第二回 魔法と科学は同じもの

   前書き


 前回、魔法があれば科学は発展しないかと言うとそうはいかない、と締めくくった。

 今回はなぜそんなことが言えるのか解説していく。


   歴史


 まず、科学が発展しないことがそもそも考えられない。

 人の歴史からすると科学の発展はかなり後期から急速に発展する。それまで全く発展していなかったかと言うとそうではない。

 石器から鉄器に発展したのはそう遅い時期ではないからだ。

 細かく見ると話がずれるので概略に止める。

 石器から鉄器になったのはより便利になった、なるからで、科学もより便利にするために発展する。

 たとえ動物だろうと、争いは必ず起こる。縄張り争いとて戦争と同義であり、縄張りを守る為、あるいは広げる為に行われている。

 これは生存の為の必要な物であり、戦争が起こる背景にはほぼ必ずこの理由がある。

 この時、武器は石器から鉄器へと進化する。削る、割るから、精錬の技術が加わり、硬さとしなやかさを手にし、殺傷力の向上と安定、利便性がもたらされる。いきなり鉄器と言ってはいるが、間には銅器や青銅器が当然入ってくる。

 地球で言えば、これで紀元前の話になる。

 ここから現代までは、金属の精錬技術が向上し道具が発展する。近代に入ってから科学分野で物質を紐解き、新たな物質を生み出していく流れとなる。

 ここまで聞けばなんとなく察するだろう。

 生存戦略において、利便性を追求するのならば科学は欠かせないので、発展しないことがそもそも考えられないのである。

 ここに魔法が加わるとどうなるのだろうか?


   魔法があるのならば


 まず考えなければならないのは、魔法にどんなものがあるかということである。

 そして、その前提として、火もしくは熱エネルギーを操ることができて、物質としての性質が地球にある物と似ていたかどうかである。

 この熱エネルギー操作と物質の類似性と言う前提がなければ、小説に起こす場合は、まさに神として様々に創造と想像しなければならない。そこまで話を広げると長くなりすぎるので、この話は今後の課題として後の回で取り扱う。

 前提があったとして話を進めよう。

 魔法が存在する世界では、三つの状態になることが予測できる。


 一、地球と同程度に科学が発展する。

 二、地球より科学の発展が遅れる。

 三、地球よりも急速に科学が発展する。


 一つずつ見るのではなく、ここで魔法に目を向ける。

 多くのファンタジー小説で登場する鑑定魔法だが、原理等の詳しいことは後の回で紐解くとして、ここでは、物質がなんであるのか明確になる魔法として扱う。

 この鑑定魔法の有無は大きな岐路を作る。

 物質がなんであるのか明確になることで、発見が容易となり、科学による物質定義の為の時間が大幅に短縮される。鑑定魔法の程度によっては、物質定義の為の時間も要らない。

 例えば、鑑定魔法で金属の鉄と分かっていれば、鉄の性質を調べるだけになる。分かっていなければ、性質から金属であることを調べた上で、細かな性質から鉄として確定していくことになる。調べることが一つ増えている。

 この為に、三である地球よりも急速に科学が発展することが見込まれる。つまり、鑑定魔法がないと一か二が見込まれるということである。

 鑑定魔法はないが魔法の発展が目覚ましく、戦争において武器の介入余地がなく、魔法を扱う素養がどんなものでも一定以上あるとなると、二が見込まれる。

 暮らしの道具が金属製になるのも遅れるだろう。食器や調理道具は陶器で十分であり、現代では陶器で作ったほうがおいしいとさえ言われるからである。

 一はその中道であると考えられるだろう。

 戦争は兵士の仕事であっても、数の勝負である。一般人の魔法素養が一定以下であるのならば、戦争における武器の介入余地が出るのだ。

 また、一の発生を考えるのならば、二、三よりも複雑に要因が絡み合うことになる。


   魔法が科学を吸収


 前段の三つの状態であっても、魔法が科学を吸収するだろうと、私は考えている。

 後世に受け継ぎ発展する場合、魔法が学問になるのは当然であろう。魔学とでも名付けよう。

 前回はっきりとは言わなかったが、魔法とエネルギーは切り離せない関係にある。同じように科学とエネルギーも切り離せない。これは頭において続きを見てほしい。

 学問となると、魔法を細かく見ていくことになる。

 細かく見るとは、即ち原理原則を紐解いていくことになる。この時、魔素(マナ)によるとか、魔力直接と言う、小説の設定は割とどうでもいい。設定を落とし込むのは作者の仕事なので。

