第32話 いざ、南の森へ!
──どうもアレンです。今僕はエルガルド領最大の街エルドから少し離れた南の森へ向かっています。ん?何故かって?説明しよう! リオンの指名依頼によりオーク集落の調査にやってきたのだ!!
「はぁ、暇だ……」
南の森へ向かっている途中なのだが、子供の足では時間が結構かかるし、何より周りに何も無いのだ。退屈で仕方がない。ちょっと遊びたくなっても仕方ないのだ。
エルガルド領の最端には魔素濃度が異常に高い地域──魔の森と呼ばれる危険な魔物の潜む場所がある。その森は五大国の一つとの国境にもなっている。そんな危険な場所は南の森のさらに向こうに存在するのだが、そんな場所のある方に道や村など人の手が加わるはずもなく、ただ平野があるだけなのだ。
「早く着かないかなー」
風魔法で飛んでいけば早いのだが、これは初依頼。自分の足で現場に向かって依頼達成がしたいのだ。
「おっ見えた」
暫く歩き続けたところで、横いっぱいに広がった森が見えてきた。だんだんと姿がハッキリしていき、目の前に着いたところで、堂々と聳え立つ木々に少し驚いた。
恐らく、魔の森から流れてきた魔素の影響で木々から力強い生命力を感じるのだろう。
「おー、この森なら結構強い魔物とか居るかもなー」
──残念ながら今回はは依頼できているから好き勝手はまずい。闘いたいのは山々だけど、調査依頼だからオーク共に見つからないように色々調べなければいけないのだ。本当に残念だ。まぁ帰り際に少しちょっかい出すくらいなら許されるかな?うん、ちょっとだけね。
「そうと決まれば! 調査開始といきますか!」
まずオーク共の位置を知らなければならない。そこで有効なのが──
「無属性魔法──『魔力感知』」
『魔力感知』とは自身の魔力を伸ばし広げることで、対象の魔力を捉える魔法だ。ある地域では『受動探知』と呼ばれることもあるそうだ。また、この『魔力感知』以外にも感知魔法がある。それは『物質感知』だ。この魔法は『魔力感知』とは違い、自身の魔力に勢いを持たせ周囲に飛ばし当てることで、地形の把握や物や罠を感知する事が出来る。これは別名、『能動探知』と呼ばれるそうだ。
またこの2つの魔法は適性の存在する属性魔法に比べて、魔力制御が難しく高度な魔法なので使い手はあまりいないらしい。
「よしっ捕まえた!」
『魔力感知』に数体の魔物が引っかかり、どれも同じ様な個体らしき魔力を感じる事から、群れで動いているオークの可能性が高
い。
「さっそく向かうか。さてオークってどんな魔物なんだろうな! いよっと」
引き続き、『魔力感知』を発動し続けながら、木の枝に飛び乗り木々を伝いながら感知した場所へ向かう。
──おーあれか……
木の上から見下ろす俺の視線の先には、リオンの言っていた直立歩行の豚共がいた。顔はいかつくて、身体はすごくでかい。自分の身体が小さいから余計に大きく感じてしまうのだろう。
「まぁそんな事より、なんでアイツがいるんだろ……」
『魔力感知』した時点で気付いてはいたが、オーク共に囲まれたソレがいた。
──大ピンチじゃん、レイのやつ。
囲まれていたのは、既に満身創痍らしきレイだ。何とか剣を握り、立っているのがやっとという状態だ。
──まぁだからと言って助ける義理は無いんだよね。俺アイツ好かないし。
現在、冒険者ギルドからこの森には入ることは禁止されている。それはオーク共を刺激することで街に向かって攻めてくる可能性があるからだ。なので、俺が受けている調査依頼の後、オーク集落殲滅依頼を出して冒険者総出でオークを討伐する予定なのだ。それに上位種には余裕を持って上級冒険者が当たり、その他を中級冒険者以下が担当するらしい。なので俺には万が一もオークを刺激する事なく、調査だけを遂行するようギルド職員総出で厳命されている。職員の中には俺の様なついさっき冒険者になったばかりの冒険者、それもまだ小さな子供にやらせるのではなく上級冒険者に任せるべき依頼だ! と言う声が多かったらしい。
あと俺を指名したギルドマスターの頭はイカれてるだとか、やっと仕事したかと思ったら……このバカマスター! などなどリオンの悪口がすごかったとシエラが教えてくれた。相当リオンは嫌われているらしい。
──フッ、ざまぁみろリオン!!
そんな立ち入り禁止区域に瀕死のアホはいるのだ。考えられる理由としては、「豚共を倒して俺の実力を認めさせてやる」とかだろう。一応俺とアイツは同期ということになっている。なので、変態やガキが自分より冒険者ランクが高いのは納得できない! とかアイツの性格上あり得る話だ。
レイは頑張って斬りかかっているが殴られ吹き飛ばされている。
──このままだと死にそうだな。まぁ冒険者は自己責任だから、仕方ないと言えば仕方ないんだけど。
今の俺の立場はオークを出来るだけ刺激しない様に集落の場所や数、それと上位種の有無を発見などをやらなければならない。なので下手に助けてしまえば、それが叶わないのだ。現在進行形でリオンに対しての鬱憤が爆発して目を血走らせているギルド職員達に、それ見たことかってぐちぐち言われるのは嫌だ。
──だから諦めてくれ……レイ。俺は怒られたくないんだ。
まさにオークに群がられてトドメを刺されそうになっているレイを見ながら、そう考えていたが……ふと思い付いてしまった。
──レイを助ければ……オークと殺りあえる都合の良い理由になるのでは?
「ハハハハハハハッ!!」
自分の発想の天才さに思わず笑ってしまう。その笑い声ででレイの周りにいたオーク共は全てこちらを見た。
「人命救助なんだから仕方ないな。うん、不可抗力だ!」
すぐさま木から飛び降り、こちらに向かってくるオーク共に突っ込んでいく。
「はああああ!!」
剣を抜き、一振りでオークの頭と胴体を断ち切っていく。次々と倒していき、ついには全てのオークの頭を地面に転がした。
「ひぃぃっ!」
オークを倒し終わり、木にもたれかかりながら、こちらを眺めていたレイに近づいたのだが悲鳴を上げられてしまった。ふと剣に反射している自分の顔を見ると、返り血が頬にかかった笑みを浮かべた幼児の顔が映っている。
──我ながら可愛いらしい顔だ。なんで怖がるのか分からない。あっ、剣持ってるからかな?
剣を鞘にしまい、笑顔のまま近づいていく。
「ひぃぃっ」
「……」
──まぁ頭でもやられたのだろう。そんな事より急いでこの場を離れなければいけない。血の匂いで他の魔物やオークに見つかれば厄介な事になる。
「早くここから離れないとオーク共が怒ってやってくるかもしれないよ」
「で、でも……」
「ん?」
「ニーナとメイが連れて行かれたんだ……」
──もしかして俺……すごくめんどくさい事に首を突っ込んでしまったのでは……
「はぁ……」
思わずため息が漏れてしまうのだった。
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