの滑空であれば、翼がその構造を持っていてそれなり大きければいいだけだが、体が大きければその高所を見つけるのに苦労する。
はっきりと言えば、地球ではまず無理である。存在していないことがその証拠である。
とは言え、重力抗う方法が、空気をかいて浮力を得る以外にあればどうだろう。要するに飛行魔法の存在である。
引力エネルギーを生み出して自分の体を地面と逆方向に引っ張るか押せばよい。
魔法だけで飛ぶのであれば当然翼は要らない。しかし、魔力を節約して、羽ばたく為のエネルギーを節約するのであれば、翼はあってもよい。
それこそ、高所を確保するために魔法を使って後は滑空するだけなら、ずいぶん節約できるだろう。
羽ばたくことは運動である為、そのエネルギーを食べ物から摂取する以上、それなりの量を必要とする。また、魔力を食べ物から摂取(体内変換を含む)している場合、羽ばたくよりも燃費が良くなければならない。
これから、十分な食べ物を獲られている必要もある。
巨体であるほど生きていくだけでも相応のエネルギーは必要で、その上で飛ぶとなると、相当な量の食べ物を獲られているのだということになる。
ちなみに、家畜化によって野性よりも体が大きくなる傾向がある。野生の時よりも食べ物を得られている必要はあるが。
つまり、巨体を空に飛ばすのなら、魔法が使えて、食料も十分確保できている必要がある。
身体強化で飛ぶ表現がある。
これ自体無理な表現ではないだろう。魔力が羽ばたくエネルギーを補完しているのであれば、これも節約しているわけなので、あまり無理はない。
ただし、相応に大きな翼が必要だということは頭に入れておきたい。
身体強化だけで飛ぶのであれば相応の量の空気をかく必要がある。ヘリやドローンが起こす風は結構な量になっているからである。特にヘリは、大人を吹き飛ばせるほどの風を起こしている。
巨体
ドラゴンと言えば、その大きな体であろう。
ただ、体が巨大化する為には、相応の条件が必要となる。エネルギー確保の容易性と巨体である必要性だ。
食物連鎖の頂点に立つ以上、強さは必須であろう。体を巨大化させることで獲得言ったとしても不思議ではない。
しかし、巨体を支える為に必要なエネルギーは尋常ではない。
大きな生物として想像しやすいのは象だ。アフリカゾウの食事量は一日当たり二百か三百キログラム、水は百リットルとなる。アフリカゾウの体重は五から七トン。
雑食性のヒグマが体重二百キログラムで食事量は十三キログラム、肉食のトラが体重二百キログラムで八キログラムと、肉食の方が少ない傾向にある。
冬眠や短期間の飢餓に耐えられるので、年間に直すと何とも言えない。また、必要な栄養も違うので、単純な比較はできないが、体重の約四パーセントの食事量があることがこれらからわかる。
ということは、明らかに象より大きいドラゴン、体長十五メートルで体重が十トンであるとするのならば、四百キログラムということになる。体重六十キログラムの人間なら七人、熊やトラは二頭必要だ。体長は例に挙げた動物から翼分も考慮し計算して出している。
冬眠や飢餓に耐えられるとしても、年間では相当な量を食べていると推定できる。
動物園でトラに与えられる年間のエサは、約百六十キログラムと推定できる記事があったのでこれを参考にすると、ドラゴンは年間で八トンのエサが必要となる。
体重六十キログラムの人間なら百三十四人、トラや熊なら四十頭である。
同じものばかりは食べないのであれば、当然分散することになる。飛行できるので地域も選ばないであろうから。
とは言っても行動範囲など知れたものであろう。数年いつかれると簡単に生態系を滅ぼしてしまうだろう。
呼吸についても触れておこう。
空気中の酸素濃度は二割ほど、実はこの濃度では虫はあまり大きくなれない。彼らは自然呼吸で、人間のような肺を使った能動呼吸ではない。
しかし、酸素濃度が高かったとされる太古の虫はかなり大きい。酸素濃度が高いと生物は巨大化する傾向にある。エネルギー効率がよくなると同時に、酸素の毒素に耐える為だ。
恐竜として有名なティラノサウルスが体長十三メートルの体高五メートルで、この大きさの爬虫類はいない。
