第三回 鑑定魔法は現実としてあり得るのか
前書き
前回、魔法があるからと言って科学が発展しない世界はほぼあり得ないことを説明した。その中で、鑑定魔法は発展を加速させるだろうとも言った。
理由は、鑑定魔法によって物質、状態、性質などが分かってしまうからであるが、その原理はどうなっているのだろうか。割と謎である。
また、ファンタジー小説において鑑定魔法こそがチートとして扱う場合もあり、頻出と言っても過言ではないだろう。ただ、私はそう単純に扱っていいものだとは思えない。鑑定魔法を出す条件、即ち説明は必要だと思っている。
何が謎なのか
鑑定とは、専門家による科学的、統計学的、感覚的な分析に基づいて行う、評価、判断のことを言う。
これからわかることは、何らかの『分析』によって評価、判断が行われているということだ。
魔法と言っているので、魔力および魔素|(マナ)によって分析が行われるわけだが、分析結果から評価及び判断をする場合、予め知識が必要である。
しかし、鑑定魔法が使用されるのは、恐らくそうだから確定させたい、何かわからないからと言うときである。
恐らくそうだから確定させたい場合は、恐らくそうだと思っている時点で知識を持っていると判断できるので、魔法は確証を与える為に正誤を与えているだけだ。何をもって正誤としているのか謎ではあるが。
そして、何か分からないという場合、魔法はどうやって情報を取得しているのか謎である。
一見、この二つの謎は違うもののように思えるが、実際は同じ謎である。
例えば、目の前に赤いバラがあるとして、知識を持っていなければ見た目以上の情報、赤い花弁、緑の葉、棘のある茎以上の情報はない。花だと思えなければ、赤い部分が何のか分からない。
にもかかわらず、鑑定魔法によってそれが花の赤いバラであると分かってしまう。
原理
これは私にとっての謎でしかないのかもしれないが、鑑定魔法はどこから情報を得ているのかがわかり兼ねるのである。
科学的鑑定を行う場合、対象が何を内包しているのか、X線や薬品などによって分析が行われる。その際、X線であれば波長、試薬であれば色などを読み取り、それによって対象がなんであるかわかる。
これらは、こうすればこうなるからこれであるという、すでに何であるか分かっているものを素材にし、実験によって得られた結果が蓄積された知識ベースによるものである。
魔法が同じような原理であるならば、分析結果から特定していることになるが、この時の鑑定魔法は相当高度な魔法となる。
と言うのも、使った人の知識ベースによって行われるのか、魔法に知識ベースが埋め込まれているのだったとしても、時代が進まなければまともに機能しないと考えられるからである。また、この場合は他人からの伝授は必須であり、ファンタジーと言うよりもSFチックになってしまう。
この原理を使う場合、鑑定魔法はつたないものとなるので別の原理を考えてみよう。
まず考えられるのは、鑑定魔法は対象から何であるかを取得し、使用者がわかるようにしていることである。
これには一つ問題がある。
地球上にあるすべての物質と言うのは人が名前を付けたものであり、言語が存在しなければ名前が付くことはない。また、翻訳できなければ別の名前になってしまう。
この場合、物質がなんであるのか物質が記憶していることになる。
また、誰かが識別して名前を付けて物質が記憶したとしても、名前が付けられた物質はその誰かの目の前にある物であり、同じ物質がすべてその誰かの目の前にあるわけではない。ということは、その誰かが付けた物質はどんなに離れた場所の物質であろうと記憶を共有することになる。
これでは無理筋が過ぎるので、この原理は使えない。
こう長々と説明しているが、結局解決糸口は二つだ。
まず、アカシックレコードが存在し、そこから情報を取ってきている場合である。
アカシックレコードとは元始からのすべての事象、想念、感情が記録されている物、あるいは存在のことである。
アカシックレコードにアクセスすることで、鑑定魔法は完璧な存在となる。
鑑定魔法を使って分析した性質を持って、アカシックレコードから該当する情報を探し出せれば、鑑定魔法によってすべてが丸裸になる。
また鑑定魔法の練度|(レベル)によって、どの程度の情報が得られるか分けることも可能である。この場合は分析によってわかる性質がどの程度なのかで分ければよい。分析できた性質が少なければ、その程度の情報しか得られないのは明白であろう。
次にアカシックレコードと似て非なる物として、全人類の記憶にアクセスする方法である。
この方法の場合、記憶にアクセスされたときに何らかの影響を受けないことが前提となる。脳にアクセスするので影響がないとは考え難い。その為、きちんと定義し説明しておきたい。
アカシックレコードのような完璧性はないものの、記憶の集約を行う為、似たようなことができるのである。
使用者はどうやって知るのか
ありがちなのがゲームのようにウインドウが目の前にポップするという表現だ。
これ自体はそう苦しいものではない。
現状、投影する物がなければ空中に描くようなことは、地球の現代科学ではできない。
