39 ある日のシスティリアの日記より

 宮廷舞踏会まで、あまり時間はありません。


 エメローラさんはお母様から人間の宮廷文化についてある程度伝え聞いていたのですが、何分エメローラさんのお母様とシグルド1世王のロマンスは百年も昔のこと。いくら保守的な宮廷とはいえ、一世紀も経てば細かい作法は変わってきます。ノーラ姉はエメローラから昔の宮廷文化について聞くたびに「ほう、ほう、興味深い!」などと言ってノートにメモを取っているのですが、今はそんなことをしてる場合じゃありません。わたしはエメローラさんが舞踏会で恥をかくことがないよう知る限りの作法をエメローラさんに細かく教え込みました。さいわいエメローラさんは物覚えがとてもよく、ものの数日で礼儀作法を身につけてしまいました。今ではノーラ姉のほうがよほど無作法かもしれません。まあ、ノーラ姉は奇人として有名なので、今さら失う体面もないでしょうけど。


 エメローラさんがすぐに礼儀作法を呑み込んでくれたのはよかったのですが、やるべきことはそれだけではありません。もちろん、ダンスの件です。エメローラさんとレオナルドには舞踏会までにダンスを覚えてもらわなければならないのです。

 物覚えのいいエメローラさんではありますが、ダンスに関してはかなり苦労をしています。こうしてノーラ姉の屋敷で暮らしているとつい忘れそうになりますが、エメローラさんは人魚です。二本の足で歩く、走る、といったことは問題ないのですが、ダンスというのは日常ではありえないような複雑でタイミングのシビアな足さばきが求められるものです。有閑貴族の社交術として発展したダンスは、そもそも足さばきの軽妙さを競い合う面を持っています。要するに、暇を持て余した貴族たちが無駄に洗練された無駄のない無駄な足さばきを披露しあうものであり、魚の尾こそが本来の身体であるエメローラさんには最初から不利が決まってるものなのです。

 エメローラさんはわたしとノーラ姉で用意した靴(人魚であるエメローラさんは靴を履く習慣がなく、三日月湖に現れたときも靴は履いていませんでした)を履き、毎日何時間もダンスの練習に明け暮れました。パトリックがその練習に時間の許す限り根気強く付き合ってくれたのには助かりました。わたしとの婚約でもめていたときもそうですが、パトリックのこういった場合の根気強さには不覚にも感心してしまいます。とはいえ、パトリックは現役の騎士であり、大隊長でもあるので、常にエメローラさんにつきっきりというわけにはいきません。エメローラさんにベタ惚れのパトリックは許されることなら公務を放り出してずっと練習に付き合いたそうにしていましたが、騎士としての責任感がかろうじて湧き上がる恋心を抑えていたようです。

 レオナルドはエメローラさんの相手役をするには自分自身の練習が足りませんので、しかたなくわたしがパトリックの踊る男性パートを見よう見まねで身につけ、エメローラさんの相手をすることが多かったです。おかげでレオナルドより早く男性パートを踊れるようになってしまいました。


 エメローラさんのがんばりは、はたで見ているわたしのほうが辛くなるほどでした。

 履きなれない靴に靴擦れを起こしたり、白魚のような足にまめができて潰れてしまったり、普通に歩く分には使わない筋肉を酷使してこむら返りを起こしてしまったりと、人魚であれば味合わずに済むような苦痛を堪えながら、辛そうな顔ひとつ見せずにひたむきにダンスの稽古を続けていました。


 その隣でレオナルドもダンスの練習に励んでいましたが、エメローラさんほどではないまでも、こちらもかなり苦戦気味でした。レオナルドは長年の騎士生活で力を込めて動くクセが身についています。ダンスでは、むしろ適度に力を抜き、流れに身を任せながら軽やかに動くことが求められます。モンスターや盗賊との戦いでは、どっしり構え、力強く打ち込むことが肝要なのだと思いますが、そのクセはことダンスでは裏目に出てしまいます。同じ騎士でもパトリックは貴族の出身であり、流麗さを誇るローリントン剣術の使い手でもありますので、ダンスとはもともと相性がよかったようです。一方、無骨で愚直な剣を使うレオナルドは繊細な動きが苦手なようでした。

