第25話 因果応報(1)刑事

 2人組の刑事は、セレと保護者のモトと向かい合って、片方が質問する間、片方が何も見逃さないという目でじっとセレを観察していた。事情聴取の基本だ。

「梶浦瀬蓮君と、伯父の久我基樹さん」

「はい。私の妹が瀬蓮の母親ですので」

 実際は、本物の久我基樹は行旅不明人として無縁墓地で眠っている。災害で死亡していたのだがちょうどその頃身元が分かり、その戸籍をモトが使用することになったのだ。

 しかしセレもモトも、しれっとしている。公安がしっかりとお膳立てしているのだから、調べられても不都合など出て来ない。

 刑事は緊張を隠しながら、質問を続ける。

「ええっと、事件の被害者である水島晴美さんは知っていますか」

「いえ、知りません。まあ、同じ学校らしいので、知らないうちにすれ違っている事はあったかもしれませんけど」

 セレはそう言った。

「そう。ううん。

 じゃあ、テストの最終日から一昨日まで、どこで何をしていたか言える?」

「はい。伯父の手伝いで国外にいました」

 それに刑事は2人共、

「はあ!?」

と間抜けな声を上げた。

 そして揃ってモトを見る。

「詳しくは言えませんが、ある人物を密かにガードする依頼を受けて、豪華客船エカテリーナに乗っていましてね。出発がテスト最終日で、戻って来たのが昨日ですよ。

 外務省に問い合わせてもらえば、出入国の記録がありますよ」

 モトが言うと、刑事2人は顔を見合わせて、面白くなさそうな顔をした。

「はあ。

 じゃあ、5年前の女子高生連続拷問殺人の事は覚えてますか」

 モトは不機嫌そうにわずかに眉を寄せ、セレは瞳をわずかにすがめた。

「はい。勿論」

「ええ。当然」

「被害者は、瀬蓮君を中傷するビラを貼って回っていた1人だったらしいけど――」

 そこで刑事は、セレの顔から、セレがそれを知らなかった事を知った。

「知らなかったのか?」

「……はい」

「そう。じゃあ、今それを聞いて、どう思う?」

 意地の悪い質問だと、モトも、刑事自身も思った。

「どう……。そうですね……。ビラの内容は、事実ではありませんでした。調べてから書け、とは思っていましたが……。

 別に、水島さんが被害者だといって、特別な感想はないですね。ただ、真犯人がどこかにいたんだな、と改めて思うだけです」

 それで刑事2人は、片方は嫌そうに舌打ちしかけてしかめっ面をし、もう片方は居心地が悪そうに身じろぎした。

 そうして刑事が帰って行くと、リクが部屋から出て来た。

「何?警察はビラを貼られた腹いせに殺したとか疑ってるわけ?」

 そう言って、フンと鼻を鳴らす。

「ま、日本にいなかったわけだしな。問題はないだろうけど、気になるのは気になるな」

 モトはソファに深くもたれ込みながら考えた。

「ビラを見た誰かが、その事件を模倣して殺したのか。それとも、5年前の事件の真犯人が犯行を再開させたのか」

 それを聞いたセレは言った。

「もし真犯人だとしたら、それはどうやってビラを貼ったのが水島さんだとわかったのかな。それともたまたまか?どちらにせよ、真犯人はこの近くに潜んでいるって事になるけど」

「行動に注意した方が良さそうだ」

「セレ。ゴミのポイ捨てや路チュー禁止だぜ」

 ふざけるリクに、セレもモトも苦笑した。


 セレの家を出た刑事は、マンションを出て、出て来たマンションを見上げた。

「梶浦瀬蓮の線はないですね」

 年かさの方は、面白くなさそうに肩をグルグルと回した。

「真犯人は何でここで、あの子をターゲットにしたんだ?無関係なわけないだろうが。

 梶浦も、拘置所内で死ぬとか。当てつけかよ」

 理不尽なセリフに、若い方は苦笑をかみ殺した。

「で、どうします?一旦本部に戻りますか」

 それに頷く。

「そうだな。帰って、出入国記録を問い合わせる。

 笠松、坂上、桐原、佐藤の方も、アリバイの再確認だ」

「はい」

 2人は、捜査本部に帰る事にした。


 





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