第36話 狩り(4)フィールドゲーム

 客達は山の中を裏門に向かって進みながら、先行しているはずの獲物を探していた。

 彼らは皆大金持ちで、成功者とか言われている者達や、その子孫達だ。色々な遊びはした。表ざたにできない遊びも多少はしてきたが、それでも退屈は紛らわせられなかった。

 共通の狩猟でそんな話をしている時に、ある男から誘われた遊びが、この人間を獲物にした狩りだった。

 いろいろな事情で、いなくなっても探す人間がいない、という者がいる。そういう者を使って、狩りをしている。

 ゴールを設けていても、本当に帰す事はない。最初の獲物はゴールに辿り着かせてしまったが、そう言ったら愕然とした顔をして反撃しようとしてきたので、殺した。

 次は最初に急所に当たって動けなくなったので、つまらなかった。

 その次からは、上手くやるようにしたのだ。なるべく長く逃げ回らせ、徐々に傷を増やして行き、ゴールが見えるようになってから殺す。

 とどめを刺すのも、順番だ。

「今回の獲物は元気そうだったし、体も鍛えてあったようだったな」

「ああ。久しぶりに楽しめるんじゃないかな」

 そう言い合って、ウキウキとしながら、獲物の姿を探していた。


 そんな彼らを、モトとセレは背後から見ていた。

「まずは銃の奴だな。右端の奴を俺が撃つ。セレは左の奴だ」

「わかった。

 あとはどうする?銃声はどうせ聞こえないだろうし、片っ端から撃つ?」

 モトは言われて少し考えた。

 少し弓矢に興味もあったが、クロスボウなどと違う本当の和弓だったので、動けなくなったところを射るか、気付かれない所から狙うかする程度だったのだろうと、期待はしていない。

 モトは弓を持つ相手と対峙するという経験を積めそうもないと割り切った。

「もうそれでいいか」

「ん、わかった」

 それでモトとセレは淡々と、銃で狙う準備をした。

「いねえな。山の中に隠れてやがるのかな」

「おおーい、どこでちゅかぁ。怖くないから、あそびまちょー」

 ゲラゲラと笑いながら若いのがそう言い、ほかの客達も、警戒を見せずに辺りを見回した。

 その、銃を持っている左側の男の頭が、いきなり弾けた。

「え?」

 驚いたが、右側でもどさりと倒れる音がしたので目を向けると、そちらでも銃を嬉しそうに振り回していた男が頭をグズグズにして倒れていた。

「え?何で……」

 そう言っているうちに、別の2人が棒を倒すように倒れる。

「ヒイッ!?」

「嫌だ、何でだ!あの男か!?ライフルなんて持ってなかったのに!」

 知らず、腰を抜かして座り込む。

 そして、忙しく辺りを見回して、敵を探す。

「どこだ!?どこから狙って来てる!?」

 探しているうちに、もう1人いた客も頭を撃ち抜かれて無防備に倒れ、それを見ながらその客も倒れ込んで行った。

 自分が失禁している事に、死ぬまで気付かなかった。


 仕事を終えて日常に戻ったら、東雲が訪ねて来た。

 突然何の用かと内心で身構えていたら、学校で困っていないか、警察やマスコミの対応で困っていないか、などというものだった。

 が、大丈夫だと言うと、今度は進路について心配し始めた。

 家族でよく相談して決めるからと言えば、モトの仕事が経済的に不安定な事を心配し、リクがいると言えば、リクの社会性を心配した。

 それから、セレに仕事を手伝わせるのはいかがなものか、繁華街などに連れ出しているんじゃないでしょうね、と言う。

 ようやく帰って行った時には、セレもモトも疲れていたし、リクは部屋から出て来て、

「やっと帰ったか。

 親切のつもりかもしれないけど、大きなお世話だし、失礼だぜ」

と顔を歪ませた。

「まあ、幸せに育ったお嬢ちゃんなんだろう。心配してるのは確かだろう」

 モトは肩を竦めて言い、セレはフンと笑った。

「大きなお世話だし、自分の価値感でしか見てないけどね」

「まあ、もう、どうでもいいや。

 スイカ食おうぜ。食べようと思って切った所だったのに」

 リクが言って、3人は冷蔵庫に入れ直したスイカを出した。

 セレはギザギザスプーン使用派で、リクとモトはかぶりつき派だ。そしてリクは砂糖をかけ、モトは塩をかけ、セレは何もかけない。

「いただきます」

「ん、甘いな!」

「だろ。軽く叩いて『レ』の音がするのが糖度が高いってテレビでやってたから、片っ端から叩いたんだ」

「お前も凝るね、セレ」

 言い合いながらスイカを食べる姿は信頼し合う家族そのもので、楽し気に見えた。

 だがそれがいつまで続くのか、将来はどうなるのかは、誰にも分らなかった。


 そしてその夜、新たな連続女子高生拷問殺人事件の被害者と思われる遺体が、発見された。




 

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