学校の屋上で手を振る子ども (不思議系)

 日曜日。夕飯の買い物を終えた私は、自宅のアパートに向かっていた。

 食後のデザートもたくさん買った。どれだけ食べようが誰にも咎められない、気ままな一人暮らし。

 途中、十年前に卒業した、小学校の前を通る。日曜日だからか、静まり返っている。

 ふと見上げると、三階建ての小学校の屋上に、男の子らしき子どもがひとりで立っていて、こちらに手を振っていた。右手を、大きく左右に振っている。

 ぎょっとして、私はつい立ち止まってしまった。後ろから歩いて来た中年女性や、若い男性が、私を追い抜いて行く。屋上の子どもに気がつかないようだ。

 私だけ?

 男の子があまりにも一生懸命に手を振っているものだから、私は思わず手を振り返してしまった。男の子は嬉しそうにさらに右手を大きく振る。

 私も右手を頭の上まで上げ、左右に振った。


 気がつくと私は


 屋上で、右手を大きく左右に振っていた。

 眼下に男の子が見える。

 男の子はもう手を振っていなかった。右手にはスーパーの袋を持っている。

 それ、私のご飯と、デザート。

 叫びたかったが、声が出なかった。

 男の子は袋の中をあらためたあと、私には目もくれず、袋を持って、走って行ってしまった。

 待って。待ってよ。

 私は屋上でひとり、手を振っていた。

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