第35話 狩り(3)室内ゲーム
モトは取り敢えず、その場から離れた。そして、囁く。
「聞こえたか」
『聞こえた。僕は今、門を越えたところだ』
セレの声が応える。
「わかった。合流して武器を貰おうか」
『さあて、狩りを始めようか。ただし、獲物はあっちだけど』
リクが笑った。
雑木林の中で、セレの運び込んだ武器類をモトは受け取った。イヤホン、防刃防弾チョッキ、ナイフ、拳銃と装備しながら、山荘の方をチラと見る。
「客は6人、スタッフも見た限りでは6人だった。武器は、客はライフル、弓矢、ナイフ。スタッフは拳銃とナイフかな」
「客が出た後で、スタッフは山荘内で殺っておくか?」
「そうだな。合流されると鬱陶しい」
セレとモトはそう打ち合わせ、ひとつ頷いて、足音を立てずに走り出した。
山荘の客達は、時計を見て各々の武器を手にして笑った。
「時間だな」
「見付けたら知らせる事」
言い合って、モトが向かうであろう、祠の方角を目指した。
それを、セレとモトは後ろから見送った。そして、山荘に滑り込む。
山荘では、客がスタートして、やや空気が弛緩していた。
「しばらくは放っておいても大丈夫だな」
フェンスを越えて逃げ出す事は無い。そう安心しているらしい。
「獲物が客を襲って逆襲するなんて事、起こりそうで起こらないんですね」
下っ端らしい男が言うと、先輩が鷹揚に答えてやる。
「そりゃあ、客は武器で武装しているうえに、単独行動はとらないからな。少なくとも2人以上で行動している」
「へえ。やっぱり、危険だからですか」
「まあな。間違えて客同士がやり合うとまずいだろ」
言い合いながら、だらけ切った様子で、コーヒーを淹れに行ったり、ソファで居眠りしようと寝転がったり、スマホをいじり出したりし始める。
セレとモトは裏口から潜入していたが、キッチンに滑り込むと、モトがコーヒーメーカーの前に立つ1人に忍び寄り、声も上げさせる間もなく息の根を止めた。
そして、そっと床に寝かせると、ほかの連中を片付けるために廊下に出る。
次は、トイレに立った1人だった。
トイレに入り、出て来たところでセレが再び押し込むようにして入り込む。
男は驚いたが、口を押えて背後に勢いよく押されたため、腕を振り払うことができず、声を立てられないうちに心臓にナイフを差し込まれて絶命した。
返り血を防いだ手拭きタオルを目を見開いた死体の上に放り、トイレを出る。
残りは、リビングでくつろいでいた。
(緊張感の欠片もないな)
敵ながら呆れ果てる。
廊下の奥に、モトが軽くスリッパを放った。
「ん?何だ?」
「見て来いよ」
「はい」
言われて、下っ端が見に行く。
それを、廊下の途中の部屋の部屋のドアかげに潜んでいたモトが引っ張り込み、素早く殺す。
しばらくすると、下っ端も、トイレに立った男も、キッチンへ行った男も戻って来ない事に、やっと疑問を感じたらしい。
「おい、どうだったんだあ?それに、コーヒーまだか。お前は腹でも壊したのかよ」
言いながらソファから立ち上がり、廊下を奥へ歩いて行く。
そしてキッチンの入り口で中を覗き、その途端、床に倒れた足を見付け、無防備に中へ入り込んだ。
その時を狙って、ドアの上に乗って隠れていたセレが後ろに飛び降り、頸動脈を背後から斬る。
痙攣が収まり、完全にぐったりとした男をキッチンに引き入れて寝かせ、死んでいる事を確認すると、セレは次の獲物にかかった。
残る2人のうち、片方は悠々とマッサージチェアに座って背中、腕、足をマッサージしていたが、もう1人はスマホをいじりながら、
「課金しないとだめかなあ。ガチャ引くか。外れがきたらなあ」
とブツブツ言っている。
セレはマッサージチェアの背後に気配を消して忍び寄り、背後から紐を首にかけると、思い切り引いた。
「ぐえっ!?」
腕も足もマッサージチェアのアームに挟まれて、パニックになった男には抵抗できない。そのうちに、そのまま死んだ。
モトの方は、スマホに夢中な男に近付くと首にひもをかけて絞めながら馬乗りになった。男は驚き、慌てたが、モトに抑え込まれているのでどうにもならず、しばらくして死んだ。
「残るは客か」
それでモトとセレは、顔色を変えずに山荘を出た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます