26 陸の海門

 ――人魚。

 話だけならいくらでも聞く。

 霧の濃い海域で歌を歌って船乗りを惑わし船を沈めるだとか、不老長寿で美しい姿のまま永遠に生きつづけるだとか、人魚にまつわる伝説は枚挙にいとまがないほどだ。

 だが、それらはあくまでも伝説であり、実際に人魚なる存在が確認されたという話は聞いたことがない。たまに人魚を見たと主張する人間はいるのだが、そのほとんどはホラでなければ見間違いだ。

 そうした目撃証言の内容はてんでばらばらで、絶世の美女に誘惑されたと言うものもいれば、二目ふためと見られない醜悪な容貌だったと言うものもいる。

 いずれにせよ、その実在を本気で信じてるものはまずいない。海に潜って魚や貝をとる海女あまを見間違えただとか、海に棲む動物が遠目に人間のように見えただとか、最大限証言を信じるとしてもその程度のことだと思われている。


 要するに、人魚は伝説の存在だ。

 エルフやドワーフが数こそ少ないながらもれっきとして実在する種族なのに対し、人魚は架空の存在にすぎないというのが常識だ。すくなくとも俺はそう思ってきたし、世慣れた大多数の人は同じように思ってるはずだ。


「本当に⋯⋯人魚なんですか?」


 俺より早く驚きから立ち直ったシスティリアが、目の前の自称・人魚に聞いた。

 ピンクパールの髪をもつなぎさの美少女は、あたりまえのようにうなずいた。


「はい。わたくしは人魚です」


「で、でも⋯⋯足があるじゃないですか」


 システィリアがエメローラの下半身を見てそう指摘する。

 膝までを隠す白いドレスの下には、人と同じように足が二本ついている。

 華奢でありながら女性らしいやわらかさを持った白い足だ。名画家にしか描けないような完璧な弧を描くすねとふくらはぎの曲線は、細く締まった足首で合流すると、これまた完璧なくるぶしを描き終えてから、やわらかな指先までを抜かりなく描ききっている。


 と、そこまで見てからようやく気づく。

 エメローラは裸足だった。

 おそろしく手のかかっていそうな工芸品のようなドレスやネックレスを身につけてるのに、足だけが素足というのは不自然だ。

 もっとも、この少女の場合、ドレスの下が素足であっても絵になっていて、あまり違和感はなかったのだが。


 だが、システィリアの言う通り、エメローラの足は人間のものにしか見えなかった。

 人魚の姿はいろいろに言われているが、共通しているのは魚の下半身をもつということだ。上半身は絶世の美女ともいうし、サハギンの雌に似てるという説もあるが、下半身についてはおおよそ話が一致している。

 まあ、上半身が魚で下半身が人間では、ロマンティックな伝説であれエロティックな怪談であれ、話が成り立たなくなってしまうだろうからな。


 ともあれ、エメローラは上半身も下半身も人間だ。

 これで人魚だと言われても、どこに魚の要素があるのかわからない。エメローラの身にまとう雰囲気だけでも、人魚と言われて納得してしまいそうではあるけどな。


 システィリアの指摘に、エメローラはなんてことはないという口調でこう答える。


「陸に上がるときは、足のほうが便利ですから」


「足のほうが、ということは、足以外にもあるということでしょうか? 人魚というからにはやはり⋯⋯」


「もちろん、水の中に入るときは元の姿に戻りますよ? お見せしましょうか?」


「そ、その⋯⋯よろしければ」


 システィリアは、興味本位で見せてほしいと言うのもぶしつけだろうか、といった感じでうなずいた。

 エメローラは気にした様子もなくうなずくと、白砂はくさを歩き、水際へと近づいていく。


「おい、危なくないか? 他にもモンスターがいるんだぞ?」


 見た目は透明で息を呑むほど美しい湖だが、その美しさは水棲モンスターの作り出した命のない美しさだ。この湖には、魚はおろか水草すら生えることがない。ここに来るまでのあいだにも、湖の中からじっとこちらをうかがう気配を感じていた。


「大丈夫ですよ。陸の海門かいもんが開いたことで、もともとこの湖に棲んでいたモンスターたちは弱っています。あの海魔さえいなければ危険はありません」


「陸の海門⋯⋯さっきも言ってたな」


 俺のつぶやきが届く前に、エメローラはその足を湖水へとつけていた。

 ドレスのすそが濡れるのもいとわず、エメローラは湖の奥へと進んでいく。

 エメローラの腰までが水面下に沈む。ドレスが水面に広がり、エメローラの腰から下を、俺たちの視線から遮った。

 湖底を蹴ったのだろう、エメローラの身体がふわりと揺れる。


 そこでエメローラは、思いもかけない行動に出た。

 ドレスのすそを、指先でひょいとつまみ上げたのだ。


「どうぞご覧ください」


「えっ!?」

「ちょっ⋯⋯!?」


 俺とシスティリアはのけ反った。

 なぜってそりゃ、女性がいきなりスカートをまくったら驚くだろ。

 おもわず目を逸らしかけた俺だったが、


「ふふっ。綺麗な尾びれでしょう? 仲間の人魚にもいいなってよく言われるんです」


 自慢そうに言ってくるエメローラに、俺は逸らしかけた視線を戻す。


「ほ、本当に魚の尾だ⋯⋯」


 ドレスのすその下には、もう人間の下半身は見当たらなかった。

 代わりにあったのは、魚の尾そのものだ。透明な湖水の中で、青みがかったエメラルドの鱗が、波紋に光を散乱させている。尾の先には、透明な尾びれがついていた。エメローラが自慢するのもわかる、見惚れるほどに綺麗な尾びれだ。


 俺はおもわず、尾びれから尾を、目で逆にたどっていく。水を掻いてゆったりと揺れるみどりの尾は、ドレスのすその奥へと消えていた。

 人間の上半身とどうつながってるのかと疑問が湧くが、


「⋯⋯レオナルド。女性の身体をそんなにまじまじと見ないでください」


「いででっ!」


 システィリアにいきなり脇腹をつねられ悲鳴を漏らす。


「し、しょうがないだろ。見るなってほうが無理だって」


「それはそうですけど⋯⋯」


 システィリアが不満そうに頬を膨らませる。


「うふふ⋯⋯本当にお二人は仲がよろしいのですね」


 エメローラが立ち泳ぎをしながら、羨ましそうな目を俺とシスティリアに向けてくる。


「システィリア。今つねられて確信したんだが、これはどうも夢じゃないらしい」


「そうですね⋯⋯わたしもまだ信じられないのですが、何かに化かされてるのでもない限り、エメローラさんは本当に人魚なんだと思います」


「システィリアが雨の夜にいきなり押しかけてきて求婚してきたときも夢かと疑ったが、今回のこれはそれに匹敵するかもしれねえな」


「そこは、嘘でもわたしのときのほうが驚いたと言ってほしかったですね」


「いや、最終的に嬉しかったのはシスティリアのほうだけど、さすがに驚きでこれに張り合うのは無理じゃないか?」


「⋯⋯ごめんなさい。わたしも言っててさすがに勝てないと思いました」


 勝ったからなんだって話だけどな。

 俺も若くないんだから心臓に悪いどっきりは勘弁してほしい。


「ええと、信じていただけたのでしょうか?」


「これはもう信じるしかないな。疑ってすまなかった、エメローラ」


「いえ、お気になさらず。今も昔も、海を住処すみかとする人魚ものと陸を住処とするものの接点は少ないですから。男爵夫妻にご理解いただけて重畳ちょうじょうです」


 エメローラがにっこりと微笑んで、古風な言葉を口にした。


「エメローラが人魚だってことはわかったよ。でも、気になる点がいくつかある」


「この際です。どうぞお尋ねになってください」


「じゃあ、まずは『陸の海門』のことを聞かせてくれるか? このあたりは海から離れた内陸の土地だ。海に住むはずのエメローラがここにやってこれたのは、その『陸の海門』とやらのおかげなんだよな? でも、俺たちは『陸の海門』という言葉をはじめて聞いた⋯⋯よな?」