 この時、前回わざと話をしなかった魔法陣が絡む。

 私は『魔法陣とは魔法の設計書』だと思っている。これ、科学分野に似ているものがある。

 化学反応式である。

 『2H+O→H2O』と言うこれは、言語を使って化学反応を式で表したものだ。媒体の限界でこれ以上正しい式にはできないので、その突っ込みは勘弁してほしい。

 『魔法とは魔力(と魔素(マナ))によって引き起こされる、引き起こした現象』であるのならば、それ書いたのが魔法陣とすると、『水素の酸素が反応して水になる』ことを書いたのが化学反応式でもあるので、似ていると言えるだろう。因みに、熱化学方程式も似たものだと言える。

 魔法陣は伝える媒体として定義すると、すんなり落とし込めるだろう。また、魔法陣とは魔法の設計書だと思っている理由でもある。

 ほかにも、魔法を発動させるとき、魔法陣が浮かび上がる演出がある。

 魔法陣が魔法の設計書でないならば、魔法陣が浮かび上がる演出は要らないと言うより、無理がある。

 単なる演出ならば、魔法陣には別の意味を持たせなければならない。例えば、システムとして無条件に発生する等である。でないと無用の長物と化する。あるいは魔力を無駄にしている。

 理由がなければ無駄なものはなくなっていくか、そもそも存在しない。

 だからこそ、『魔法陣とは魔法の設計書』であり、設計書である必要があるのだ。

 私が魔法陣を別の設定にできないので、他にやり方があればご教授願いたい。

 さて、エネルギーの話だが、ちらっと熱化学方程式も似ていると言った。

 水を例にとると『H2(気)+1/2O2(気)=H2O(液)+286kJ』こうなるわけだが、気体の水素と気体の酸素を反応させると水ができて熱エネルギーが放出されることを表している。

 実際、気体の水素と気体の酸素を反応させると激しい燃焼伴う現象である。補足すると爆発は激しい燃焼のことを言い、水素爆発はかなりえげつないものなので各自調べてみてほしい。

 『魔法とは魔力(と魔素(マナ))によって引き起こされる、引き起こした現象』なので、『魔法陣とは魔法の設計書』であるなら、魔法陣にはエネルギー事がかかれていてもおかしくはない。

 そもそも、火魔法の根本は熱エネルギーを放出する現象のことなので、魔学で原理原則を紐解き、魔法陣で伝えるのならば、書かれてない方がおかしい。

 また、魔力自体は力と言っている以上エネルギーなので、魔力からどうこう言う時点で書かれていないとおかしくなる。

 ここまでで察せる方は、私が魔法は科学を吸収すると言った意味は分かっただろう。

 分からなかった方の為にもう少し話をしよう。

 科学とは原理原則を紐解き、新たな物質、現象を生み出すことが本質である。原理原則を紐解く事の中には、物質だけでなく現象も入っている。熱化学方程式からも分かることである。

 『魔法とは魔力(と魔素(マナ))によって引き起こされる、引き起こした現象』

 この言葉、よく考えてほしい。既に科学されていないだろうか。

 つまるところ、魔法及び魔学と科学は同じものなのだ。

 むしろ、魔力によってどうこうできる分、魔学によって魔法が発展すると、地球で言うところの科学は急速な発展する方がすんなり来るほどである。

 どんなに無粋と言われようと、私が科学持ち出す理由はここにあり、科学が発展しない方がおかしいと言う理由はここにある。


   科学が発展しない世界


 私の考え方ではありえない事ではあるが、考えてみよう。

 物質とエネルギーは地球の物と似ているのなら、と言う前提の下、これまで話をしてきた。では違うのなら、どうなるだろう。

 と言っても、似ていない物質はないだろう。名前が違うだけだったり、用途が違うだったりするだけだ。物質には異性体と言うのがあり、還元していくと構成が違うだけで同じものからできているだけである。それと同じことにしかならない。

