38 ダンスの練習
エメローラが王子と会うのにどのような状況が望ましいか? という点について、システィリアとノーラが話し合って出した結論は、「宮廷舞踏会に参加するのがいいのではないか?」というものだった。
ノーラによれば王都では近く宮廷舞踏会が開かれるそうで、そこには有力な貴族とその子女のほか、王や王子も参加する予定だという。
王には事前に話を通しておき、エメローラと王子とで立ち話ができるような状況を作ってもらう。場合によってはダンスをしてもいいだろう。
密室で直接対面すると、どうしてもお見合いのようになってしまうので、婚姻を望まない王は難色を示すだろう。こっちとしても、王子がエメローラを見初めて食い下がるような事態は避けたいところだ。
こちらとしては、エメローラが王子の人柄を直接確かめた上で、この結婚はやめておいたほうがよさそうだとあきらめてくれるのがいちばんいい。
エメローラもこれまでの俺やシスティリア、王やノーラとのやりとりから、自分の要望は実現が難しく、実現したとしても良い結果にならないかもしれない、ということは察しがついてきたようだ。それでも、王子に会いもせずに海に帰るのでは、なんのために地上にやってきたのかわからない。母親の恋愛と自分の恋愛はべつだとしても、敬慕する母親の想いを簡単に退けるわけにもいかないのだ。
要するに、落としどころの問題である。
エメローラと王の意向が両立しないことを踏まえた上で、双方歩み寄れるギリギリの線を見据えれば、舞踏会で立ち話をするくらいがちょうどいいのではないかということだ。
「エメローラのお母様も先々代の国王陛下も、まったく余計な約束をしたものです」とはシスティリアの弁だが、俺も同じような感想を抱いてる。
かくして、宮廷舞踏会を数日後に控えた今、俺とシスティリアとエメローラは、ノーラ邸の広いホールで日夜ダンスの練習に明け暮れていた。
「きゃっ!」
「わっ、す、すまん」
「もう、ここは右足が先だと言ったじゃないですか」
ダンスの途中で俺に足を踏まれたシスティリアが、頬を膨らませて俺を見上げてくる。
宮廷舞踏会に用があるのはエメローラだけだが、エメローラ一人を舞踏会に行かせるわけには当然いかず、俺とシスティリアもついていくことになっている。
で、平民出でダンスなんか知らない俺も、エメローラと一緒にダンスの練習をさせられてるってわけだ。
もちろん、教師役はシスティリア。公爵令嬢であるシスティリアは、貴族令嬢としての基礎教養として一通りのダンスを知っている。
俺とシスティリアが動きを止めたところで、ホールの階段に座ってるノーラが、手元にある木箱からラッパの張り出したような妙な装置のボタンを押した。すると、ラッパから流れていた音楽がぴたりとやむ。ノーラによれば、それは蓄音機という彼女の発明品だという。音の振動を板に刻み、それを針で読み取って音を再生するのだとか。最初はめちゃくちゃ驚いたが、今ではもう慣れたものだ。
「エメローラ、パトリック。レオナルドが足を踏んだからやり直しだ」
ノーラが、俺たちとはべつに踊っていたもうひと組の男女に声をかけた。
「おや、またかい、レオナルド」
パトリックは汗ひとつかいていない涼しい顔で、俺に嫌みを言ってくる。
「あんたと一緒にしないでくださいよ」
「しかし貴族たるもの、今後はこうした機会もあるだろう。全部の曲をとはいわないが、簡単なものくらいは覚えておくべきだ」
「それは耳にタコができるくらい言われてますよ⋯⋯」
俺やシスティリアとはなるべく顔を合わせたくないと言ってたパトリックだが、エメローラにダンスを教えてくれないかと頼むと、二つ返事でノーラ邸にやってきた。
それから今に至るまで、至福そのものの表情で、足元のおぼつかないエメローラに手取り足取りダンスを教えている。ダンスは貴族としての嗜みとして覚えたと言っていたが、剣の達人でもあるだけに、所作のひとつひとつが洗練されていて、見るものの目を惹きつける。