 最後のところはシスティリアへの確認だ。

 システィリアがこくりとうなずく。


「はい、わたしも『陸の海門』という言葉に心当たりはありません」


「では、陸のほうでは知られていないのですね。シグルド陛下はお母様との約束を守ってくださったということなのでしょう」


 どういうわけかほっとしたような顔でそう言ったエメローラに、システィリアが反応した。


「シグルド陛下⋯⋯? 待ってください、それは、ノージック王国の先代国王であらせられたシグルド2世王のことですか?」


「2世⋯⋯ですか? わたくしがお母様から聞き及んだ限りでは、単にシグルド陛下とおっしゃるようでしたが⋯⋯」


「⋯⋯もしそれがシグルド1世王なのだとしたら、先々代の王に当たりますね」


 王子が王となるときに、過去の王と同じ名前に改名するのはよくあることだ。

 たいてい、後世での評判がいい王の名前を引っ張ってきて、新しい王の権威づけをはかるのだ。

 完全に同名だと不便が多いので、区別が必要なときには「◯◯何世」というように、同じ名前を持つ何人目の王なのかわかるようにする。

 ちなみに、現在の国王はサグルス4世という。俺が非正規騎士をやってるあいだはずっとサグルス4世の御代みよだったので、俺は先代のことすらよく知らない。


 システィリアの言葉によれば、現王サグルス4世の先代がシグルド2世で、そのさらに前がシグルド1世ということになるらしい。エルドリュース公爵家の令嬢ともなると、歴代の王の名前くらいはそらんじているということか。システィリアの知識は、貴族になりたての俺にとってはありがたい。


「つまり、エメローラの言うシグルド1世は今の王様の祖父にあたるってことか?」


「レオナルド。今はいいですけど、人目のあるところではちゃんと『王』をつけてくださいね? 普段から気をつけていないとポロリと口にしてしまうものですから。もうレオナルドは貴族なんです。レオナルドの一言半句をとらえて足をすくおうとしてくる人は必ずいます」


「う、そうだな⋯⋯気をつけるよ」


 システィリアに小言をもらい、俺は頭をかいてそう答える。

 現在の王には陛下をつける。現王ではない歴代の王の場合は「◯◯王」と呼ぶのが慣例だ。シグルド1世の場合は、シグルド1世王、あるいはシグルド王と呼ぶのが適切だ。


「ええと、なんだっけ。そうだ、先々代のシグルド1世王が約束を守ったとかなんとか。いや、『陸の海門』のことを聞くのが先か」


「あ、すみません。話の腰を折ってしまいました」


「いいって。大事なことだ。そんなところでへまを踏んでシスティリアを守れなかったら、悔やんでも悔やみきれないからな」


「レオナルド⋯⋯」


 俺とシスティリアが見つめあう。

 システィリアの頬がうっすらと赤らみ、エメラルドの瞳が輝きを増す。


 突然二人の世界を作りはじめた俺とシスティリアに、


「⋯⋯こほん。その、夫婦睦まじいのは大変結構なのですが、お話を続けてもよろしいでしょうか⋯⋯?」


 エメローラが目をそらし、困った様子で言ってくる。


「す、すまん。よろしく頼む」


「では、まずは『陸の海門』についてお話ししますね。

 陸の海門の由来は、神話時代にまで遡ります。地上を治める国津神くにつかみの王であったタケミオルタは、海底に宮殿をもつ海の守護神アマツニナと恋に落ちます。しかし、二柱ふたはしらの神が住まうのは地上と海底。いかな神といえど、容易に結ばれることはできません。そこで――」


