第26話 因果応報(2)すれ違い

 終業式のために学校へ行くと、待ち構えていたように、笠松、坂上、律子、琴美が取り囲む。

「連絡しようとして何回頭を抱えたか!」

「電話番号!それとライン!」

「家の場所もわからないんだもん!もう!」

「ほら、早く電話出して!ほら!」

 スマホを突きつけられて、セレもスマホを出す。

 ほとんど登録の無い寂しいスマホだ。彼らは何とも言えない顔をし、笠松が誤魔化すように口を開いた。

「あれだ。事件が起こった時のアリバイとか訊かれただろ。俺達の所にも来たぜ、刑事が」

 笠松が言うと、坂上がうんうんと頷く。

「俺もゲルもバイトだったから助かったけどな。大丈夫だったか?」

「ああ、うん。伯父の手伝いで、日本を離れてたから」

 そうセレが言うと、4人は声を揃えて

「えええー」

と言った。

「いやあ、詳しくは言えないんだけど、豪華客船でクルージングしてたんだ。写真見る?あ、お土産もあるけど」

 言った途端、

「いる!」

と4人は答え、次いで、

「これが豪華客船!」

「凄い!乗ってみたい!」

などと言いながら、スマホの写真を見始めた。

(写真を撮っておいて良かった)

 セレはそう思いながら、ナッツ入りのチョコレートとキャラメル入りのチョコレートの入った箱を配った。


 成績表などを受け取り、5人で学校を出て駅の方へ向かう。

「ここのコンビニで見付けたんだ」

 水島ともう1人がビラのコピーをしている所を見付けた時の話を聞いていた。

「ふうん。でも、コピー代もバカにならないだろうに」

 ご苦労な事だとセレが思いながら言うと、笠松は苦笑したが、律子と琴美は怒っていた。

 大体、女子の方が同性に厳しい傾向があるらしい。

「中傷ビラは許せないわ。許しちゃだめよ」

「そうよ、梶浦君。何の確認もせずにうのみにして、最低」

 琴美が怒ると、坂上が、

「そうそう。立ち聞きしてそれをそのまま信じるかな」

と言い、律子が責任を感じたように顔を曇らせて、坂上は笠松に頭をはたかれた。

「本当にごめんなさい。うちの姉が取材なんて考えついたばっかりに」

「いいよ。記事にはしなかったし、元々父が犯人だと思ってる人は多かったと思うし。どこのマスコミも、書かなかったから」

 セレはそう言ったが、そのマスコミに姉が勤めている律子としては、まだ肩身が狭い。

「ああ、でも、あれだな!今回の事件で、5年前の事件で梶浦のお父さんが誤認逮捕されたってのが広まったのは、不幸中の幸いって言うかさ?」

 笠松がそう言って、話題を変えようとする。

 その時、コンビニから出て来た女子高生が、店の前を歩いていたお婆さんにぶつかった。

「ああ」

「チッ」

 おばあさんはよろめいて手提げを落とし、女子高生は舌打ちして歩き去った。

「何あれ!」

「大丈夫ですか?」

 律子と琴美はすぐにおばあさんに近付いて肩を貸して支え、笠松、坂上、セレは、散らばったタマネギやキャベツやオレンジを追いかけた。

 拾い集めて戻ると、同じように拾っていた社会人か大学生のような青年がいた。

「これだけかな」

 手提げの中に入れていく。

「ありがとうねえ」

「酷い事をするな、全く」

 青年は去って行った女子高生の小さくなった後姿を睨みつけていた。

「ケガはないですか?」

 そう訊く律子を、青年はじっと見ている。

 そして、小さく口の中で呟いた。

「この子は違うか」

 それで、セレ、駅に行く4人、青年、おばあさんは、そこで別れた。


 青年は振り返って、セレを見た。

「あれが、梶浦真之の息子か」

 視界の中で、セレは角を曲がって住宅街へと入って行った。

 それで青年も歩き出し、家へと帰った。

 1人暮らしの家は、どこか寒々しい。かつて母親もいた頃はここに3人で暮らしていたが、父親はアメリカで病死し、今は帰国した彼が1人で住んでいる。

 だが今は、客がいた。

 地下室に下り、客にただいまを言う。

「ただいま。

 今日は終業式だったんだな。それで例のコンビニの近くで彼らに会ったよ。梶浦瀬蓮もいた。初めて会ったな」

 客は簡易ベッドに手足を拘束され、猿轡を嵌められている。ネイルの施された指の爪は、6本が剥がされていた。

 そして、恐怖をありありと顔に浮かべ、青年を見ている。

「君と違って、あの子達は礼儀正しかったよ。

 やっぱり君みたいな子は嫌いだ。傍若無人で、独りよがり。よくもまあ、無実の子を中傷するようなビラをまいたよな。社会の為にもならない。

 そう思うよねえ?」

 戸川好子は目を見開いて、猿轡の下で叫び声を上げた。




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