第6話 革醒と生還

夢を見た


気がする…


自分がこの世に産まれ落ちた時のような記憶に思えた


光りなのか、闇なのか 判別出来ない

ただ混沌としている。


自分には父親と母親の記憶がない…


『水、飲むかい?』


ヌシさんだ、優しく気遣いをしてくれる


馬に乗るのも初めてだったし、ただ後ろに乗ってるだけでも

揺れるし、お尻は痛くなる


バランスを取る為、落ちる恐怖から体に力が入り

今まで使われてない筋肉を使ってるのがわかった


『ありがとうございます』


水を受け取り、飲む


ヌシさんは身体が大きく、性格もおおらかそうだった

自分からはあまり話さず、他の隊員さんの話に静かに頷いている。


あまりに短い間しか一緒にいなかった

死に触れるのは初めてではないが、あんな凄惨なモノは見た事がない


優しい人だった…


これが、僕にとって

僕のこれまでの人生の中でも

人の温かさに触れた、数少ない瞬間だったのか…



(ああ、目を開けたわ…)


誰の声だ?



(やめろ、止まってくれ…)


また誰かの声…聴いた事がある…知っているはずの声…



(………せ)


何を言っているんだ? どこから話している??


(ぜ……せ)


わかってるよ、わかってる…自分のすべき事…


やればいいんだろう?



『ぜんぶ、壊せ。』



カッ!!!!!



何かが、疾った


切り裂くように、それは実際に切り裂いていた


黒く光る球体、光体を


血が噴き出し、叫び声のようなモノが鳴り響いた


『キィィィィィイイアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!』


光りが、光源が血を流す

おかしな現象だ


僕は立ち上がっていた

アレを切り裂いたのは僕か?


手にはしっかり、剣を握っている

隊員たちが護身用にと持たせてくれた、予備の剣


なんだ?何を飛ばした??


身体の傷が、塞がっていく

と、思った瞬間 物凄く気持ち悪くなる


『うぇああがはっ!』


吐いた、血を

いや、それは”黒いナニカ”だった…


黒い血? 傷が消えていくが、治っている、癒されていくというような

感覚ではない


異常だ、異常な事が起きている

きっと自然の理から外れたような事が


しかし、傷が塞がらなければ僕は死ぬ。

身体は二つに別れてしまう


血の中に、吐き出した黒い液体の中に、何かが見えた


コショコショ…コショキョ…


あいつらだ、黒い目玉の虫けら共

そいつらは、まるで笑っているかのようだった


キヒヒ…ニヒヒ…


『…何がおかしい?』


自分でも驚く程、低い声が出た。



光体はまだ、死んでいなかった

それはまた、光速の何かを飛ばす


ビームのような何かを


キン


何が起こったのか、わからない


気付くと、剣を握り直し その光線を弾いていた

滑らかな、無駄のない動きだった


剣の稽古など、ほとんどした事がない


村の子供たちが、村長や大人に剣を習ってるのを見て真似をしたくらいだ

村長は僕をまぜてはくれなかった


食料などは分けてくれても、村長は確固たる意志で僕を遠ざけているようだった…



自分から流れ落ちた血が蠢いている


僕は驚いてさえいなかった、初めて見る現象なのに


血が、剣に纏わりついてく


黒い血が動いている

這いずっている…


それは長剣のようになり、真っ黒の刃となって型をとどめた。

遥か東の地に伝わる”カタナ”のようだと思った


黒い光は怒っている

そう感じた


あの光を、連続で飛ばして来た


それを僕の体は、超反応して躱していく

信じられないスピードで辺りを駆け抜ける


着地する


止まる前の瞬間に、光体を斬っていた


またも、黒い球体は悲鳴を上げる。


頭が、僕の意識が

僕の身体に追いつけない


理解も出来ない…


(あいつらが、僕に何かしたのか??)



次の瞬間、僕はゾッとした


自分自身に



僕の口元が、笑っていたから




『初めまして、私の…愛しいこ…』

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