異世界の車窓から

第16話

 ヒスイからもらったチケットで温泉旅館に泊まったのは、もう数日前の話。

 あの時は色々と大変だった。

 風呂場でのぼせて気を失ってしまった後、ハクアが龍太の魔力を使ってエルを呼んでくれて、体を拭いたり着替えさせたりはエルがしてくれたのだ。あの小さな体には重労働だったろうに。

 その後ハクアとはもはや当然のように同じ布団で寝ることになったし、やけにくっついてくるしで、本当に、本当に大変だったのだ。


 そしてあの日から、妙にハクアの距離感が近い。

 いや、元々十メートル以上離れられないのだから、それなりに近い距離感ではあったし、常に隣にいたけれど。


 例えば今。ドラグニア行きの列車に乗る当日。龍太の怪我も完治して、ジンとヒスイも含めた四人と一匹で駅にいるのだが。

 ピッタリと、腕と腕が触れ合いそうなほどの距離に、ハクアが立っている。


「……ってか、なんでヒスイまで着いてこようとしてるんだよ」


 寄り添うハクアを意識の外に追い出すためにも、当然のような顔で一緒にいるパパラッチに問いかけた。

 当のヒスイ本人は、どうしてそんなことを聞くのかと言わんばかりにキョトンとしている。


「いやですねぇリュウタさん。これからのみなさんも旅も、記事にしたいからに決まってるじゃないですか! 特に、温泉から帰ってきて更に距離感が縮まった、お二人のこととかをですね……」

「そのくらいにしておけ、ヒスイ。二人の仲が進展していることは俺も気になるが、こういうのは放っておいてやるのが一番だ」

「ジン、お前まで……」

「あら、いいじゃないリュータ。わたしたちが仲睦まじいのは事実なのだから。あなたにとって、わたしは大切な女の子なのでしょう?」


 どうやら、風呂で告げたその一言を、ハクアはいたく気に入ったらしい。

 なにかにつけて繰り返し、上機嫌に微笑むのだ。それだけ嬉しかった、喜んでくれたということなのだろうが。こうして衆目の前で言われると、龍太としては羞恥心が勝る。


 あり得るわけもないが、駅の構内を歩く他の人たちにも聞こえていないか、なんて自意識過剰に陥ったり。


 さて、四人が現在いるその駅だが。

 コーラルの最南端に位置するこの駅は、構内がドーム状の屋根に覆われ、線路は二つ。ここが終着駅兼始発駅らしく、線路はコーラルから先に続いていない。

 二つの線路の頭上には橋が架かっていて、その橋の先には軽食屋やお土産屋などが展開されていた。


 元の世界の新幹線の駅や空港なんかと似たような感じだ。人もかなりいるし、ノウム連邦から他国へ向かうにはこの列車が主な移動手段になるのだろう。

 四人が乗る列車自体は既にこの駅に到着しているが、中に入れるまでにはまだ少し時間がある。


「ああそうだ、ハクア、クローディア様から預かり物だ。今のうちに渡しておこう」


 ジンが懐から取り出したのは、以前彼に預けたカートリッジだ。しかしその時とは違い、なんの変哲もない鈍色だったそれは、他と同じ白い弾丸へと変化している。だが他と違う点が一つ。燃え盛る炎のように赤い紋様が刻まれているのだ。


「ありがとう、ジン。これで戦いの幅が広がるわ」

「たしか、クローディアさんの力を込めてもらったんだっけ?」


 ルーサーの強力な氷結能力に対抗するためでもあり、純粋にバハムートセイバーの戦力アップのためでもある。

 この世界に五体しかいない龍神の一角、炎龍ホウライの力が込められたカートリッジだ。大切に使わせてもらうとしよう。


「でも、炎龍様の力まで使えるようになるなんて、やっぱり白龍様は凄いですねぇ」

「カートリッジシステムがあってこそよ。わたしが凄いわけではないわ」


 半分本当で半分嘘。たしかにカートリッジシステムの存在は大きいのだろうが、龍太はそれよりも、ハクアの持つ『変革』の力が大きく影響しているのだろうと思っている。

 変革とはつまり、全く新しいなにかへと変わること。だが、ただ変わるだけではなく、その状態へ適応することも求められる。

 その適応まで含めて、ハクアの力なのだろう。だからバハムートセイバーは、ホウライの力にも適応してみせるはずだ。


 恐らくだが、ハクアは自身の異能について、龍太以外に打ち明けていない。もしかしたら龍の巫女たちは把握しているかもしれないが、少なくともヒスイには教えるつもりがないようだ。


