華銀、お互いの服を選ぶ。
連れてこられたのは近くのショッピングモールだった。
テーマは「お互いの服を選ぶ」だそうだ。
「どーも! 華銀カップルでーす」
「でーす」
「今日は、お互いの服をコーディネートしていきたいと思います!」
はい、と彼女は僕にカメラを渡ししてきた。
「まずは私が選ぶから、君が私を撮って」
言われるがままにメンズコーナーで服を選ぶ彼女を撮った。
「あ、これとか似合うんじゃない?」
彼女が選んだのは、今年のトレンドだという大きめのオープンカラーシャツだった。
普段服装に気を遣わない僕に、流行がわかるはずがなくこの服の良さが一ミリもわからなかった。
上下選び終えた彼女に連れてこられたのは試着室。
十五年生きて来たが試着室に入るのは初めてだった。なんせ店員に「試着していいですか?」などと聞かなければならないし、試着したなら買わないといけないような雰囲気がして嫌だったからだ。
彼女が店員に気軽に話しかけている姿を見て、ああいうコミュニケーション力は将来確実に生きてくるだろう思った。
「それでは、普段はダサい服しか着ない彼はいったいどのような姿に変身したにか!」
カーテン越しから聞こえる彼女の声に少しだけむかついた。
じゃじゃーん、と彼女がカーテンを開けた。
「おおー、いいじゃんいいじゃん。似合ってる! さすが私、いいセンスしてるう!」
「そこは僕のスタイルを褒めてくれないかな」
自慢ではないが僕は身長が百七十八センチで体重が六十八キロとなかなかいいスタイルをしていると思う。
「まあ、たしかに高身長ですらっとしてるからね。でも服は私が選んだもんっ」
まあいいや。ここは彼女に花を持たしてやるか。
「じゃあ、今度は君が私の服を選ぶ番ね!」
わかってはいたが、やはり僕も彼女の服を選ばなきゃいけないのかと思うと、荷が重い。
「店員に聞きながら選んでいい?」
「えー、私は君の選んだ服がいいの」
「そんなこと言われても……。僕が選んだってセンス悪くて君に恥じかかすだけだよ?」
「私は君のセンスを信じるよ」
ここでぐずぐずしていてもしょうがない。ぱっと決めてさっと着てもらおう。
しかし、いざレディースコーナーに行くとメンズの二倍以上の数があり、ぱっとは決められそうにない。
「悩んでますねー。可愛い私に着させるんだから、かわいい服お願いしますよー」
後ろから撮影しながら煽ってくる彼女が憎たらしかった。
実は試着室で制服に着替えている間にこっそりレディースのトレンドを調べておいたので、意外と時間はかからずに済んだ。なんせ画像を真似ただけだから。
「それでは、お願いします」
すると彼女は中から「ちょっと」と言ってカーテンから顔をひょこっと出した。
「うん?」
「名前、呼んでよ。華さんお願いしまーす! って」
そう言うと彼女は顔をひっこめた。
そっか。これはカップル体の動画だから、恋人同士は名前で呼び合うのが普通なんだよな。
……名前。初めてで少し緊張した。
「はーやーくー」
「今やるよ」
「それでは、華さんはどのように変身したのか、どーぞ」
僕がカーテンを開けると、そこには僕が適当にネットで見つけた洋服を着ているとは思えないほど、彼女はその服たちを着こなしていた。
「どう? かわいい?」
リラックス感のある黄色のリブパンツにクリーム色の薄手のロングシャツ、中には黒のタンクトップ。
「……う、うん。似合ってる」
「君いいセンスしてるよー」
僕が参考にした画像は、大人向けのファッションだったようだ。しかしそれを彼女が着てもなんの違和感もなく、雰囲気が制服姿と一転して大人な女性に変身していた。
「着こなした私がすごいのか! うふっ」
これには反論できなかった。本当のことだから。
撮影を終え、自分の着た服を元に戻そうとしていると、
「え? 買わないの?」
「今日も服を買えるほどのお金持ってないんだ。選んでもらったのに申し訳ない」
「うーん、じゃあ私が買ってあげる! そもそも今日は撮影の約束していなのに付き合ってもらったし、そのお礼に!」
「いやいや悪いよだって……」
上下合わせて一万円近くする。定期も買ってもらったのに、服まで買ってもらうのは申しわけなさすぎる。
「いいのいいの。私がプレゼントしたいと思ったの。プレゼントだから気にすることないよ!」
彼女は何も言えずにいる僕の手からシャツとズボンを取ってレジへ向かった。
結局彼女は自分の分も買って三万円近く支払っていた。
「お金絶対返すから……」
「気にしないでって。はいこれ。私からのプレゼント!」
彼女は笑顔で二つ持っていた袋の一つを渡してきた。
「……ありがとう」
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