 それでも、わたしのわがままに文句も言わず付き合って、慣れないダンスを一生懸命に練習してくれています。パトリックのようになんでも器用にこなすような人ではないですし、言葉遣いもぶっきらぼうで肝心なところで口下手なレオナルドですが、貴族の男性とは違うその愚直なまでのひたむきさと、そこに宿る混じり気なしの気遣いを見て、ああ、本当にこの人を夫としてよかったと、わたしは幸せを噛みしめるのです。


 ⋯⋯いえ、それはそれでもちろんいいことなのですが、それでもやはりレオナルドのダンスの上達は早いとは言いづらく、舞踏会までに仕上がるかはギリギリのところだと思います。

 もちろん、それはいいのです。わたしたちの結婚を認めようとしないお母様がやってくる舞踏会で、わたしとレオナルドで見事なダンスを披露して見返してやりたいというのは本音ですが、そんなのはわたしのわがままにすぎません。レオナルドがこれだけ努力してくれて、それでも本番でうまく踊れなかったならば、わたしはレオナルドと一緒に笑い者になればいいと思います。たとえ意地の悪い貴族に笑われようとも、わたしはレオナルドと一緒にいられれば幸せなのです。レオナルドの不器用さまで含めて、わたしは彼が愛おしい。

 だから、レオナルドが最終的にダンスを見事に踊れるかどうかは、わたしにとってはどうでもいいことなんです。もちろん、宮廷舞踏会という場でわたしたちの仲を見せつけて、レオナルドが素敵な殿方であると印象付けるとともに、レオナルドにも自信を持ってもらいたいという野望はありますけど⋯⋯。


 ただ、どうしても許せないのは、レオナルドがこそこそとノーラ姉と密会を重ねてることです。最初はまさかと思いましたが、やっぱりあの二人はわたしに隠れて何か相談事をしているようなのです。

 たしかにわたしも、ダンスにかまけるあまりレオナルドへの当たりが辛くなってたかもしれません。無意識にダンスの上手なパトリックと比べてしまった部分もあると思います。でも、わたしはそれでもレオナルドを選んだんです。それなのにいまだに「システィリアがなんで俺なんかのことを好きになったのかわからない」なんて言うのは、ちょっと自信がなさすぎなんじゃないでしょうか?

 しかも、その自信のなさをわたしだけに見せてくれるのならともかく、最近ではどうもノーラ姉にわたしとの関係の不安を相談してるような気配があります。ノーラ姉のほうでも、「客観的に見ればレオナルドが不安になるのはもっともだ」などと言って、レオナルドの相談に親身になって乗ってる様子なのです⋯⋯!


 おかしいじゃありませんか!?

 あの「奇人博士」、真理の探究以外に興味がなかったはずのノーラ姉が、よりにもよってわたしの夫の恋愛相談に乗ってるんです!

 そういえば、最初この屋敷にやってきたときに、ノーラ姉は「悋気りんきに悶えるシスティリアというのも、それはそれで美しいかもしれんな。私もせっかく美人に生まれついたのだ、レオナルドと一夜の恋を愉しむのも――」などと、ふざけたことを言ってました。

 ま、まさか、ノーラ姉はわたしの嫉妬をかきたてるためだけに、レオナルドを密かに誘惑しているのでは!?

 昔からわたしのことを「君はすばらしく美しい」と言ってくれたノーラ姉ですが、実は本当にわたしに好意を超えた気持ちを抱いていて、わたしの夫を前にそれが歪んだ形で現れてしまっているのでは!?

 あるいは、「夫婦が夜にどんな営みをするのか学術的な興味が湧いてきた」などと言って、レオナルドにふしだらな行為を迫っているのでは!?