 この中でハクアの秘密を一人だけ知れていることに、少しだけ嬉しくなる。


「でも、暫くはスペリオルも手を出して来ないんじゃないですか? なんて言ったって、今日からは列車の旅なんですから」

「油断しない方がいいぞ、ヒスイ。むしろ俺たちは、これからクローディア様の庇護を離れるんだ。列車の中だろうがなんだろうが、襲って来てもおかしくはない」


 そう、ジンの言う通りだ。

 今日までにスペリオルからの直接的な襲撃がなく、起きた事件が人間のドラゴン化のみだったのは、ここに龍の巫女がいるから。

 スカーデッドが直接出張って来た場合、龍太たちよりも先にクローディアか、あるいはギルドの魔導師と戦う羽目になっていただろう。だからやつらは、人間のドラゴン化なんていう間接的な手を取るしかなかった。


 だが、ここから先は違う。コーラルを離れると言うことは、クローディアの庇護を得られなくなるということ。


「もしかしたら、もう既にこの中に紛れてるかもしれねえな」

「それもあながち否定できんな。なんにせよ、警戒しておくに越したことはない」


 なにせ列車の中で暴れられたら、乗客乗員全てを巻き込むことになってしまう。そして龍太は、全員を守れるほど強くはない。その自覚がある。


「なに、安心しろリュウタ。ここから先の旅には、俺もついている。この剣は友人のために振るうと約束しよう」

「頼りになるよ、ジン」

「あたしも! あたしもヤバい時は戦いますよ!」

「ヒスイは素直に大人しくしていた方がいいのではないかしら?」

「なんでですか!」


 ヒスイの悲痛な突っ込みに、他三人が吹き出す。そうして笑い合っていると、乗車開始のアナウンスが流れ始めた。


 駅のホームに降りて、列車に乗り込む。少し狭い廊下を進み、乗車券に書かれている部屋番号を探した。

 ジンが取ってくれたのは、龍太とハクア、それからジンの三人分だ。エルは金を取られないらしい。

 ヒスイはどうやら自腹を切ったようで、ひとりだけ離れた位置の部屋になっていた。


「もっと早くに同行すると言ってくれれば、こちらで取ったのにな」

「いえいえ、あたしは勝手に着いて行かせてもらう身ですから。そこまで甘えられませんよ」

「ふむ、そうか。なにかあったら、すぐに連絡するようにな」


 ヒスイとは彼女の部屋の前で一度別れ、三人は廊下を更に進む。


「俺はここだな。リュウタとハクアはこの隣だ」

「やっぱり同じ部屋なのな……」

「何を今更。普段から同衾しているだろう」

「言い方。誤解を招くからやめてくれ」


 たしかにそうだけど。旅の途中も旅館でも、ジンの家に厄介になってる時も、二人で同じベッドや布団を使ってたけど。

 顔を赤くしながらもジンと別れ、その隣の部屋にハクアとエルと共に入った。


「おお、結構広い」

「シャワーにトイレ、キッチンまであるのね。ベッドも大きいし、この車両、一番いいところなのではないかしら」


 列車の中というからかなり狭い部屋をイメージしていたのだが、普通に広かった。たしかに列車自体もかなり大きく幅もあるし、隣のジンの部屋との距離もそれなりにあったが、まさか普通に生活できるような部屋になっているとは。


 ハクアの言う通り、シャワーとトイレは完備、キッチンも普通にあるし、なんならソファとかテーブルとかも置いてる。ベッドはしっかりダブルベッドで、これなら四泊五日の旅も快適に過ごせそうだ。


「ジンに改めて礼言っとかないとな」

「そうね」


 荷物を下ろし、二人で並んでソファに座って寛ぐ。ハクアの膝上では、エルが丸くなって寝ている。やっぱり距離がちょっと近くて、慣れるわけもない龍太は心臓をバクバクと鳴らしていた。


 暫くしてから発車のアナウンスが鳴り、僅かな揺れと共に列車が動き出した。


「ノウム連邦ともこれでお別れか」

「寂しい?」

「まあ、そうだな。二週間世話になった街だし、クローディアさんは良くしてくれたし。旅ってのはこういうもんなんだろうけど、ちょっと寂しい」

「そうね、旅は出会いと別れの繰り返し、なんて三文小説に出て来そうだけれど、実際その通りよ」


 長い長い旅を経験して来たハクアが言うと、やはり説得力がある。その中には、一生の別れというものだってあっただろう。どこか遠くを見るように、懐かしむように、ハクアの目は細められた。


「この旅にある全ての出会いと別れが、あなたの人生にとって、かけがえのないものになれば。そう願っているわ」


 優しく微笑みかけられて、また龍太の心臓が強く跳ねる。


 こうして、列車はノウム連邦を出発した。

 龍太の旅は、また一歩前進する。



 ◆



 列車が出発してから二十分ほど経った頃、ジンとヒスイが部屋を訪ねて来た。

 ドラグニア行きの列車に乗ったはいいが、今のうちに向こうに着いてからのことを決めておこう、とのことだ。


「やはりまずは、ドラグニアの魔導師ギルドに向かうか?」

氷炎の宴ブルークリムゾンですね。タカナシアオイに会うならそれが一番だと思いますけど、世界最大最強の国なんですし、ちょっと観光してからでもいいんじゃないですか?」

「わたしは城に立ち寄りたいわ。知り合いも多くいるし、挨拶だけでもしておきたいの」


 と、この世界の住人であり、ドラグニアのことについて知っている三人の意見はバラバラだ。

 まずヒスイの意見は論外として、龍太からすればジンに賛同したいところではある。一刻も早く、幼馴染の情報を得たい。そして二人と合流したい。せめて、安全な場所にいるかどうかだけでも。


 他方でハクアの意見、城に行った場合は、また別角度からの情報を得られるかも知れない。例えば、スペリオルについてだ。やつらは有名なテロリストで、以前に一度龍の巫女たちが大規模な討伐作戦を立てた、と聞いている。

 となれば、世界最大最強の国の中枢なら、スペリオルについてかなり詳しく知れるのではないだろうか。

 あと、ハクアが行きたいと言うならその意思を尊重したいところでもある。なにせ長寿な彼女にとって、生きている知り合いというのはとても大切だろうから。


「まあでも、まずは蒼さんのところからだな。城に行くのはその後でいいか?」

「ええ、問題ないわ。アオイかアリスに先に会っていた方が、城にもスムーズに入れると思うから」

「観光はどうします?」

「そんな暇ねえよ」

「えー、ちょっとくらいは楽しみましょうよぅ」


 唇を尖らせてぶーぶーと文句を垂らすヒスイだが、そんな余裕はない。コーラルでは怪我のせいで強制的に滞在を余儀なくされただけであり、本当なら少しの時間も惜しいのだ。


 ただ、旅に慣れているハクアとジンは、そんか龍太には反対のようで。


「リュウタ、急ぐのは理解するが、もう少し余裕を持った方がいいぞ」

「観光する暇はたしかにないでしょうけれど、急ぎすぎるのも良くないわ。ドラグニアには最低でも三日滞在しましょう」

「まあ、二人が言うなら……」

「あたしと態度が露骨に違うんですけど!」


 妥当なところである。

 ヒスイは遊びに行こうと言っているのに対して、ハクアとジンは龍太の体を心配して、休息のために三日滞在しようと提案してくれているのだから。


 それに、ヒスイは多少雑な扱いをしてもへこたれない強い子なので、今後も積極的に雑な扱いをしていこうと思う。


「なら、ギルドに向かって蒼さんから話を聞いて、その後ドラグニアの城に行くって感じだな。てか、城ってそんな簡単に入れるのか?」

「アリスがドラグニア第一王女で、アオイはその旦那さんだから、二人のどちらかに頼めば大丈夫ね」

「ああ、そういえばそんなこと言ってたっけ」


 以前聞いた話を思い返していると、ハクアが改めて詳しい説明をしてくれた。


 ドラグニア神聖王国は、かつて起きた戦争が終結してから興った国。龍と人間の共存を実現させた世界最大最強の大国。

 ではなぜそんな国になれたのかと言うと、二体の龍神が建国に関わっていたからだ。


 水龍ニライカナイと、風龍シャングリラ。

 姉妹でもあるこの二体の龍神が、当時の巫女と共にドラグニアを作った。

 そして今も、ドラグニア王家の血筋に代々受け継がれる形で、その二体の巫女が生まれている。


「そして当代ニライカナイの巫女、アリス・ニライカナイは、歴史上最強の巫女とされているわ。つまり、この世界最強の魔導師よ」

「世界最強……蒼さんって、そんな人の旦那やってるのか……」

「まあ、アオイもあなたの世界では、人類最強と呼ばれていたらしいし、文字通り最強夫婦というわけね。なんでも、肉体が魔術という概念に昇華している、らしいわよ」

「どういうことだ?」

「さあ? わたしも詳しいことはわからないわ」


 ハクアに分からないなら、龍太に分かるはずもない。最強夫婦については置いといて、話をドラグニアに戻そう。


「ドラグニアの城と言えば、ルーサーの使っていた龍具の件もあるな」

「ドラグニアの魔導師長がドラゴンで、そのドラゴンの龍具をあいつが使ってたんだよな?」

「ええ、そうね。ドラグニアの魔導師長、シルヴィア・シュトゥルムには、その件についてじっくり聞かなければならないわ」


 龍神の一体、天龍の娘でもあるというシルヴィアだが、そんな重鎮が謎の仮面野郎と裏で繋がってました、なんてなると、割と大事になりそうだ。

 蒼曰くルーサーは異世界人とのことだから、更に話がややこしくなりそう。


「さて、堅苦しい話はここまでにしておこう。そろそろいい時間だ、隣の車両がレストランになっていてな。昼食にしようじゃないか」

「おお、やっぱりそういうのもあるんだな」

「レストランだけじゃないですよ。カフェもありますし、夜はバーとかカジノとかも開いてます。ダーツやビリヤードなんかがある遊技場も。この列車、結構色々揃ってるんですよ。てことで、お昼を食べたら遊びにいきましょう! そして夜はカジノでがっぽり儲けちゃいましょう!」


 がっぽりって。目が金のマークになってるぞ、このパパラッチ。


「悪いけど、賭け事はしないようにしてんだよ」

「えぇ〜、つまんないですよリュウタさん」

「うるせぇ、ヒスイも大概にしとかないと、そのうち身を滅ぼすぞ」


 龍太はまだ未成年だから、元の世界ではパチンコや競馬などと言った賭け事とは縁がなかった。

 だが昨今は、そんな中高生でも賭け事と似たような真似ができてしまう。


 そう、ソシャゲのガチャである。


 現代でスマートフォンが普及すると共に、ソーシャルゲームというものは繁栄を極めた。星の数ほどのソシャゲが現れては消え、普段ゲームをしないという人間でも、ソシャゲのお手軽感に屈してプレイする者は多くいただろう。そうでなくとも、中高生の間で流行っているソシャゲをプレイしていなければ、話題に置いて行かれるなど、思春期の少年少女にとって、ソシャゲとは大きな意味を持つものとなってしまった。


