第24話 カラオケボックス

「いらっしゃい!まあ、よく来てくださいましたね」


とびきり元気のよい店員さんの声が私達二人を迎えてくれる。


「まあ、お忙しかったんですか。もう半年位ぶりですよねー」


なんと、確かにこの前来たのはそれくらい前かも・・その記憶力のよさにびっくりしながらも、それがプロの店員というものかと絶大なる尊敬の眼差しを向ける。


そして、ポスターには今月の歌のテーマは『雪』


92点以上が出るとお会計から10%引き!と書いてある。


普段は歌を歌うのが好きなので、点数無しで2時間、交互に歌いっぱなしの二人である。


なのであるが、その10%引きについついのせられてしまい、


「これって、雪がつく題名の歌を歌うってことですかね」


なんてその気になって尋ねてみると、


「『なごり雪』は結構点数が出ますよー!私でも大丈夫だから、お客さんなら絶対いけますって・・」


うそ!私達の歌なんて聞いたことないでしょうに・・


と思いながらも、もう気持ちはやる気満々、もう92点が出たような気になってしまった。


しか〜し、現実はそんなに甘いものではない。


歌えども、歌えども92点どころか90点台にも届かず・・・


カラオケのバーは無惨にも赤に染まっていく・・・


ガックリ!


私のツレも私と全く同じようなレベルで、


「感情が入りすぎています。もっと元の歌に忠実に」


なんてコメントが幾度となく表示・・・


『なごり雪』『雪の華』『粉雪』


玉砕・・・


10%引きは、早々に諦めることにしたが、採点モードはそのまま継続。


「やっぱり、元歌をもっとよく聞いて練習しなきゃいけないよね」


「でも、歌ってる声はいいよねー」


そうなのだ。


まあ、身内びいきも3割増し位はあるかもしれないけれど、


連れの声は甘い低音と若いハリのある高音がとても聞き心地がよいのである。


「まあ、声だけは」


そう言いながら、毎回90点を超えない二人だが、


歌がやっぱり好きなのだ。


あっという間に楽しいカラオケの2時間は過ぎた。


今まで、そうしなかったけど、採点モードもなかなかよかったかな。


少なくとも気持ちよく歌っているが、音程はかなり外れてるということは認識できたしね。


お会計をする笑顔の店員さんは


「えー!超えませんでした?残念!


 3月もまた違うテーマでやりますから、是非挑戦してくださいね!」


常連さんでもない客のこと、また覚えてくれてるのかな。


ここのカラオケボックス、結構、お客さんも入ってるのになあ・・。


まあ、何にしろ、只者ではないと思える店員さんのいるこのカラオケボックス。


素敵なカラオケの時間を提供してもらってありがとう!


また行こうかなと思うのは、きっと私達だけではないと思う。

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