第24話 海外出張(6)夢の後

 寄港地に停泊し、客がオプショナルツアーで上陸して観光している間に、食料などを積み込む。

 それに上手く紛れ込んでセレとモトは船に戻った。

 そして、最終到着地まで2日間をのんびりと過ごし、飛行機で日本へと帰国した。おかしくないように、お土産も買いこんでいる。

 そのチョコレートを、セレ、モト、リクは食べながら、報告会をしていた。

「ラビットか。性質の悪いクラッカーだぜ。あいつもマリカの所にいたのか。

 あ、言っておくけど、オレの方が凄いからね」

 リクはラビットに敵意を燃やしている。

「それより、情報が洩れてたのが困るよ」

 セレが言うと、モトも渋い顔をする。

「メールか何かからかも知れんな。普段は二重暗号を使っているメールを使っているが、職員の誰かが、隙でも見せたのかもな。薬師に報告はしておいたがな」

「及川もいたとはなあ」

 リクが言う。

「ま、モトはこれでカタがついて良かったな」

「ああ」

 脳裏に子供を抱いた妻の笑顔が浮かび、モトは自然と頬が緩んだ。

 そして、咳払いして誤魔化す。

「で、こっちの方はどうだった。何か変わった事はあったか?」

 それにリクが、ああ、と言って表情を引き締めた。

「女子高生が殺されたんだけどな。セレと同じ学校の生徒で、爪を剥がされ、何カ所も刺されたり切られたり、焼き印みたいなものを押されたりしていたらしい」

 それで、セレとモトの表情も引き締まる。

「それって……」

 モトがかすれた声を上げた。

「ああ。まるで女子高生拷問殺人の再来だぜ」

 部屋の中の空気が、シンと冷えたようだった。


 律子は、その事件を報道した記事を繰り返し読んで、眉をひそめていた。

「水島晴美……この子って、コピーしてた、片方の子じゃない……」

 ワイドショーでも、「悪夢の再来」「模倣犯か」などと報道されているが、そこに写った被害者の顔写真は、ビラをコピーしていた2人組の生徒のうちの片方だった。

「たまたまよね」

 そう呟いてみるが、自分でも空々しく聞こえる。

 そして、セレに連絡しようと思ったが、連絡先を交換していない事に気付いた。もしかしてと思って笠松に連絡してみたが、同じだった。

「なんでゲルの番号があって梶浦君のがないの」

 憮然としてスマホを睨みつけるが、夏休み前にラインに誘っておかなかった自分を呪うばかりだった。


 生徒が殺害されたというショッキングな事件に、教師達も浮足立った。

 それも、事件の内容がやはり生徒の親が犯人とされた事件に酷似しているというので、余計だ。

「まさか、この生徒が犯人という事はないでしょうね」

 教頭が言うのを、東雲はキッと睨みつけた。

「教頭先生、なんて事を言うんですか!」

「し、しかしだね」

「梶浦君は、そんな子じゃありません!」

 それに学年主任も唸って口を開く。

「この被害に遭った女子生徒は、例のビラを貼って回っていた1人らしいじゃないか。腹を立てて、という事はないか。梶浦は、成績はいいが、暗くてロクに友達もいない生徒だろう」

 東雲は、机をバンと叩いて抗議した。

「物静かで、大勢よりも少ない友人を大切にするんです!」

 臨時の職員会議は、

「とにかく、生徒に動揺を与えないように。マスコミには何も答えないように。ビラやイタズラ書きの事は言わないように。それと梶浦が在籍している事も」

という事で決着した。

 しかし、止めていても、誰かが洩らすものである。

 梶浦真之の息子がここに在籍し、中傷するビラを貼り付けていた1人が被害者であると、警察にも、マスコミにも知らされたのだった。



 

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