ファンタジーの為の異世界解体新書
紫隈嘉威(Σ・Χ)
魔法のあれこれ
第一回 ファンタジーの醍醐味、魔法とは
前書
我々の世界に魔法が存在しないのは周知の事実である。
ファンタジー小説において絶対的に欠かせないのが魔法である。魔法とはいかなるものなのか、原理原則を論じてみたいと思う。
小説毎に様々な定義をしているが、中には漠然として詳しく説明のない小説も存在している。無論、中身として頻出するものでもないのなら、いらないのだろうと判断するのは分かるのだが、それでいいのだろうかと思うのだ。
私はそのような漠然としたアプローチはいかがなものかと思う。
存在しない物を登場させるというのは相当な労力が必要となるのは、小説を書く諸兄はお分かりかと思う。
ファンタジーとはすなわち幻想、それが存在したと仮定するのがファンタジー小説だと私は定義している。
読書する諸兄も含め、物語を理解、構築するための一助となればと思う。
魔法ってなに?
魔法の歴史と言うのは調べてもらえばわかることなので、これは省略する。論じても仕方がないからではなく、論じたいのはそこではないからだ。
魔法と言えば、その多くはイメージを大切にすることが多いと思っている。また、イメージで済ませてしまうことも多いかと思う。
これ自体を否定する気はない。と言うのも、モノづくりに置いて最も大事なのはイメージであると思っているからだ。これが曖昧なうちは絶対に出来上がらない。むしろ、イメージがわかないのにモノづくりはできないものだからだ。
それと同じことだと言うわけだ。
さて、魔法はとはどのような物だろうか。多くは、攻撃手段や生活を便利にするものだろう。
このアプローチを行うと、自然と魔法の形は決まるだろう。
有名なのはファイヤーボール、炎を球状に発生させ相手にぶつけると言う魔法だ。物語によっては、対象を燃焼させるだけ、対象で爆発するなどの効果が存在する。
この時考えなければならないことがある。
それは、『いったい何が燃えているのか』ということだ。
氷魔法とて同じである。氷と言うのは水がゼロ度以下になって状態が変化したものをいう。『水はどこから来るのか』『どうやって温度を下げたのか』と同じことだ。
共通しているは、エネルギーと物質である。
魔力
二つで話をしても長ったらしくなるので、火魔法をピックする。
科学的に燃焼の基本は酸素とその他の物質の反応である。この時熱エネルギーが発生し、火となり炎となり爆発となる。そして反応後の物質が出来上がる。
まず、これを押さえておいてほしい。
次に、魔法に欠かせない要素として、魔力と魔素(マナ)と言うのがある。
魔力よりも先に魔素についてだが、魔素は登場しない場合がある。つまり、魔力を使って魔法を起こしているという描写だ。
これが先に論じた理由で、魔力によってエネルギーと物質を操っていると定義するだけで中身はともかく、通る。
中身がともかくと言ったのは、魔力によってエネルギーと物質を操る原理である。
そもそも、魔力自体は字面の通りならエネルギーである。これが、術者の思い通りのエネルギーに変換できるのであれば解決は早い。引力に変換して物質を引き寄せ、熱エネルギーに変換して引き寄せた物質を反応させて火を発生させると。
しかし、変換原理はどうなっているのだろう。
エネルギー変換はただでは行えない。位置エネルギーと運動エネルギーの変換はただに見えるが、重力、引力があって変換が行われる。宇宙では変換が起こらず浮いてしまうのでそういうことだ。
エンジンはメカを作りこむことによって変換が行われる。ガソリンと空気を混合圧縮し燃焼させ、膨張エネルギーを単一方向の直線運動エネルギーに変換している。さらにメカを作りこんで、直線運動エネルギーを往復運動エネルギーにし、回転エネルギーとして取り出している。
このように、何かが介在しない限り、エネルギーの変換は行われない。
では魔力はどのように変換が行われているのだろうか。
手っ取り早いのが術者の能力によって行えると定義するのである。すると、自然に特性と言うのも生まれる。人間には必ず得手不得手が存在するので、魔法適正と言うのが作れるのだ。火魔法が得意だとか。
ただし、注意しないといけないことが熱エネルギーにある。
熱い物質は周囲に熱エネルギーを放出している。しかし、冷たい物質は周囲から熱エネルギーを奪っている。つまり、物質を熱くする場合は熱エネルギーを与え、冷たくする場合は熱エネルギーを奪う必要がある。
