証明写真 (ホラー?)

 土曜日の夕方。

 マイナンバーカードを作るにあたって、証明写真を撮りに来た。

 スマートフォンで簡単に申請できるらしいが、機械音痴な私は無難に郵送で申請しようと思った。

 

 大型スーパーの正面出入口に設置されている証明写真機は使用中だった。

 待っているあいだ、スーパーで先に買い物をすることにした。

 四十代独身男の私は、結構料理好きだ。食材にもこだわっている。だから、近所の小さなスーパーではなく、ここまでやって来る。

 車でわざわざ来るような距離ではないし、自転車は持っていないから徒歩だが、普段の運動不足解消になっていいと自分では思っている。


――適当な食材と調味料を買い込み、私はスーパーの裏出口から外に出た。

 裏出口の脇に、証明写真機があった。


 そうだ、俺は証明写真を撮りに来たんだった。


 頭で今晩の献立を色々と考え楽しくなり、すっかり忘れてしまっていた。

 裏出口の証明写真機は正面出入口にあった写真写真機よりも古くさく感じられたが「今なら0円」という写真機に書かれた文句が私の目を引いた。ぜ、0円?

 通常証明写真は700円ほどと、結構高い。スーパーで大分お金を使ってしまったし、これはありがたい。綺麗に撮れなくても、ダメでもともと、どうせ無料なんだからと、私は証明写真機に飛び込んだ。

 中は普通だ。人一人座れる程度の狭い空間。椅子に座ると正面に写真を撮るための画面。

 買い込んだ食材は、ちょっと考えたが写真機の外に置いた。そして私は音声案内に従って、写真の種類やサイズを選んでいく。写真を二回撮り、いい方を選ぶ。最後まで料金は請求されなかった。無料というのは本当なのだ。

 出来上がった証明写真は写真機の外で受け取る仕組みだ。私は写真機を出ようとして、ぎょっとした。

 出られない。出口がない。

 出口はただの壁になっていた。

『ご利用ありがとうございました。写真代として貴方をいただきます』

「えっ」

 音声案内の意外な言葉に私は思わず声を上げる。「む、無料じゃなかったのか?」

『0円ですが、対価はいただきます。無料タダなんてそううまい話、あるわけないでしょう』

「そんな」




――数分後、仕事を終えた従業員が、何もない地面にぽつんと置かれたスーパーの袋を発見する。中にはたくさんの食材と調味料。その近くには見知らぬ中年男が写った証明写真が落ちている。


「まただわ。時々この場所に証明写真が落ちてるのよね。証明写真機は正面出入口にしかないのに」


 

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