「ち、ちょっと待ってくれ! どうして神様の話が陸の海門に関わってくるんだ!?」


 滔々と語り出したエメローラに、俺はおもわずストップをかける。


「もう少しご辛抱ください、レオナルド様。直接関わるわけではないのですが、まったく関わりのない話でもございませんので」


「そ、そうか。邪魔して悪かった、続けてくれ」


「はい、それでは⋯⋯。

 地上に住むタケミオルタと海底に住むアマツニナ。惹かれ合う彼らは、どうにかして逢瀬をもちたいと思いました。

 そこで彼らは、地底を統べる神ソコナルクに相談を持ちかけます。彼らを不憫におもったソコナルクは、大陸に深い穴を掘ることにしました。その穴は、地上から大陸を掘り抜いて、大陸の底部で海中へとつながる大穴です。

 ソコナルクが掘ったこの大穴こそ、人魚のあいだで『陸の海門』と呼ばれているものに他なりません」


「なるほど、それで『陸の海門』なのか」


 システィリアがこの湖から潮の匂いがすると言ったのも、この湖が湖底で海とつながっているとしたら納得がいく。


「あの⋯⋯待ってください」


 システィリアが小さく手を挙げて言った。


「その神話にまったく聞き覚えがないというのも気になるのですが⋯⋯それ以前に、地面を掘っていくと海に行き着くというのは本当なのですか? 大地には、表面に枯れた植物などが生み出す堆積層があり、その下に砂や粘土の層、そのさらに下には分厚い岩盤があると、家庭教師には習ったのですが」


「人間のあいだではそう言われているのですか? ですが、海底側から見ると一目瞭然です。大陸は巨大な浮島で、海の上に浮かんでいるのです。ですので、システィリア様のおっしゃった分厚い岩盤を掘っていくと、大陸の底へと抜けて、海中に出ることになりますね。神ならぬ身で大陸の岩盤を掘り抜けたとして、の話ですが」


「そ、そんなのは初耳です!」


「人間は海の深くには潜れないそうですから、確かめるすべがないのでしょう。ですが、わたくしが大陸の底側から陸の海門を通ってここまでやってきたのは事実です。この湖の水に海水が多く混じっていることも、証拠になるかもしれません」


「でも、大陸が浮島なのだとしたら、船のように波で揺れるのではありませんか?」


「大陸はあまりに大きいので、多少揺れたとしても感じ取れないと思います」


「はぁ⋯⋯家庭教師だった先生が聞いたら、ひっくり返りそうな話ですね。人魚が実在していた時点で今さらかもしれませんが⋯⋯」


 システィリアが呆れたようにため息をついた。

 今度は俺がエメローラに聞く。


「なあ、この大陸が海に浮かぶ舟みたいなもんだとしたら、穴なんか空けて大丈夫だったのか? その、なんとかっていう地底の神様は」


 神話にそんなつっこみを入れるのも大人気ない気がしなくもないが。

 ところが、案に相違して、エメローラは俺の言葉にうなずいた。


「全然大丈夫ではなかったそうです。ソコナルクが大陸に大穴を空けてしまったせいで、海水が大穴から溢れ出し、大陸は日に日に傾いていきました。まさしくレオナルド様のおっしゃったように、この大陸は穴の空いた舟のごとく沈没しかけることになったのです」


「そりゃ大変だ。神様たちはどうしたんだ?」


 面白くなってきて、俺はエメローラにそう聞いた。


「ソコナルクはやむなく、大穴を塞ぐことにしました。

 ですが、地上と海底を結ぶ大穴が塞がってしまえば、タケミオルタとアマツニナはもう二度と逢瀬を楽しむことができなくなってしまいます。

 そこでソコナルクは、大穴に水門をつけることにしました。その水門は、百年に一度だけ、岩でできた扉を開き、海と陸とを結びます。百年に一度くらいのことでしたら、大陸が沈むような心配もありません。