奪う方が厄介で、魔力がエネルギーであり、変換できるものであって、術者の能力で変換できるものであっても、エネルギー保存則を考えると筋が通らなくなるのだ。
筋が通らない理由は、熱エネルギーを奪っているので、物質は冷たくなるが、奪った熱エネルギーをどう消費するかと言う問題があるのだ。
と言っても、負のエネルギー変換が起こればよいので、そこまで問題ではない。術者の能力でできるのだから。できることにした方がいろいろ都合がよい。引力にしても、引き付けるだけでなく、遠ざけることもできると幅が広がる。
さて、火魔法において燃焼後の物質はどうするべきだろうか。
威力を得たいなら、水が手っ取り早い。還元して燃焼させれば莫大なエネルギーを得られ、燃焼後得られるのは水である。
還元を絡めると容易に解決するだろう。また、この反応をコントロールするすべがあれば威力をコントロールできる。問題があるとするなら還元に使う魔力のロスだろう。
また、水は水蒸気としてよほど乾燥していない限りはどこにでも存在する。液体状態から考えると少ない量から発生するエネルギーは莫大なので効率が良い。また、蒸発させて霧散させても、河川に戻しても、海に戻してもよく処理は容易だ。
このように考えていくと、大変ではあるが辻褄を合わせていくのは楽だろう。
これで、魔素(マナ)が存在しない世界はいいだろう。
魔素(マナ)
私は別でファンタジー小説を書いているわけだが、入れなければよかった、と後悔している要素である。
多くは魔力で魔素を操って魔法と成すアプローチが多い。
この場合魔力は魔素を操る力と言い換えられる。また、魔素があったほうが、遠隔攻撃や遠隔で発動させるには都合がよい。
魔力から直接魔法を発動させる場合、魔力を遠くまで放出できることが前提となる。しかし、魔素を間に挟むと連鎖反応によって遠くに放出できるという要素は要らなくなる。
放出する場合、距離が長ければ長いほど、多くの魔力が必要となる。無論、魔力は空気の抵抗を受けないと定義すると話は違ってくるが。熱エネルギーの場合は伝導率というが、伝導率が悪いと言うのは、伝えることに抵抗を持っていると考えれば、魔力がその影響を受けないと言うのは都合がよすぎるのではないかと思うこともある。
存在しない物がご都合主義の塊になっても仕方がないので、栓のない話ではあるのだが。
魔素は素粒子系で扱うことが多いだろう。効果としては触媒、状態変化、エネルギー代用、物質代用と多岐にわたる。要するに、万能物質である。
魔素が出てくると五割ほどは世界樹が登場する。この場合、多くは地脈のエネルギーを世界樹が吸い上げて魔素を作り出す。
物質である以上、消費があるのは当然である。
世界樹によって魔素が作り出されない世界は、魔法を使うたびに魔素が減る表現がされる。減った魔素を補うための転生や転移と結びつけることもある。
とは言え、本当に物質なら魔素は減らない。物質は半減期以降の自己崩壊をしない限りなくならない。自己崩壊しても、中性子、陽子、電子が放出されるだけだ。
例を挙げるのなら蝋燭、蝋は確かに減っているが、二酸化炭素や煤と言う形で別の物質に置き換わっているか、分解されていると言うのが実情だ。
魔素がエネルギーだとしても、エネルギー保存則上減ることはない。平滑化されるだけだ。
なので、魔素が減っていくものであると言うのは考えにくい。別の物質に置き換わっている方がよほど自然だろう。
化学には還元と言う言葉があるように、魔素に戻す方法を創世者が知らないと言うのはお粗末すぎないか、と考えることもある。
それはさておき、魔素が消費されることで、別の物質に置き換わっていることを記述した小説や物語を未だかつて見たことがない。私の見地が狭いだけなのだろうか。
属性
以前SNSで少し語った。
属性の基本は五行説に置くことができる。五行説には相乗と相克の関係があり、火魔法は水魔法に弱い、打ち消すことができるなど、相克の考え方そのものである。
一般的に定義される属性は『火、水、風、土、氷、雷、光、闇、時間、空間』の十個だろう。五行説からすると相当増えているが、相乗と相克の関係は適応できる。ほかにも、毒や酸、金等が足され、土を地と変えて金属を内包するだろうか。
このような定義の仕方は、単純に何の魔法なのかと言うカテゴライズしたものが属性と言うだけの話だ。もっと言えば見た目がそうだと言うだけだ。
さて、読者に質問したいことがある。
『ここに、魔法によってドロドロに溶けた液体状の鉄がある。この時の属性を答えよ』