 い、いえ、いくらノーラ姉が変人とはいえ、さすがにそんなことはないはずです。

 世捨て人のような考え方をする人ですが、他人に対する愛情がないわけではありません。むしろノーラ姉にはちょっと寂しがりやなところがあるくらいです。そのくせ、あまり無神経に近づいてくる相手のことは「研究の邪魔だ」と言って疎ましがるところもあります。

 ノーラ姉はきっと、他人と一緒に快適にすごせる距離の範囲が、他の人と比べて独特で、ほんのちょっとだけ「遠い」のだと思います。


 レオナルドは、あの通りやさぐれたところのある人なので、人との距離感がちょっとだけ遠く、結果的にノーラ姉とは距離感がうまく合っている⋯⋯という感じがします。

 二人にはなんだか大人の男性と女性の関係という雰囲気があって、レオナルドよりかなり歳下のわたしは、レオナルドからすれば子どものようで頼りにならない存在なんじゃないかと思えてきてしまうのです。

 レオナルドは、わたしには話しにくいようなこともノーラ姉には話せるようですし⋯⋯。

 レオナルドはわたしがパトリックを選べばよかったと後悔するのではないかと不安がっているようですが、わたしからすると、レオナルドこそノーラ姉のような大人の女性と付き合ったほうがよかったのではないかと不安になります。

 レオナルドがわたしを愛してくれていることはわかっているのですが、レオナルドは口数が少ないほうですし、照れ屋なのでなかなか素直に気持ちを伝えてくれません。もちろん、レオナルドのそういうところを好きになったのはわたしですから、レオナルドに無理なことを求めてしまっていることはわかっているのですが⋯⋯。


 そんなわけで、わたしはひとり心を鎮め、ノーラ姉とレオナルドがわたしを裏切ったりするはずがないと自分に言い聞かせてきたのですが、それでもやはり、二人がわたしに隠れて何かをこそこそと企んでることは間違いないのです。


 もっとも、ノーラ姉はレオナルドにかかりきりというわけではありません。

 むしろ、ノーラ姉は人魚であるエメローラとドワーフであるワッタという二人の客人からそれぞれの話を聞き出すのに躍起です。

 とくに、ワッタがワルドさんから逗留の礼にと預けられてきた鉱石はかなり特殊なものだったらしく、ノーラ姉は寝る間も惜しんでその研究をしているようでした。

 昼は昼で、ダンスの練習の休み時間にエメローラさんから人魚の話を聞いています。エメローラさんは天性の語り部のような女性ですから、時間の許すときは喜んでノーラ姉に人魚に伝わる物語や伝承、歴史、文化などを話しています。

 休憩を終えてダンスの練習を再開すると、ダンスにさっぱり興味がないノーラ姉はここぞとばかりに居眠りをし、ダンスが終わるとエメローラさんに再び話しかける、といった塩梅でした。


 ノーラ姉は人魚の話の他に、サハギンたちのことや、「水に棲むもの」だけが使う特殊な言語についてもエメローラさんから話を聞き出していました。なんでも、人魚やサハギン、その他の海や川に住む人族ひとぞく、あるいは鯨や海豚いるかといった海の動物は、水中でなら何里も先まで届くという人間には聞こえない高音を発することができるのだとか⋯⋯。ノーラ姉はエメローラさんにその音を発してもらってそれを蓄音機に記録し、たしかに円盤に溝が刻まれることを確かめて興奮していました。この「水の言語」は「こちらに敵意はない」「それ以上近づくな」といったとても単純な意味合いを持ってるそうで、海や川、湖に住む人族だけでなく、動物やモンスターの一部にすら通じるということです。これまで人間との会話が不可能とされてきたサハギンなどとも意思疎通ができるかもしれないとノーラ姉は興奮に小鼻を膨らませながら熱く語っていました。


 少しかわいそうなのがひとりやることのないワッタなのですが、レオナルドが気を遣ってダンスの練習の合間に街に連れ出してあげていました。たぶん、レオナルドもわたしには見せないながらも連日の練習に息苦しさを感じていて、息抜きがしたいという面もあるんだと思います。そんな思いをさせてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいになるいっぽうで、まだ子どもとはいえ女の子であるワッタにまで嫉妬を抱いてしまうことに自己嫌悪を覚えます。わたしだって、状況が許すならレオナルドと王都でデートを楽しみたかったのです⋯⋯。