「パトリック様。レオナルド様はわたくしに付き合ってくださっているのですから。そのような言い方をなさってはなりません」
「申し訳ありません、エメローラ殿。僕が間違っていました」
パトリックがエメローラに向かって礼をする。
「⋯⋯おまえ、エメローラにだけ態度が違いすぎるだろう」
「何か言ったかな、バッカス男爵?」
「いや、いいけどな⋯⋯」
いくらシスティリアが嗜みとしてダンスを知ってるとは言っても、システィリアが知ってるのはおもに女性のパートである。もちろん、女性のパートと男性のパートは1セットのものだから、「ここではこう動いてください」という指示はくれるのだが、自分が男性側になって踊れるわけではない。つまり、同じく女性であるエメローラに、男性役として一緒に踊りながら教えることはできないのだ。
かといって、システィリアが俺になんとか男性パートを教え込み、その俺がエメローラの相手方となって踊る⋯⋯となると、時間がかかってしょうがない。システィリアの男性パートの知識は部分的なものだし、俺は生まれてこのかた上品なダンスなど踊ったことはないのである。
そこで白羽の矢を立てたのがパトリックだ。
というか、パトリック以外にダンスの嗜みのある男性を探そうとすると、俺たちにはそれこそエルドリュース公爵くらいしか思いつかない。いうまでもなく、システィリアの父親にダンスを教えてくれなどと頼むのはいくらなんでも無理がある。
「エメローラ殿。お疲れではありませんか?」
パトリックがエメローラを気遣った。
「まだ疲れてはいません。人魚はこれで、けっこう体力があるのです。始終泳いでばかりいますから。足ばかりは、まだ慣れないところがありますが⋯⋯」
「初めてでこれだけ踊れるのでしたら上出来ですよ」
「そうですね。わたしも小さい頃はダンスの教師に泣きながら教えられたものです」
「やっぱ厳しいのか、そういうのって」
「教える方にもよると思いますが、厳しい方が多いとは思います」
「そうなのかい? 僕は姉から教わっただけだからね。剣の稽古よりはずっと楽だった」
「ローリントンでは女性でも剣術を習うのですよね?」
「ああ。姉も剣は相当使えるが、ダンスはそれこそ玄人はだしでね。女性役はもちろん、男性役も完璧で、よく頼まれて貴族の子女に教えていたよ」
「そういえば聞いたことがあります。パトリックのお姉様はダンスを教えるのがお上手だと。厳しく叱りつけるのではなく楽しみながら自然に覚えさせてしまうのだとか」
「そうそう。剣と違って生き死にがかかるわけじゃないんだから楽しんでやるのがいちばんだと言っていたね。剣の稽古では鬼みたいに厳しかったんだけど」
パトリックとシスティリアのあいだで話が続く。
俺はダンスの手順を忘れないようにするのと、切れた息を戻すのに必死であまり話に入れない。入ろうにも、話題が貴族がらみのことでは入りようがない。
「あの、途中からの流れを確認したいのですが⋯⋯」
エメローラがおずおずと言った。
「ああ、じゃあ、僕とシスティリアでやってみせよう」
「そうですね。そのほうが早いと思います。レオナルドも見ててください」
「あ、ああ⋯⋯」
「わかりました」
「では曲をかけるぞ?」
ノーラが蓄音機の針を戻してボタンを押すと、今の課題曲が流れ始めた。
舞踏会の生演奏に比べると雑音が多いが、十分にリズムとメロディが聴き取れる。
パトリックはシスティリアを見事にリードし、システィリアもそれに遅れることなくついていく。名剣士であるパトリックはもちろん、システィリアも身体を動かすのは得意なほうだ。
美男美女のカップルが本気で踊ると、こんなにもさまになるもんなんだな。
そう頭では感心しながらも、俺の胸には重く呑み込みがたいものが広がってきた。
「と、こういう感じだね」