あなたが何と答えようと、正解は定義次第である。
鉄の融解温度は約千五百度である。魔法によってドロドロに溶けた液体状の鉄も、千五百度以上の熱を持っているとわかるだろう。
では、そんな熱々の液体状の鉄を撒いたらどうなるか、想像に難くないだろう。だからと言って火魔法なのかと言えば、『鉄は何なの?』と言う話になる。
と言うのも、属性は魔法をカテゴライズしたものであるならば、金属を扱う魔法は土魔法か地魔法、金属魔法のはずである。更に、鉄の状態は液体なので、水属性も入っていないだろうか。
大体の場合は複合属性として処理する。カテゴライズしたからと言って、複数のカテゴリーを跨ぐ物は存在するので間違った処理ではない。
カテゴライズだとするのならば、火魔法と言う言い方があるように属性は必要ない。
新?属性解釈
未だかつて見たことがない属性の概念として、エネルギーを属性として扱うことである。見地が狭いだけかもしれないので新に「?」を打たせてもらっている。
エネルギーには『熱、位置、運動、引力(重力)、光、電気、音、静止』と言う種類がある。
位置エネルギーと引力エネルギーはポテンシャルエネルギーにまとめられるように、熱エネルギーは熱エネルギーと冷却エネルギーに分けてしまうと扱いやすくなる。
なぜこんなことを言うかと言うと、エネルギー保存則で説明に上がる位置エネルギーと運動エネルギーの変換は引力エネルギーがないと起こらないからである。
また、物質を冷却する場合、物質から熱エネルギーを奪うことになる。しかし、熱エネルギーと言う字面上、ちゃんと説明しないと読者に熱いと言う印象を持たれ、熱エネルギーを奪うことが難しいと感じられてしまうからである。エネルギー保存則と言う側面からも通らない。
これだけ理解と定義ができれば話は早い。
属性とはエネルギーであるとすると、火魔法は物質を燃やす熱属性、風魔法は大気を動かす引力属性などとできる。また、魔力もエネルギーなので、無属性が魔力そのものとすることもできる。
このような属性の置き方では、相克や相乗、即ち属性相関はより単純になる。無論説明責任の重さが増すので、これはデメリットとなる。
属性相関が単純になることの良さは、熱属性の魔法を放たれたら冷却属性の魔法によって打ち消せることがわかりやすいと言うところにある。物質がどんなに激しく燃えていようと、物質が冷却されると火の手は止まる。火事の際に水をかける理由はこれなのだ。
また、物質が燃える原理は酸素との反応なので、引力属性で真空にしてしまえば火は消えてしまう。消火器から粉が出るのは酸素を含む空気を遮断することで反応を止める為で、粉が出ない物も酸素の供給を遮断することで火を消している。
多くの人が聞きなれないであろう静止エネルギーは、質量があれば存在するエネルギーのことで、質量が消滅した際に発生するエネルギーということでもある。
この静止エネルギーは非常に便利で、奪えれば物質消滅の魔法は可能であり、与えられれば物質を生み出すことができる。つまり、無から有を、有から無を生み出すことが可能となるエネルギーだ。
ただ、静止エネルギーは質量に光速の二乗をかけた膨大な量なので注意したい。また、字面で勘違いされる可能性もあるので出すならきちんと説明したい。
エネルギーを属性とすることで、単なるカテゴライズにはならない。また、魔法理論を展開する場合に便利になる。
熱属性によって任意の人、動物、物質を発火させる発火魔法。
引力属性によって任意の物質を寄せて熱属性で発火、さらに引力属性によって球状に発火させ任意の対象にぶつけるファイヤーボール。
このように属性によってどのような力を働かせるのか、どのような魔法なのか説明がわかりやすくなるのである。
エネルギーという概念は物理学、科学の領分なので、『エネルギー』と言う言葉を排除すると、あたかも科学的な見地から切り離しているように見せることも可能である。
後書
科学と絡めて私は無粋なのだろうかと思うわけだが、論じる為には外せないので勘弁してほしい。と言うか、現代に魔法があっても、結局科学で解き明かさせるだけなのだが。
そもそも、科学とは原理原則を解き明かす学問だと思っている。なぜ物質は燃えるのか等。
魔法があれば科学は発展しないかと言うとそうはいかない。
次回はそのあたりを語る。
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