取り合い (ホラー)
ふと、目が覚めた。俺は常夜灯を付けないで寝る質だから、部屋は真っ暗だ。
今何時だろう? 確か布団に入ったのが夜の十時半くらい。寝る前に飲んだ酒の残り具合から考えて、深夜一時か、二時、といったところだろう。まだ頭が少し重い。
うーん、と唸りながら仰向けに伸びをした。寝直すかな、と思った矢先、それが聞こえた。
自分とは違う、誰かの息遣い。呼吸音。
俺はこのアパートで独り暮らしなのに、これはおかしい。俺はバンザイをした状態で、固まった。
俺は息を止めた。呼吸音は続く。しかも一人じゃない。俺以外に、ふ、二人?
飛び起きようという判断を下した直後、バンザイ状態の両腕を冷たい何かが掴んだ。
「ひっ」
思わず声が漏れる。手だ。冷たい手が、俺の両腕をぎっちりと掴んでいる。
「だっ誰だっ」
離せ、と続けて怒鳴ろうかと思ったが、その言葉は引っ込んだ。両脚もがっちり冷たい手に捕まれたからだ。
その感触は女の手のように滑らかで、柔らかい。だが手の大きさと力加減はとても女とは思えない。
少しも動けない。
ここへ来て、目が暗闇に少し慣れたようだが、目に映るのは古いアパートの天井だけだ。
何なんだこれ……夢なら覚めてくれ、と冷や汗を流していると、無邪気な子供の声がふたつ聞こえた。頭の方と、足の方から。
「せーのっ」
腕と脚がそれぞれの方向に、物凄い力で引っ張られた。
俺は断末魔の叫びを上げながら、二つに千切れていった。
夢なら覚めてくれ、と祈る余裕もない。
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