 かくして、タケミオルタとアマツニナは、海門の開く百年に一度だけしか、ともにいることができなくなってしまいました」


「恋人なのに、百年に一度しか逢えないんですか」


 システィリアが自分までつらそうな顔をしてつぶやいた。


「でも、そこは神さまですから。永遠の寿命をもつ彼らになら、百年を待つことも可能です。会えない期間が長いほど、想いがつのるということもあったのでしょう。タケミオルタとアマツニナは、いつまでも初々しい恋を楽しむことができたといわれています」


「それは⋯⋯よかったのでしょうか」


「一緒にいられるほうがやっぱり幸せだよな」


「ふふっ。お二人を見ていると、わたくしもそう思えて参りますね。

 ともあれ、百年に一度の関係となった二柱の神ですが、恋人たちにとって、一緒にいられない時間は実際より長く感じられるものです。

 タケミオルタは地上でアマツニナの代わりとなる女性を追い求め、多くの女性とのあいだにたくさんの子孫を残しました。それが、今の地上人の祖先とされています。

 一方、アマツニナのほうは浮気はせず、不老不死である自分の身体の一部を魚に食わせ、半身は人間、半身は魚という存在を生み出し、無聊ぶりょうをかこつ話し相手と致しました。これが、人魚の祖先だといわれます」


「そう言われると、浮気者の子孫みたいでちょっと嫌だな」


 俺の言葉に、エメローラが苦笑する。


「あくまでも神話ですから。人魚たちもこの話を真に受けているわけではありません。

 ですが、神話の通りの『陸の海門』が実在し、百年に一度だけ、海底から地上への『道』が開くこともまた事実なのです」


「じゃあ、神話通りに海水が溢れてくるかもしれないのか?」


「その心配はないと思います。海底とつながるので海水が入り込むことはありますが、陸が沈んでしまうようなことはないでしょう。実際、百年前の『開門』の際にも、一時的に門を海水が上がってくることはありましたが、陸が沈むということはなかったそうです。海門は固い岩盤の中を通っていますので、海水が周囲にしみ出て地上の植物に害を与えることもありません。海水は淡水より重く、この湖でも海水は途中までしか来ていないようです」


「それを聞いて安心したよ」


 もし海水が溢れ出て、この辺の土地がダメになったらとおもうとゾッとする。


「ちょうど今年が海門が開く年だったってわけか。百年に一度の事態に立ち会うことになるとはな⋯⋯」


 一生のうちに一度機会があれば運がいいという計算だ。

 俺が感慨にふけってるあいだに、システィリアがエメローラに聞いた。


「それで、その⋯⋯エメローラさんがその海門を通って地上にやってきたのはなぜなのでしょうか? かなりの危険を冒してやってきたのですよね?」


 システィリアの指摘にはっとする。

 海門が開くと言っても、地底から地上までは相当な距離があるはずだ。百年のうちほとんどが閉まってるくらいなのだから、海門はそんなに広いわけでもないだろう。

 しかも、エメローラは水棲のモンスターに追いかけられていた。護衛役がモンスターを引きつけてるあいだにやってきたと言ってたから、モンスターは一匹や二匹じゃなかったはずだ。

 そんな危険を冒してまで、なぜエメローラは地上へとやってきたのか?


 俺たちの疑問に、エメローラが深くうなずいた。


「はい。わたくしは、とても大事なことのために、危険を承知でやってきました。お母様が結んだとある・・・約束を果たすためにやってきたのです」


「約束? 人間との、か?」


「ひょっとして⋯⋯シグルド王との約束ですか?」


 その言葉に、俺はおもわずシスティリアを見る。


「エメローラさんのお母様とシグルド王のあいだには、『陸の海門』のことを他言しないという約束があったのですよね? でも、それだけでは王の側にしか義務がありません。約束というからには、互いに何かを誓い合ったのではないでしょうか?」


「はい。ご賢察の通りです」


 エメローラはシスティリアの言葉にうなずくと、小さく息を吸い込んだ。



「わたくしがこうして地上までまかり越したのは、大恩あるシグルド王の子孫に嫁入りするためなのです」



 決然と言ったエメローラに、俺とシスティリアは絶句した。

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