 レオナルドとワッタは、パトリックとノーラ姉が揃って紹介したという商会によく顔を出すようでした。

 商会主のリンド・ネールさんとレオナルドは馬が合うらしく、アスコット村の発展について語り合う仲になったそうです。

 ワッタはネールさんの紹介で王都の鍛冶屋に出入りし、技術交流をしてるらしいです。最初はドワーフとはいえまだ幼い女の子と見て相手にしなかった気難しい鍛治師たちも、ワッタの鍛冶の腕前には舌を巻き、屈託のない性格もあいまって、いまではすっかり鍛治師たちにかわいがられているようでした。

 そのおかげで、最近ではワッタは一人で鍛冶屋に遊びに行くことが多くなり、レオナルドとの「デート」が減りました。そのことに安堵を覚えてしまった自分に、わたしは人知れずさらなる自己嫌悪を覚えてしまいましたが⋯⋯。


 とはいえ、わたしも始終ノーラ姉やワッタに嫉妬してばかりいたわけではありません。

 わたしはわたしで心配の種を抱えていました。

 他でもない、母のことです。

 あの日エルドリュース公爵家を飛び出して以来、わたしは母の顔を見ていません。

 父はその後わたしとレオナルドの結婚を認めてくれましたが、その父に母の様子を尋ねても、言葉を濁されるばかりです。


 もう他家に嫁いだ身とはいえ、実の母から恨まれている状況はやはり苦しいものです。もともとそりの合わなかった母ではありますが、それでも生みの親である以上、まったく気にしないでいられるわけではありません。

 もちろん、それはもうしかたのないことと割り切ってはいるのですが、もし母の恨みがわたしやレオナルドにではなくエメローラさんに向かったら、と思うと、ことはわたしが割り切れば済むという話ではなくなってきます。

 エルドリュース公爵夫人である母の社交界における発言力には相当なものがありますので、若き天才博士として名を馳せるノーラ姉にすら悪影響が及ばないとは言い切れません。ノーラ姉は、そうしたことを気にしていないのか、あるいは気づいていないのか、それともわたしのためを思って黙っていてくれてるのか、母のことについては触れてきません。


 パトリックに関しても、彼のエメローラさんへの気持ちにつけ込んでいいように利用しているような状況で、本人が望んでやってくれているとはいえ、申し訳なさを感じています。婚約を破棄した相手であるわたしとその夫であり元部下でもあるレオナルドのもとに日夜通っている事実を口さがない貴族たちに知られたら、彼の名誉にもかかわってきます。

 それこそ、エメローラさんがパトリックの気持ちを受け入れ、相思相愛にでもなってくれれば、いろんなことが丸く収まると思うのですが、エメローラさんのお母様の約束への思い入れの深さを思うと、パトリックの想いが通じるまでには相当な障害があることでしょう。わたしの見るところ、現時点でパトリックはエメローラさんの眼中にないと思います。

 いえ、「丸く収まる」と言いましたが、それはエメローラさんやパトリックといったわたしの目の届く範囲だけのことであって、当主が人魚と結婚するという前代未聞の事態に直面するローリントン伯爵家や、美形で剣の腕が立ち夫人への礼節も行き届いた超優良株であるパトリックを狙う貴族の令嬢たちにとっては驚天動地のおおごとになるのですが⋯⋯。


 こうして日記に縷々とした思いを書き綴ってるだけでも、いろんな人の気持ちや思惑がすれ違っていて、誰もが幸せになれる万能の解決策などないのではないかと暗澹たる気持ちになってきます。

 書けば書くほどに気が塞いできますので、今日の日記はここまでにしておこうと思います。

 どうか、明日のわたしが今日のわたしより賢明でありますように。エメローラさんもパトリックも国王陛下も納得して前に進んでいけるような名案が思いつきますように。母の気持ちが鎮まり、レオナルドやノーラ姉に迷惑がかかることがありませんように。


 ああ、早くアスコット村に戻って、レオナルドと一緒にゆったりとした毎日スローライフを送りたいものです⋯⋯!