 そして、あらゆるソシャゲに共通しているのが、課金要素。そしてガチャである。


 なけなしの小遣いを、あるいは汗水垂らしたバイトで稼いだ給料を、湯水の如くガチャの課金へと注いでいく。

 龍太とて男子高校生の端くれ、有名なソシャゲをプレイしたことはあるし、今はどこに行ったのかもしれない自分のスマホには、いくつかアプリがダウンロードされていた。

 ただし、ガチャのために課金なんてことはしない。あんなのは賭け事と同じだ。いや、なおタチが悪いと龍太は思う。

 パチンコや競馬と違い、入れた金が倍になって返ってくることはない。返ってくるのは単なるデータの塊。

 しかもガチャが外れたら、全てはゼロ。目当ての推しを手に入れられなければ、どのような高レアキャラも意味のないものと化し、ただただ虚しさが募る。


 もちろん、ソシャゲに課金してガチャを回すのは個人の自由だ。龍太は止めようとは思わないし、その権利も有していない。

 ただ、龍太本人がそう考えているだけの話。


 ガチャは悪い文明、古事記にもそう書いてある。

 ていうか、正義のヒーローは賭け事とかしないし。


「マジで、賭け事は気をつけろよ」

「い、いや、そんな言われなくても気をつけますよ……?」


 並々ならぬ剣幕を感じたのか、ヒスイは若干の引き気味に苦笑いを浮かべている。分かってくれたならよし。知り合いが底なし沼へ落ちると分かっていて気付かないふりをするほど、龍太は薄情なつもりもなかった。


 さて、話は大いに脱線してしまったが、四人と一匹は揃って部屋を出て、狭い廊下を縦に並んで隣の車両へと向かう。狭いとは言っても、人二人分の余裕はあるが。そこはマナーというもので、向かいから歩いて来た時のためだ。


 車両と車両の連結部にたどり着いた時だった。丁度その扉の前で、一人の若い女性が困ったようにオロオロとしている。


「きゅー! きゅー!」

「エル?」


 その女性を発見したのと同時、エルが突然鳴き声をあげ始めた。これは、近くに敵がいる時の合図だ。どの様な手段かは分からないが、エルには近くの敵意を持つ存在を感じ取れるらしい。それをこうして、知らせてくれる。


 このタイミングは偶然と思えない。

 龍太はすぐ女性に駆け寄り、声をかけた。


「すみません、困ってるみたいですけど、どうかしましたか?」

「え……?」


 突然見知らぬ男に話しかけられ、困惑する女性。それも当然か。内省している龍太に、ジンが助け舟を出す。


「安心して欲しい、俺はノウム連邦の魔導師ギルド、紅蓮の戦斧フレイムウォーの魔導師だ。なにか困りごとがあったのなら、力になろう」

「あ、ホウライ様の……実は、一緒に乗った恋人が行方不明でして……」

「行方不明、ですか。それは、この列車の車両、どこにもいないということですか?」

「探せるところは探したんです……部屋にも、レストランにも、遊技場にもいなくて……お願いします、どうか、力になっていただけませんか?」


 ヒスイの問いかけに、女性は弱々しい声音で答える。元々内気な性格というのもあるのか、女性の体はひどく小さく見えた。

 その様が、幼馴染の詩音と被ってしまって。


 いや、そうでなくとも、龍太に首を横に振るなんて選択肢は存在しない。


「分かりました、俺たちも手分けして探します。ヒスイはこの人についててくれ。俺とハクアは向こう、ジンは反対側を頼む」

「よし、任せておけ!」

「了解です!」


 女性の名前はシエラ、恋人の名前はギースと言い、金髪碧眼の男性らしい。

 それだけを聞いてジンは来た道を引き返していき、龍太とハクア、エルは進行方向へそのまま向かった。

 一人だと不安が増すばかりだろうから、ヒスイには残ってもらった形だ。


「列車の道は一直線、迷子なんて普通は有り得ないわね。エルが警戒していることもあるから、もしかすると……」

「もしかするかもしれない、な。ハクア、気をつけていこう」

「ええ、そうね」

「きゅー!」


 エルは引き続き、警戒の鳴き声を上げている。もしかしたら、当初の懸念通り。この列車の中に、敵が、スペリオルの刺客が紛れているかもしれない。

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