「エメローラさんが言っていたのは、この箇所ですよね? ここは、見た目ほどには足を引いてないんです。角度に気をつければ小さな移動で十分です」
「なるほど⋯⋯助かります!」
「レオナルド、さっき足を踏んでいたところは、パトリックがやったみたいに大きめに。それから⋯⋯」
「⋯⋯すまん、ちょっと頭冷やしてくる」
俺は指導しようとするシスティリアを遮って、ホールの玄関から外に出た。
「はぁ⋯⋯何やってんだか」
俺は屋敷の裏に回ると、物陰のベンチに腰掛け、空を見上げながら息をついた。
いい歳したおっさんが今さら嫉妬でもないだろうに。
システィリアの嫉妬なら可愛いものだが、おっさんが自分より若い奴に嫉妬したって見苦しいだけだ。
若さを失うごとに、「これをやると見苦しいな⋯⋯」ということは増えていく。白髪の老人になってしまえばともかく、中年という時期は男にとって本当に厳しい。まだまだ若いという気持ちが捨て切れないし、かといって老け込んでしまうには残りの人生が長すぎる。
功なり名遂げて若い人の尊敬と羨望を集められるおっさんなんてごく少数だ。大多数は「どうあがいても今以上にはなれない、人生が半分終わった人」と見られる宿命にある。
「まぁ、俺は全然恵まれてるほうだけどな」
システィリアのような若くて綺麗な嫁さんをもらい、平民から男爵になって、平和でのどかな領地まである。これ以上ほしいものなど何もない⋯⋯はずだ。
「何をふてくされているんだね、バッカス男爵」
唐突に背後から声をかけられぎくりとする。
振り返ると、そこにはノーラが立っていた。
今日は最初に出会った時の奇術師のような格好ではなく、空色のドレス姿である。家の中で貴族の令嬢が来客向けに着るような、半分普段着、半分フォーマルといったグレードのものだ。せっかくだからと、ノーラも時たま俺やパトリック、時にはワッタと組んで踊ってる。ワッタは今日はダンスに飽きたと言って屋敷の中を探検してるらしいけどな。
肩にかかる程度の栗色の髪と空色の瞳、白い首筋と空色のドレス。こうして着飾っていると、ノーラはなるほど美人である。システィリアが「ノーラ姉は黙ってれば美人なんですけどね」と評する通りだ。おまえもわりと「黙ってれば⋯⋯」系なんじゃないかというつっこみは入れないけどな。
「ふてくされてるわけじゃないけどな」
「ふっ。レオナルドのようなむさい男が今さら嫉妬などしてもしかたあるまい。だいたい、比較する相手がまちがっている。君とローリントン伯爵では男としての格が違いすぎて比較にもならん。無駄な
「そんくらいわかってるって。ただ、露骨に見せられると、な⋯⋯」
「ふむ。実際、システィリアは不用意であったとは思う。私は彼女に行儀作法について教えたわけではないが、あの弟子はたまに天然を発揮するところがあるからな。美人が時折見せる隙というのは、異性にとっては好ましいものかもしれぬが、同性にとっては非難の対象となりやすい。あれに友達が少ないのはそのせいもあろう」
「ノーラに礼儀作法を教えられちゃそれこそ大変だろう⋯⋯。あと、友達少ないのはノーラも同じだろ」
「そうでもないぞ? 学者仲間ならばいくらでもいる。私をやっかみ足を引っ張ろうとする学者どもも多いのだがな。まったく⋯⋯自分の不才を自覚するならば、人の足など引っ張っていないで研究に励めばよかろうに」
「嫉妬は本人が自覚してないときのほうが怖いもんだ。自分を嫌な気持ちにさせる相手が悪い、だから攻撃してやれってな」
「ふむ、至言であるな。君がそれを自覚しているのは、さすがは年の功といったところかな?」
「かもな。あまり他人に嫉妬を覚えるほうじゃないと思ってたんだが」
「嫁があれだけ美人であれば不安にもなろう。しかし、言っておくが、システィリアが君を想う気持ちは本物だぞ? 私は家庭教師をしていた時分に、あれから君の話を何度となく聞かされた。子どもの時宮廷で両親から逸れて不安がってた自分を慰めてくれただとか、その数年後に王城の道案内で再会した時には馬や弓の話ばかりする自分をおかしがるでもなく興味深そうに聞いてくれた、だとかな」