 エネルギーが地球の物と違うというもの同じだ。エネルギーとは力、どんな力が働くのか考えることから生まれた概念なので、この場合は名前が違うだけになる。

 科学は人間が利便性を追求していくことで発展する。つまり、魔法によって人類が現状に満足し、利便性を追求しなければ発展はしない。

 この状況を考えればよい。

 結論は既に出ていて、生存を含む競争性か、種の繁栄がどこかで止まることである。

 保守派による革新の否定はどんなに激しかろうと無理である。現状に満足しない者が現れる証明であるので考えられない。

 一般的な進化論から外れてしまうのだが、生物の進化は次のように考えることもできる。生物は種の繁栄があるからこそ進化する。その過程において絶対に避けられないのが、生存競争である。種を反映さえるには生きて子を残すことが必須であり、生きる為には環境に適応する必要がある。

 キリンが首を長くしたのは高い場所にある植物の葉を食べる為、狼やライオン、トラの牙が鋭いのは獲物にしっかり食いつき、肉を引きちぎる為と考えれば、生きる為の環境適応してきたとわかる。

 この考え方は生物の章でも使うので頭の片隅にでも入れておいてほしい。

 また、何かが発展していくとき、そこには必ず競争性がある。これは人類を見るのが手っ取り早い。人類は社会、コミュニティを作り、集団に特化していると言っても過言ではない。集団が大きくなればなるほど、集団が生きていくための土地が必要となる。

 戦争の醍醐味はこの土地の獲得にある。土地の獲得によって物資が潤うからである。

 現代の場合、太平洋戦争、日本とアメリカが戦争を始めた理由は物資が関係する。アメリカが輸出を締め上げたことで日本は物資不足となって、外交で解決できなくなって踏み切られたのは事実でしかない。それがいいか悪いかは論点ではないのでコメントは控えし、控えるように。

 物資がなければ集団は養えない。と言うか人一人養えない。その獲得の為に戦争は起こされる。

 勝てば獲得し、負ければ失う。勝つしかないのなら、道具を進化させるか、より有効な魔法が必要となる。

 この時、攻撃魔法だけが先行していけば、と考えてもフィードバックが必ず起こるので、最終的に魔法全体が進化するのでありえない。

 つまるところ、これらがどこかで止まれば発展しないだろうが、同時に魔法も発展しない。

 止まるのはどのような状況かと言うと、そもそも止まらないか、環境が急激に変化して死滅するときしか考えられない。

 環境が急激に変化して死滅する場合、同時にそれまで築き上げられた物は無意味なものになるので、除外しよう。

 で、考えるべきは止まらない理由だ。

 食欲、睡眠欲、性欲は三大欲求として有名である。このうち二つは生きる為に不可欠なことである。しかし、うち一つの性欲は生きることだけを考えれば必要がない。そして性欲は本能である。

 種の繫栄の為には生きることと子を残すことが条件である。だから性欲は本能であり、性欲が本能であるから種は繫栄しようとするのである。

 性欲がなくなれば子はなさない。そして、子がなされなければ滅びるだけ、外部から手が入らなければ絶滅である。理性によって欲は抑え込める。しかし、抑え込めばいずれ爆発する。

 つまり、性欲がなくならない限り、種は繫栄し続ける。これが止まらない理由だ。そして、種の繫栄が止まらない以上、いつか科学が発展する時が来るのである。

 これらから、科学が発展しない世界とは、発展する前に発展させようとする種族が滅びるしかないのである。


   後書き


 さらっと魔法陣を出した上にこんなところで出していいものかと、全体を眺めながら思うわけだが、魔法陣の存在事由を考察した場合、どうしようもなかった。

 さて、今後の課題として熱エネルギーを扱うことができる、物質の類似性、鑑定魔法をあげた。

 魔法関連の話が続いているので、鑑定魔法については次回取り扱う。

 熱エネルギーと物質の類似性に関しては主に世界観、世界システムの一要素としての側面が強いのでかなり後の回になると思われ・・・容赦ください。

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