第33話 調査依頼失敗?

 ──あのハーレム要員達が連れてかれたのか……。どうりでここに居ないはずだ。恐らく三人でパーティーを組んでいるのだろう。前衛が一人、攻撃魔法が得意な後衛と補助魔法が得意な後衛で二人。結構いいバランスのパーティーだと思う。


そんな事を考えていると、その様子にレイが痺れを切らしたのか訴えてくる。


「お願いだ!! 俺と一緒にアイツらを助けに行ってくれないか!!」


見下している俺に対して情けなく頭を下げて頼み込んでいるレイ。プライドが高いレイにとっては屈辱だろうな。普通の人ならその意気を汲み取ってあげよう! なんて考えたりするのかもしれない。残念ながら俺はそんなに甘い人間ではない。だから──


「冒険者は自己責任だろ。レイ、自分でそう言ってたのを忘れたのか?俺にその二人を助ける義理はないよ」  


「そ、それは……」


あの時の自身の言動を思い出し何も言えなくなったのか、少しの沈黙が流れた。

このまま時間が経ってしまえば、いずれオーク達がここにやって来てしまう。

なので仕方なく、仕方なくだ。


「はぁ……全く。その二人がオークに連れてかれているなら集落だろうしな。俺もそこに用事があるからついでに助けてくるよ」


そう言うと、今まで曇った顔だったのが一瞬にしてパァーッと晴れた顔になった。


「おお!! 助かるぜ!! 少し前の事だからまだ間に合うはずだ。さぁいくぞ!!」


助けると言った事が相当嬉しいのか、怪我の事を忘れた様に立ち上がり、二人が連れてかれた方に向かおうとする。


「おい、どうしたんだ?早く行かねーと、アイツらが!!」


俺がその場を動かないのを不審に思ったのか、振り返って大声を張り上げた。


「んーレイは連れて行かないよ。死なれたら困るし」


「は……?」


 ──そう、レイは俺が怒られない様にする為の大事な証人なのだ。殺されてしまったら非常にまずいことになる。それに、オークは足手纏いを抱えて勝てる程度の魔物ではない。それも上位種がいるのならば尚更だ。


「な、なんでだ!! 俺も連れて行ってくれ!! 頼む!! 俺がアイツらを助けなければいけないんだ!! 俺が……俺がこんな所に来たばかりに……アイツらが!!」


 ──レイは二人が連れていかれた事に責任を感じてるのだろう。まぁ俺にそんな事は関係無い。そして何より……


「何度も言うけど冒険者は自己責任。二人がレイについて行こうとしたのは各々自分の判断でしたこと。それはレイの所為じゃ無いよ」


森に入ろうと言い出したのがレイだって事は初めから分かっている。だけどそれは残りの二人もオーク──魔物を舐めていた事が今回の発端だ。オークの推奨討伐ランクはC級とされているが、単体ならD級レベル。オークは基本数体で動く魔物だという理由でC級に定められているだけなのだ。それは少し調べればわかる事実だ。恐らくそれを知った事で自分達でも倒せるとでも思ったのだろう。


「違う……!! 俺は、自分の事しか考えてなくて!! アイツらを危険に!! だから、だから俺は……!!」


 ──まぁいつまでも言い合ってても仕方ないしな。よしっこうなったら……飛ばしちゃうか!!


「風魔法──『風女神之手檻アウラノホウヨウ』」


「なっ何すんだ!! おいッ!!」


巻き起こった風が大きな女性の姿を形作り、その女性の手がレイを包み込んだ。そしてそのまま宙に浮かび上がり森の外側へと向かっていく。


「クソッこっから出せ!!」


必死に風の檻の外へと逃げ出そうとするが、レイ如きが俺の魔法から抜け出せるはずもない。


「暫く森の外で大人しくしててよ、二人の事は俺に任せてさ」


レイはまだ何か叫んでいたが、もう既に声が届かない程に遠ざかって行った。本当にレイ達は面倒な事を起こしてくれた。森の入り口付近であるここでならオークを殺したりしても、オークの本隊達に気づかれない可能性がまだあった。しかし、二人が連れてかれたという事は、森をさらに進んだところまで行かなければならない。これでは本隊が俺に気付くのは……ほぼ確定した。



 ──シエラと依頼を受ける際に絶対に闘わないって約束してたのになぁ。まぁこうなってしまったのだから仕方ない。

さっ時間もない事だし……


「さぁ、やるかっ!! 雷魔法──『雷霆之鎧ライテイノヨロイ』!!」


雷を見に纏い、雷速で木の間を駆け抜ける。『魔力感知』を同時発動させ、オーク共の魔力を探る。僅か数秒でかなりの距離を進め、遂にそれらしき魔力を見つけた。だが、『身体強化』を発動させ、魔力を辺りに放出しまくっている所為で、オーク共には完全に俺の存在は察知されている。


「ハハハハッ!! もう調査依頼失敗だね」


 ──もうこれでアイツらを殲滅しないといけなくなっちゃったな!! そう!! これは仕方ないことなのだ!!


魔力を辿った先に女二人を抱えて、ある方向に向かうオークの集団が視界に入る。

そしてその方向のもっと先に、数えきれないほどのオークの魔力数、そしてその中でも飛び抜けて高い魔力を持った奴がいる。恐らくソイツが上位種だ。


「おっニーナとメイだな! まだ集落に到着してなくて良かったー!」


あのヤバいオーク相手に出し抜いて救出する余裕が俺にあるかどうかは分からない。


 ──取り敢えず……速攻で終わらせてもらうよ。


「雷魔法──『雷一閃イカヅチイッセン』!!」


雷の斬撃は真っ直ぐオーク共の足を腰から切り離し、担がれていた二人は宙に放り出された。そして距離を一瞬で詰め、二人を抱える。斬られたオーク共は地面に横たわり……


「「「ブモオオオオオ!!!!」」」


雄叫びを上げている。


 ──これは……仲間を呼ばれたか?


物凄い勢いで、大量の魔力が近づいてくるのが分かった。


「ハハハハッ、ハ……想像以上の数だな。

ったくリオンの奴、何がちょっと多いかな?だよ!!」


このまま気絶した二人を抱えたままでは大群に踏み潰されて終わりだ。


 ──ここから二人を風魔法で森の外まで運ぶとあの大軍相手だと残りの魔力総量が心許ないな。さらに奥にヤバい奴が控えてる事だしな……


「まぁ後のことは考えても仕方ないか」


 ──俺は初めから何一つ変わっていない。考えたくもないものは後回しにする派なのだ!!


「風魔法──『天つ風アマツカゼ』」


 ──今回飛ぶのは俺じゃなくて、二人だ。レイがいる方角は……あっちか。


「よしっ飛んでけ!!」


二人を風魔法によって浮かび上がらせ、レイがいる方に飛ばす。レイを閉じ込めていた魔法は、ある仕組みで解ける様に細工してある。二人が飛んでくればきちんと街に持って帰ってくれるだろう。


俺に使用するのではなく他人に、それも優しく着地できる様に魔法を操作した所為か、思った以上に魔力の消費が激しい。


「でもこれで……思う存分暴れられるな」


オークの大群が今まさに押し寄せていた。


「「「ブモオオオオオ!!!!」」」


 ──魔力はあまり使えない。剣術だけでどれだけ多く倒せるかが、俺が生き残る唯一の方法だな。ハハッ絶望的な状況なのに…………楽しくなってきたよ!!


最小限の雷魔力で『身体強化』、そしてそれを剣に流し込み強化する。

その剣を握りしめ、オークの大群に突っ込む。



「さぁいくぞっ……!! 一匹たりとも逃げられると思うなよ──ブタ共!!」


こうしてオークの大群と俺との、絶望を常に纏った闘いが始まった。














この瞬間アレンは、これから迎える最悪の結末へと歩みを進めた。

それが自身の最期になるとも知らず……

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