「え、その話、ノーラにはしてたのか」
システィリアが俺のことを見初めた(というのも変だが)数々の(俺がまったく覚えてなかった)エピソードのことについては、システィリアはいまだに俺に話してくれてない。いわく、「覚えててくれなかった人に話してもわたしが馬鹿みたいじゃないですか」。貴族の令嬢はみな着飾っていて綺麗だが、その分、俺には縁遠いものに思われて、非正規騎士として話す機会のあった令嬢のことをいちいち覚えていたりはしてなかった。野に咲く花は綺麗だが、その一本一本を区別して覚えてる奴は滅多にいないだろう。俺にとって貴族の令嬢というのはそういうものだったのだ。
「俺は詳しく聞けてないんだ。覚えてないと言ったら機嫌を損ねてしまってな」
「くくっ。そうであろうな。あの頃のシスティリアは、今のエメローラと同じようなものだ。恋にのぼせたお嬢様そのものといった様子でレオナルドのことを語っていた」
「⋯⋯それは照れるな」
俺は視線をそらして頬をかく。
「実を言うと、それも不安の種なんだ。システィリアの心の中にいる俺は、ちょっと理想化されすぎてるんじゃないかってな。あのパトリックと比べて勝っちまうような『レオナルド』なんだぜ? そんな奴この世にいねえよと言いたくなる」
「レオナルドの言うことはもっともだが、そう馬鹿にしたものでもあるまい」
「そうか?」
「人間とは、煎じ詰めれば相手の心の中にしか存在しないともいえよう。たとえば、レオナルドは今、レオナルドの心の中にいる『ノーラ』と話している。それはシスティリアが心に思い描いた『レオナルド』とどう違う?」
「それは⋯⋯だが、極論じゃないか?」
「そうだろうか? なるほど極論だが、観測される事実と矛盾しない以上、考慮に値する考えだ」
ノーラはぴっと指を一本立て、小さく笑みを浮かべて話を続ける。
「われわれは、目の前にいる相手と話しているつもりでいる時も、自分の心の中に思い描いた『相手』と話しているにすぎないのかもしれない。目の前に私が存在することは事実だが、レオナルドはこれまでの経験から自分の心の中に構築した『ノーラ』に対して語りかけているということだ。
その『ノーラ』は私ではないと私が主張したところであまり意味はあるまい。君は私の主張を聞き入れて心の中の『ノーラ』を修正してくれるかもしれないが、それでも現実のノーラとのあいだには埋めがたい大きな溝が横たわり続けることだろう。君と私がべつの人間である以上、その溝がなくなる日はやってこない。
システィリアの中にいる『レオナルド』もまた、そうしたものだ。システィリアにとってはそれが本物の『レオナルド』であり、現実のレオナルドとのあいだに時に齟齬をきたしながらも、双方が心に思い描く『レオナルド』や『システィリア』を修正することで、徐々に二人は噛み合うようになっていく。実際、君たち夫婦は実によく噛み合っている。お似合いの夫婦だと私は思うよ」
「なら、いいんだけどな」
ノーラの話は難解だったが、要点はわかった。夫婦とはいえ、互いが互いに抱く印象が完全に相手の自分認識と一致するはずがない。システィリアがレオナルドとは違う「レオナルド」を思い描いているのなら、互いに歩み寄って納得のできる形を探ればいいのだ。そして、俺とシスティリアはまさにそうすることで、夫婦として結ばれることができた。
「われらが人魚姫にもそうした時間が必要なのだろう。それは決して、彼女が愚かで現実が見えていないという話ではない。人は自由に想念を抱き、現実に対してさまざまな期待を投げかける。だが、現実とは無慈悲なものだ。人の気持ちを忖度して譲ってくれるということがない。だから、無慈悲な壁にやわらかな心をぶつけて砕いてしまうことがないよう、少しずつ時間をかけて、認識を擦り合わせていく必要がある。ままならぬものをままならぬと率直に認めるだけのことが、なかなかどうして、人間にはできないものだ」
