人魚

タマサトエリ

人魚

夜の港町。

暖かいオレンジ色、柔らかい白い色に灯る街の灯り、

静かに波打つ海をゆったりと照らす灯台の灯りが私は好き。


陸から離れた沖は凪ぎ、しっとり優しい海の香りに体を包まれる。

聞こえるのは静かな波のさざめきだけ。


深海から大切な真白い貝殻を胸に抱いて泳いできて、こうしてこの岩場に腰掛けて、暖かに輝く街を眺めてゆっくり過ごす時間が幸せ。


きっとこんな姿を見つけた人間が、人間の男の人に恋心を抱き憧れる、

そんな人魚伝説を生み出したのかしら。


   ・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


海を守るウミガメが、この貝殻を私の元へ届けに来てくれた時、

人魚が一人、海の泡になったことを知ったの。


人魚はみんな、人間の青年の見た目で成長を終えるけれど、

寿命は三百年。怪我をしてしまうと長くは生きられない仲間もいるわ。

死期を悟ると、誰にも告げず、誰にも見えないところへ行き、

仲間と海を守る幸せな泡となって、水にきらきら優しく溶けていくの。


人魚の世界には、争いはなくて、捕らえて見世物にしようとする人間をも愛しているの。でも、どうしたって、逃げなくてはならないでしょ。近頃ではとても深いところまで降りてくる機械もあるから、とても大変だけれど。


深い海のまた深くには、たくさんの国とそれぞれのお城が建っているのよ。

お家も、街だってあるわ。みんな仲良し、自由にどこへだって行けるの。


   ・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


百年前、人間に捕らえられそうになった時に、

尾びれの片方がちぎれてしまった人魚がいたの。


泳ぐのも遅れてしまうから、また人間に狙われて。


それでも変わらずに、迷い込んでしまった船や人間を見つけては、

使いのウミガメやイルカに先導させて、助けていたわ。


まるで何もないかのような、変わらぬ笑顔で。

きっと最後まで。


テオ、それが彼の名前。

人魚には男の人魚もいるの。


・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・


今でもずっと、今日みたいに月の光が穏やかな夜は、

テオ、あなたといつも一緒に泳いできたこの場所に来ているわ。


二人の宝物、たくさんの思い出と約束の詰まった貝殻と共に。


ぎゅっと胸に抱きしめて、それからそっと耳に寄せ、

聞こえてくる深海の音にあなたと過ごした日々を感じて、こうして独り。


暖かに煌めく賑やかな街の灯り。


あなたと見ていた頃の景色とは変わってしまったけれど。


どう?明るく灯る街も素敵じゃない?って、頬に寄せた貝殻に囁くと、

ポッとほんわり、肌を撫でられたような温かさに包まれて…。   


もし私を見かける人間がいたら、

こんな人魚伝説も描いて欲しいわ.。o○

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人魚 タマサトエリ @tamasato_e

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