第8話 今を楽しんで生きる

お盆の間に弟から電話が入った。


何だろう?


この歳になると、久々の電話というものには警戒をする。


悪い知らせでは・・といらぬ心配をしてしまう。


深呼吸してから、応答ボタンを押す。


「ご無沙汰!元気?」


いつもながら元気な声が聞こえてきてホッとする。


「どうしたの?」


「報告、報告!」


「え?何?」


「うちの長男、今日入籍したから」


「そうなんだ。おめでとう」


そういえば、結婚は弟に先を越されたんだった・・私。


「このご時世では、式なんて、以ての外やしな。本人たちも式はええわと言うしで、


入籍だけしたんよ。そうそう・・できちゃった婚やから・・アハハ」


「それは二重のおめでたやな。それでいつ生まれるの?」


「来年3月な」


「そっか。楽しみやな。うちの兄弟で初のおじいちゃんやな。アハハ」


「そちらのご長男さんは、どうなん?」


「イテッ・・痛いところをついてきたな。まあ、先は長いかも・・」


「そう・・。縁のもんやからな・・」



そんなこんなで、予想を裏切るとてもおめでたい電話で、正直、とても嬉しかった。



弟はバツイチであるが、離婚したはずの元嫁と一緒に住んでいる。


離婚したときは、子どもたちの養育費とか諸々の支払いのために


昼間の勤めの他にコンビニでバイトしていたこともあったっけ・・・。


身から出た錆とはいえ、ホントに苦労してたと思うし、頑張っていたと思う。


「俺は、今を楽しんで生きてるから」


なんてよく言ってたな。


私は少しカッコつけすぎじゃない?


とか


軽すぎじゃない?


と思ったこともあったけど、


弟の言うように、自分がしあわせって思える人生が一番かもな・・と思ったりもする。


結婚前から、弟は元嫁と息子と息子の彼女(今はもう妻)の4人でゴルフも行っていたみたい。


いろんな家族のカタチがあるよなぁと思う。


どんなカタチが正解とかじゃなくて、なんとなく居心地が良いのがいいのかも。


何はともあれ、みんな、ずっと、ずっとしあわせでいてほしいと思う。


電話を切ってから、


急いでダイソーに行って祝袋を買い、


銀行に直行して、お祝いの新券に両替して、


心ばかりのお祝いを贈った。


そんな急がなくても、しあわせが逃げてしまうわけでもないとは思うんだけど、


弟の息子の結婚というめでたい報告が


運んでくれたしあわせな気持ちが


私の心を満たしてくれている間に贈りたかったから。


なんと翌日の午後には、到着の報告があった。


郵便局員さん、すぐに届けてくれて本当にありがとう。

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