第36話 そこで見たのは
ギルドを出た冒険者達は少し時間は掛かったものの森の前まで到着した。
「よしッオメェら!! ここから先は警戒して進むぞ!! オーク以外の魔物も多く出る!! 気い付けろよ!!」
「「「おうッ!!」」」
ジェイドの言葉に冒険者達は大きく返事をした。森へ入った事で魔物達が時折襲ってくる。だが陣形を組み、連携する事で誰一人欠ける事なく森の奥へと進むことが出来ていた。このまま順調に進んでいける、そう皆が思っていた、だがジェイド一人だけはこの森の異変に気付き、そして考えていた。
「おかしい……何故オークが一匹たりとも見当たらない?他の魔物は見かけるんだがな……。おい、坊主。アレンって小僧は強いのか?」
しばらく考えていたジェイドだったが、ふと何かを思い付いたのか、共に集団の前を歩いていた横の少年に尋ねた。そして、坊主と呼ばれたレイは答える。
「え?はい……ギルマスが目にかけるくらいには」
突然聞かれたことに驚きはしたものの、レイは少し考えた後そう答えた。プライドの高いレイだったが、アレンの実力は認めざるを得ない。なんといってもギルドマスターであるリオンが認めているほどだ。そこでそれを率直に答えた。そう、それがよかったのだ。この時のレイが選んだアレンを表した言葉の選択は正しかった。ジェイドや他の上級冒険者にとってギルドマスターであるリオンは、ギルドの中で強さに置いてこれほど信用できる人物はいない。そのリオンがアレンを目に掛けていると言うのだ、アレンへの評価は低級冒険者にも関わらず確かな実力を持った人物という事になる。これでシエラが言った、一人でオークの軍勢を食い止めているという話にも信憑性が出てきた。
「なるほどな……これはもしかするかもな。おっ……濃い血の匂いが近づいてきたな」
森を進んだ先に明かりが見える。そこへ進むと草原に出た。そして冒険者達がそこで見たのは……無数に転がるオークの首と胴体。
「な、なんだこれッ!! おいどうなってんだ!!」
一人の冒険者が叫ぶ、その他は絶句して言葉も出ない。他の冒険者にとって目の前に広がる光景は恐怖でしかない。それもそのはず、これを生み出したのが一人の少年だと思いも寄らないからだ。この無数の死体は冒険者達にオーク共をこうさせた危険な魔物が近くに居るのではないか、そう思わせた。
だが、ジェイドの一言がそれを払拭させた。
「この首の切断面……剣によるものだ」
「は?こんな芸当ができる冒険者がいるって事か?オイオイ、今ここは立ち入り禁止なんだぞ。そんな奴なんて……」
ジェイドが言ったように、本当に人の手でこの惨状を作り上げたのだとしたら、それは上級冒険者などの確かな実力者でしかあり得ないだろう。しかし、この場に上級冒険者が向かったという情報はない。ならば誰がやったのか?と、この場にいるジェイドとレイ以外の冒険者達には全く見当もつかなかった。
「いるだろう。俺たちが探している……アレンって小僧がよ。まぁ俺も信じられねェが。その小僧……どうやら相当な化け物みたいだな」
「ハ、ハハッ──ハハハッ」
レイの笑い声だ。
レイにとってこの光景は恐怖より、嬉しさが強かった。この死体の有様を見ればある程度状況が把握できるからだ。首を切られた以外に目立った外傷のないオークの死体。そこから導き出されるのは、アレンの手によって全て瞬殺されたという事。これで、挫け掛けていたアレン救出という目的が果たせる可能性が高まった。
「おい、ジェイドさん! 早く先に進もう! アレンがこの先にいるかもしれない!!」
あまりの嬉しさにレイは興奮した様子でジェイドへ、早く先に進むことを提案した。
ジェイドはレイの言う通り、早急にアレンの元へ向かうため一歩前へ進んだ。そして、また一歩踏み出そうとしたが──
「……いや待て。奥に馬鹿でかい魔力の反応がある。この感じ……オークのモノだ」
大きな魔力反応を感知した事で一旦立ち止まった。
「え?じゃあまだアレンはまだ闘ってるかもしれないんだろ!? 早く行こう!! アイツだって疲れてるはずだ。加勢してソイツを倒しにいこう!!」
レイは興奮した様子で必死に訴えかけるが、その
そして、気を取り直したのか周りに指示を出す。
「オメェら!! 死体の処理とこの血の匂いに釣られてきた魔物の討伐を任せる!!
俺はこれから奥の奴とやり合う!!
B級以上は着いてこい!! 急ぐぞッ!!」
「お、俺もいくぜ!! アレンは俺が──」
ジェイドの指示の内容は理解していたが、居ても立っても居られないレイは自分も先に進もうとした。しかし──
「坊主!! これは遊びじゃねえんだ。奥にいる魔物の強さも感じ取れないお前が行っても無駄死にするだけだ」
ジェイドはレイを威圧し怒鳴りつけた。
一瞬萎縮し、もう一度掛け合おうとした様子のレイだったが、踏みとどまり何か覚悟を決めた様子で──
「アレンを頼みます!!」
そう一言告げ、他の冒険者達と死体に釣られてきた魔物達の掃討に向かった。
「よしッ!! いくぞオメェら!!」
ジェイド達は死体の山を踏み越えながら、一頭の魔物の元へ急ぐ。死体の山を越えるとそこは、地面は抉れており、ここが草原だった事が信じられない程の荒れようだった。
そしてここから見えるその奥にはまたオークの死体の山が見えた。しかしジェイド達は先程の死体と何かが違うと感じた。
「ジェイドさん!! このオークの首……全部捩じ切れてます……」
見たら直ぐに分かる事だったが、伝えずにはいられなかったのだろう。この事実に対し、さすがのジェイドも困惑は隠せなかった。
「ああ……これもアレンが……?だがアイツはどこに……」
先程は剣で胴体と切り離されたオークの首、今度のは捩じ切れた様な痕がある首。
この死体の有り様はまるで、剣が使えなくなったので、素手で首を捩じ切るしかなかったとでも言っているかのようだった。
こうして、無数に転がるオークの死体の状態に驚きながらも、ジェイド達は歩みを止めず、着実に先へ進み続けた。そして遂に視界に人影を捉えた。死体で埋め尽くされた地面の上に立っている姿は一つだけ。
そこにいたのは……一頭のオーク。
それもただのオークではない。鎧を身につけて、戦斧を握りしめている。
「あれは、オークジェネラルか!?」
驚きのあまり一人の冒険者はそう叫んだ。
だがそれをジェイドは否定する。
「ただのオークジェネラルじゃねェ。以前やり合ったオークジェネラルとはえれェ違いだ。恐らく変異種だな。ヤベェな、これは少しガチでやり合わないといけねェか……」
そう言いながら周りを見渡す。探しているのは一人の子供だ。だが見当たらない。
「グギャギャギャ!! アタラシイ、エモノガ、キタッ!!」
「あ、アイツ喋るのか!?」
魔物が喋った事に驚きを隠せない冒険者達。
「ああ、変異種ってのはこういう魔物もいるってこった」
それを聞いた一人の馬鹿な冒険者は思い付いたように、ジェイドへ訴えた。
「だったら、アレンっていう子供の事聞いたらいいじゃないですか!!」
「おい、やめろ──」
「おいお前!! 小さな子供を見なかったか!!」
ジェイドは止めようとしたのだが、少し遅かった。なぜ止めたか?ジェイドは分かっていたのだ。そんな事は聞く必要がないことを。今ここにアイツがいる事が全ての答えなのだから。
「グギャギャギャ!! コロシタ!! オレガ、コロシタ!!」
返ってきた返答はジェイドの予想通り、最悪の答えだった。これで、今回の目的の一つであったアレン救出は失敗に終わる。
「なッ!?」
考えの足らない馬鹿な冒険者は一人、その事実に驚愕していた。
「だから言っただろ……! はぁ……大見え切ってシエラちゃんに助けるとは行ったが。
まさか、こんな奴がいるなんてな。おいオメェら!! コイツ相手にやり合うには上級冒険者じゃなければ無理だ。お前らはそこで見ていろ!! コイツは俺一人でやる!!」
ジェイドは背負っていた大剣を鞘から引き抜き構えた。今まさにジェイドとオークジェネラルとの戦闘が開始される。
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