華銀は終わらない。
久しぶり、銀二くん。この動画を見てるってことは私はもう死んだんだよね。
ちゃんと葬式には参加してくれたかな? 君のことだから泣いたりしないでちゃんと参加してくれたよね、きっと。
いつも君と二人だったから一人で撮るのはなんか恥ずかしいな。
えーっと、まず、人生で初めておっぱい触られたよ! 事故かもしれないけど普通は謝たりするもんじゃないの? それなのに君は何も言わずに出て行くんだもの。触り逃げじゃん。あははっ。
――わざとじゃないんだって。
まあ、君のことだからわざとじゃないってことくらいはわかってたけどね。
中学の時に助けられて、君に憧れて、君と同じ高校だって知った時はちょーテンション上がった。いつかまた話したいと思っていたけど、君が高校でも中学の時みたいに暗くて、いっつも一人でいてみんなからの評判がわるいから気軽に話しかけられなかったよ。
――ぼっちで悪かったね。
カップルユーチューバーを見て、自分たちの思い出を形にするって素敵だなーって思ったから、私もやってみたかったの。
そんな時に君が事件を起こしてくれたから私は君とユーチューブを始めることが出来た!
君は私の病気を知っても逃げ出さないで、私に向き合ってくれたね。本当に嬉しかった。
水族館に二回行ったね! ペンギンより私の方が可愛いって言ってくれたこと、嘘でも嬉しかったよ。
――嘘じゃないよ。一回目は照れくさくて素直になれなかっただけ。
いちごもとっても美味しかったね。温泉にまさか一緒に入るなんてね! 君が私のカップ数当てるとは思わなかった。さすが触り逃げ犯はちがうね! あはははっ。
――さっきから触り逃げって、当て逃げみたいに言うなよ。
私は病気が分かってから、無理やり明るく笑って見せようとしてたけど、君といるときは自然と笑顔になれた。
笑うことが増えると体調も良くて、君のおかげで少しは長生きできたのかもしれない。
最後にハグしてくれた時の温もりは、死んでも忘れないと思う。
君は面倒見がよくて優しいんだから、きっとクラスの人たちとも仲良くやれると思うよ。もっとさらけ出していこう!
――頑張ってみるよ。
ユーチューブの編集もありがとう。君はいいセンスしてるから、この調子で華銀カップルのチャンネルをもっと大きくしていってね! チャンネル名は変えてもいいからね。
――今のところ変えない予定だよ。
最後に私からお願いがあります!
それはね、君に笑ってほしいんだ。
笑って、私が生きれなかった分の人生を明るく過ごしてほしいんだ。
私は君の笑った顔、好きだよ。たまにしか笑わないけど、とても素敵な笑顔だった。
その笑顔を、ユーチューブでたくさんの人に届けてあげて。
ほんとは、まだまだ君とユーチューブ続けたかった。
いろんな場所に撮影に行って、まだまだ撮影したかった。
そして、君と本当のカップルになりたかった。
偽じゃなくて、本当のカップルとして撮影に行ってみたかった。
――僕も、そう。同じこと思ってた。
好きだなんて言っちゃってごめんね。気持ちだけ受け取ってとか無責任だよね。
君はどうだった?
私が無理やり付き合わせたせたユーチューブ、楽しかった?
私はとっても楽しかった。撮影しているときもしていない時も、君といるだけで幸せだった。
何か嫌なことがあったり行き詰まったりした時は、空を見上げて。そしてら私が精いっぱいの笑顔で元気付けてあげるから!
そうじゃない時も、たまに私のことを思い出してね。
私との日々を忘れないでね。
――忘れるもんか。
こんな自分勝手でわがままな私に付き合ってくれてありがとう。
たくさん、たくさんありがとう。
大好き。
動画が終わると、一気に現実に戻された気分になった。
「……はあぁ。泣かないって決めたのになぁ」
僕は涙をこらえることが出来なかった。
僕も君が好きだった。
僕も君と本物のカップルになりたかった。
死ぬってわかっていても、それでもいいから君の恋人になりたかった。
「ずるいなぁ。自分だけ言いたいこと言って……」
こんなことならあの時伝えるべきだった。本当は返事が欲しかったのかもしれないのに。
後悔でさらに涙が溢れて止まらなくなった。
「……ごめんねっ……」
僕は声を上げて泣いた。人生で一番泣いた。
僕頑張るから。
君が遺したユーチューブで、頑張るから。
僕を誘ってくれてありがとう。
たくさんの思い出をありがとう。
僕も好き。大好きだ。
僕は窓から空を見上げ、笑って見せた。
華、見えてる? 僕、笑えてるかな?
そっか、まだまだか。
青空の向こうで、彼女が「下手くそ」って笑っている気がした。
華と銀二は(偽)カップルYouTuber 汐川ヒロマサ @shiokawahiromasa
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