「若くして高名な学者になったノーラにもままならないことがあるのか?」
「それはそうだ。私にとって世俗的な栄誉は研究をしやすくするための道具に過ぎない。その点で、『道具』に不自由せずにいられる今の状況は幸運だと思っている。だが、私が追い求めてならないのは真理なのだ。真理へと至る道は狭く険しく、私が人生のすべてを賭したとしても、そのうちのごく些細な一部にしか迫れぬであろう。そのことを思うと私はいてもたってもいられなくなる」
「そういうもんか」
「そういうものなのだ。逆に、そうした葛藤がなければ、ここまで研究に没頭することもできなかったであろう。人は手に入らぬものを手に入れようとするときにもっとも力を発揮する生き物らしい。不思議なことだ、手に入らぬものを求めることほど幸福から遠ざかることもあるまいに」
ノーラは腕組みをすると、目を伏せてしみじみとうなずいた。
「そんなポーズをするとドレスがしわになるぜ」
「おっと、気をつけねばならぬな」
ノーラは腕をほどくと、手のひらを重ねてお腹の前に置く。令嬢の基本ともいえるポーズである。そんなポーズで身体を斜めに傾け、見上げるような視線を送られると、中身が奇人・ワーデン博士と知っていてもどきっとする。
「そうだ、ノーラ。ひとつ相談したいことがあるんだ」
俺はちょっと前から温めていたアイデアをノーラに話す。
「ほう。それはいいやもしれぬな。もっとも、解決すべき問題がいくつかあろうが」
「だよな。かえって悪いことになったら目も当てられないし。でも、俺には判断がつかないことだ。マリーズには手紙を送って聞いてみたんだが、手紙が返ってくるのに時間もかかるしな」
「よかろう。私もけっしてそうしたはからいごとが得意な人間ではないが、心当たりがないわけではない。無難なところから当たってみよう」
「頼むよ。このことはシスティリアには内緒で頼むな」
「うむ、当然だな」
俺とノーラは、顔を見合わせて笑みを交わし合う。企みを共謀するもの同士が浮かべる悪い笑みだ。
「⋯⋯何が、わたしには秘密なんです?」
「うわっ!?」
いきなり声をかけられ、飛び上がる。
振り返ると、そこにはもちろんシスティリアがいた。
「し、システィリア!? どうしてここに⋯⋯」
「いつまでも戻ってこないから見にきたんですよ。ノーラ姉と仲良く何を話してたんですか?」
「き、聞いてたのか?」
「いえ、遠巻きだったので詳しくは」
「そうか⋯⋯」
首を振るシスティリアに安堵する。
「私からレオナルドに、システィリアの昔の話をしていたのだよ」
「ちょっと!? 変なこと話してないですよね、ノーラ姉!?」
「大丈夫だ、当たり障りのない話しかしておらん。それよりなんだ、システィリアも私相手に焼きもちか? まったく、似た者夫婦で結構なことだ」
ノーラは遠回しに俺までからかうが、システィリアはそこには気づかなかった。
「や、焼きもちなんて焼いてません! もう、舞踏会まで時間がないんですからね! エメローラさんはもちろん、レオナルドにもしっかり踊ってもらわないと困ります!」
「いや、俺は念のためって話だったろ」
「それが⋯⋯そうもいかなくなりました」
システィリアが不意に声を沈めてそう言った。
「えっ、どうしたんだ?」
「今、お父様から手紙が届いたんですが⋯⋯」
どうやら俺とノーラがいないあいだに、屋敷に配達人が来たようだ。
「どうしたんだ? わざわざ公爵から手紙なんて⋯⋯」
なんだか嫌な予感がするな。
システィリアは小さく息をつくと、不安そうな顔を俺に向ける。
「今度の舞踏会ですが⋯⋯お母様がいらっしゃるようなんです」
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