ただし、AR技術で空中に描くことが可能だ。端末と描くためのペンのようなものが同期している必要があり、端末は描く空間を認識している必要があるのだが、この方法を魔法に置き換えてしまえばよい。また、端末がなければ他人が見ることはできないので、投影するよりも安全に情報を知ることができる。
『AR』『空中』『書く』と検索してもらえれば、該当する技術を紹介する記事が出てくる。
なので、別にウインドウがポップする表現は、ちゃんと説明すると案外行けるものである。ちゃんと説明する必要はあるのだが。
別にウインドウに頼る必要はない。鑑定魔法によって知るというのは、脳内に情報が入ってくるだけでもよい。
原理は通信魔法の直接脳内に、ができてしまえば同じことなので。
それに、ウインドウを出すと途端にゲーム臭くなってしまう。現実を追求するのなら辞めておきたい表現である。転生主人公が技術を知っていて編み出した、と言えばいいのかもしれないが。
ウインドウと言う発想は異世界人にあるか、と言われれば、無い方がおかしいだろうと答える。
ゲームで言えばUI、ユーザーインターフェースに該当するのだが、暴論に聞こえてしまうのかもしれないが、あらゆる書類の書式もUIであると言ってもいい。
読みやすさの追求は見やすさの追求であり、記入する側にしても読む側にしても、要点を簡潔にまとめやすくなっている。
ゲームのUIはプレイヤーにどれだけ見やすいかがデザイン基準である。その為、要点を簡潔にまとめてあり、記入が開発であると言うだけで、やっていることは同じだからだ。
人類の発展には言語と文字が伴う。コミュニティを発展させて生き残っているのならば、伝えるということは非常に重要である。そこに文字が関わってくることは必然であり、文書として残されていく。その過程で、書式はどんどん進化していく。
となれば、誰かが書式を基に、鑑定魔法による表示は専用の改良がおこなわれるのも必然と言える。
注意すべきこと
アカシックレコード接続型は特に注意したい。
アカシックレコードはどこにあるのか、アクセス権限はあるのか、この二つである。
まず、アカシックレコードの位置は、私の知る限りになるが、惑星そのもの、精神世界、管理者もしくは神の膝元、の三つが考えられる。
惑星そのものがアカシックレコードとなっている場合、物理的距離によっては光速をはるかに凌駕する速度の伝達手段がなければ必ずラグが発生する。我々は月で1.3秒前、太陽が八分前の姿を見ていると言う事実からわかることである。
精神世界の場合は、定義の話になので作者ごとに好きに定義してよいだろう。ただ、魔力もしくは魔素(マナ)が精神に影響が及ぼせる前提が必要なので注意したい。
管理者もしくは神の膝元である場合、彼もしくは彼らのいる世界が別、同居しており、魔法と言っている以上は魔力もしくは魔素(マナ)はそこに影響がある必要がある。この場合も、物理距離によるタイムラグは考慮したい。
次はアクセス権限である。
アカシックレコードはその存在から英知そのものと言っていい。もし、管理者もしくは神がいるとするのならば、フルアクセスできるようにはしないだろう。それこそ、不自然な進化を招く。
その為の鑑定と言う用途の限定ともいえるのだが、やはり対象を丸裸にしてしまい、プライバシーのへったくれもない上に、情報過多で使用者がパンクしかねない。
なので、アクセス権は全権与えられてないと考えるのが自然であろう。
どのような形の鑑定魔法であれ、開発には絶対的な注意が必要である。
アカシックレコード接続型は、アカシックレコードの存在に気付き、接続できることに気付くことが必要である。
地球におけるアカシックレコードは概念、即ち、思考活動の末に生み出されたもので、存在が確定している物ではない。これと同じように、思考活動の末に、アカシックレコードの存在が考え出されたのならば、証明を行っている過程で鑑定魔法が生まれたとすると自然だろう。
物質を判別する術(すべ)を研究している過程で生まれたとする場合、アカシックレコードの存在もその過程で明らかになるだろう。また、この場合は過程でなくても後から別の人が明らかにするのでもよいだろう。
アカシックレコードではない鑑定魔法は物質を判別する術(すべ)を研究している過程の一択となるだろう。
後書き
鑑定魔法の原理は世界観設定にかなり食い込んでくる魔法であると思っている。情報の出どころは一体どこなのか、不思議でしょうがない。
私の見地が狭いせいでこれくらいしか回答は出せなかったが、他にもいろいろ考え方はあるだろう。
ゲームとして、世界のシステムとして、そうやって出してしまうのが簡単明瞭なのは間違いがないので、あまりそのような扱い方を説明していない。
鑑定魔法と言う特定の魔法に焦点を当てたので、次は同じくらい私が扱いに困っている回復魔法について論じようと思う。
ゲームとしての回復魔法はどのように現実に落とし込むのかに焦点を当てる。
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