特に大型を誇ったスーパーサウルス、彼らは含気骨と言う骨の構造を持っていて、気嚢システムによって酸素を取り込む効率を上げている。現代では鳥にしか見られない構造とシステムではあるが、大型化によって酸素の必要量が上がっている証拠である。
含気骨は空気を取り入れるので骨に穴が開いていることになるのだが、トラス構造によって強度は確保されている。また、この構造で骨を軽くすることができる。
ただし、空気感染症や揮発性の高い毒に弱い傾向にある。
この構造を持った火山帯に住むファイアドラゴンなんて出したいのなら、その火山では揮発性の高い毒は発生しないことが前提となる。骨に直接作用してもろくなると、体が大きい程、骨は支えきれなくなる。
龍
これまではドラゴンを扱ってきた。所謂西洋の龍である。では、東洋の流はどうなるだろうか。
龍の姿は一般的に蛇の延長であることが多い。
一部翼を持っていたりするがさほど大きくはなく、バランスを取る為の物にしか見えない。また、手に相当する物を持っていることもあるが、ドラゴンのようなぶっとい足は描かれない。
魔法以外に飛んでいることは説明できない。もしくは能力として重力を操れるかだ。ドラゴンとて、自分に作用する重力を操れてもいいだろう。
龍の構造を求めたいのであれば最も近しいのは蛇以外にいない。これによって困ることはないが、翼や前足を持っているのは少し困る。
獲物を捕まえて運ぶのなら前足があってもいいが、その部分の構造は少し複雑になるだろう。
翼とて、飛行時の安定性を欲したのならあってもいい。無論構造には注意したい。
これから見えてくるは、ドラゴンは近しい生き物がいないので全体の構造がはっきりしないことだ。
翼は手の変化ととらえられているのが鳥であり、当然鳥には後ろ足しかない二足歩行だ。
つまり、問題は四足歩行で翼を持つドラゴンだ。
特に骨格構造を出したい場合、地球上に関連した生物がおらず、生物の骨格構造の専門家から指摘が飛ぶこともないので、いくらでもごまかせるのだが、あまり適当なことはしない方がよい。
これは、グリフォンや天使にも同様のことが言える。
ドラゴン精霊説
いくつかそう扱っていそうな作品はある。これ自体間違ってはいない。
と言うのも、前回は精霊を自然エネルギーの具現化と言った。
精霊の基本は人族に対してかなり好意的な行動をとることが多いと感じている。また、敵対的な行動をとる精霊は少なく感じる。
そんな、敵対的な行動をとる精霊がドラゴンであってもよいのではないかということである。精霊が人型である保証はないわけで。
精霊とて基本はニュートラルな存在であるはずだ。ならば、好意的な精霊ばかりではないはずである。
力を示して仲間になってもらう描写や、体質として好かれやすい描写自体、ニュートラルから好意的でなければ筋が通らない。
敵対的であれば、それこそ見つけたら攻撃してくるだろうし、見つからないようにもするだろう。
人から隠れる精霊もいるので、少なくてもよいのだろうが、好戦的な精霊もいるはずである。全く出てこないのはちとおかしい。
また、ドラゴンはその存在が災害クラスであることも多い。
自然エネルギー自体は恵みをもたらすばかりではなく、噴火や地震、津波など災害をもたらす。
この災害の権化こそドラゴンであってもよいだろう。役目を失えば消えて行ってもいい。それこそ、自然エネルギーを放出しきれば消えてしまう。
ただ、自然災害は意図して起こるものではない。
それこそ、何らかの意思によって起こるのならば、その意思にそっている限りは起こらないはずである。
なので、災害の権化としてドラゴンを発生させる場合は、特定の何かを攻撃するような描写はできない。
そのような描写をしたいのならば、恣意的に発生する必要があるので、精霊を作り出す元凶がいることは頭に入れておきたい
後書き
ファンタジー世界の生物をどれだけ取り扱っても、現実離れしているので何とも度し難い。骨格構造なんて小説で見せることもないのでどうでもいい。挿絵や漫画は違うのだが。
ドラゴンの巨体には注意を払うべきだろう。大きさによっては生態系が維持できない。
次回は亜人について取り上げる。
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