「⋯⋯ただいま。どうしたんだ、頭を抱えて」


 夜更け、俺が俺たち夫婦にあてがわれた離れに戻ると、もう寝てると思ってたシスティリアが ペンを握ったまま机に伏せ、頭を抱えたままで固まっていた。

 声をかけてしまったが、よく見るとシスティリアは眠っているようだった。

 システィリアの頭の下には、システィリアが常々持ち歩いている鍵付きの日記が開かれている。

 システィリアはかなり筆まめで、毎日ぎょっとするほどの量の日記を書く習慣があった。

 おおかた、日記を書いているうちに眠ってしまったのだろう。最近はエメローラさんのダンスの練習につきっきりだからな。公爵令嬢に似合わず乗馬と弓を愛する行動派のシスティリアだが、さすがに疲れが溜まってるらしい。

 エメローラさんの気持ち、パトリックの気持ち、国王陛下の気持ち、さらにはシスティリアの母であるエルドリュース公爵夫人の気持ち⋯⋯気をもむことが多すぎる。

 しかも俺は、貴族のことはわからないからと、問題の多くをシスティリアに丸投げしてしまっている。実際、俺が下手に動くよりシスティリアに任せたほうが確実なのだが、机に突っ伏して眠るシスティリアの小さな肩を見ていると、自分より二十以上も若い妻に頼りきりの自分が情けなくなってくる。そんなことをシスティリアに言えば、「レオナルドはもっと自信を持つべきです!」と怒られるに違いないのだが。


「よくがんばってるよ、ほんと」


 俺は自分の上着を脱いでシスティリアにかけようとしたが、どうせ眠るならベッドのほうがいいだろうと思い直す。

 ダンスの練習で少しは粗雑さが抜けたはずの動きで、俺はシスティリアを優しく抱え上げ、ベッドの上に寝かせてやる。

 遠くエルフの血を引いている妻の美貌にかかる前髪を左右に分け、長い後ろ髪も、いつもシスティリアが眠るときにしてるように、邪魔にならないほうに流しておく。


「⋯⋯えへへ⋯⋯レオナルド⋯⋯」

「なんだ、起きてたのか」


 システィリアの声に思わずそう返しその顔を見るが、システィリアは目をつむったままむにゃむにゃと口を動かしてるだけだった。

 あどけない口元に触れる気にはなれず、俺はシスティリアの額にキスをすると、寝間着に着替えてシスティリアの隣に滑り込む。


 眠気は、すぐに襲ってきた。

 おっさんの俺にダンスの練習はしんどいし、ワッタを連れて街に出たり、アスコット村の産品についてネールと話し合ったりもしてる。安くない滞在費の元を取らないといけないからな。

 ノーラに頼んでいたことも、いくつか反応が返ってきて、準備を進める必要が出てきていた。アスコット村で留守番をしているマリーズからも返事の手紙が届いてる。ぜひやってあげてほしいという返事ではあったが、同時に自分がその場に居合わせないことにかなりの不満を抱いているようだった。マリーズは、村はあなたがいなくても滞りなく回っていると、皮肉たっぷりの文面で書き送ってきた。

 何かと気苦労は多いものの、少しずつ自分にもできることが見つかってきて、俺は珍しくやりがいを感じている。不謹慎かもしれないが、システィリアが俺に不安をぶつけてくれることで、俺は彼女にとって必要な存在なのだと徐々に自信を持てるようになってきた。


「システィリアがしてくれたことを思えば、このくらいはな」


 つぶやき、俺は目を閉じる。


「⋯⋯愛してるよ、システィリア」


 俺はそのまま眠りに落ちてしまったので、隣で目を覚ましたシスティリアが顔を真っ赤にしたことには気づかなかった。

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