みんなの意見

 初めてミステリ小説を書いている。古い洋館に閉じ込められた男女五人が、不可解に次々と殺されていくという、いわゆるクローズドサークルものだ。

 すでに話の筋書きプロットは出来上がり、犯人も決まっている。

 後はそれに沿って執筆し、投稿サイトに順次アップしていくのみ。


 私はプロットどおり、最初にA子を殺した。

 すぐにコメントがついた。


『なんで私が最初なの、まだ死にたくない! A子』


 なんと、登場人物から苦情が来た。そう文句を言われても、もう話の流れは決まっている。


『ごめんね。君の死は後々重要な伏線になるから、納得して。作者より』

 

 私はA子に返信したが、


『A子を殺すな。俺はA子が好きなんだ。だから、俺がC美に惚れてる設定やめろ。 B男』


 B男までコメントしてきやがった。んなこと言われても、B男は恋するC美を庇って爆死することが決まっている。私は無視して話をどんどん書き進め、投稿サイトにアップしていった。

 またコメントがついた。


『わたくしがB男さんとD太さん、そしてE次さんに三股かけてるビッチってどういうことですの? 取り消して下さいまし。 C美』


 清楚系お嬢様だけど実は悪女設定のC美だ。


『B男を殺してくれてありがとう(^▽^)/ 僕、あいつ嫌いだったんだよねー。次はE次を殺してよ(^_-)-☆ C美さんは僕のモノだー! D太』


 何言ってんだ、E次は犯人だ。D太、お前は殺される側だ。無視無視。


『俺とA子を主役にして、今すぐ書き換えろ。じゃなきゃ作者てめえ、ぶっ殺すぞ。 B男』


 あああ、うるさーい! お前らの希望いちいち聞いてたら、話が進まないだろ! お前らは小説の登場人物なんだよ! 話を面白くするためにいるんだから、黙ってろよ!


『え? これっておれが犯人ってこと? それは無理だろ? 作者設定見直せ。 E次』




 目が覚めた。


 私は机に突っ伏していた。

 夢だったのか。

 そうだよな。小説の中の登場人物がコメントしてくるなんて。


 しかし、私は一応小説の設定を見直した。確かにE次を犯人とするには無理があった。矛盾が生じる。致命的な欠陥だ。

 私は速やかに矛盾を修正した。ただし、最初にA子が殺され、B男が爆死し、C美がビッチで、D太が顔文字野郎で、E次が犯人なのは変わらない。


 作品への意見は、自分が納得するところは取り入れ、納得しないところは取り入れない、と私は決めている。


 改めて出来上がった作品を、投稿サイトにアップした。

 いい出来になったはずだ。読んで貰えるといいな。


 

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