第31話 オークの集落


「オーク?」


『冒険の書』にはオークについても書いてあったのだが、特に興味がなくて詳しくは知らないのだ。帰ったら魔物について、一通り調べておくのも良いかもしれない。


「うん、オークさ! その様子だと依頼の話を始める前に、オークについて少し説明した方が良さそうだね。まぁ簡単に言うとオークは二足歩行の豚のことさ。人間よりも大きな身体をしていて、ゴブリンなんかと同じ習性を持っているんだよ。それがね、男はその場ですぐに殺しちゃうんだけど、女は連れて帰って苗床にしたりするんだよ。どう?鬼畜でしょ?」


 ──ほう、女の敵ってやつか。


「あっアレン君は可愛い顔してるから、連れて帰ってもらえるかもね」


 ──いや、嬉しくねーよ!!


「おい、リオン。冗談言ってないで早く話を進めてよ」


「フフッまぁ強ち冗談でもないんだけどね」


 ──なに……つまりオークは俺の敵だな。よしっ! その豚ども殲滅するか!!


無意識に魔力がメラメラと溢れてくる。


「うんうん、言い出した僕が悪いんだけどちょっと落ち着いてね。まだ説明の途中なんだから」


 ──うん、そうだ……悪いのは全部リオンだ!つまりコイツは俺の敵! オークの前に滅ぼさないといけない奴が目の前にいる!!


「本当に僕が悪かったから落ち着いてくれない?見てみなよ、あの人達。とばっちりだよ?」


指差された方を見ると、この前絡んで来たオイオイと愉快な仲間達が口から泡を吹き小便を垂らして倒れていた。恐らくあの一件以来俺の魔力がトラウマになってしまったのだと思われる。だが、そんな事情は他の人には関係ない。受付嬢や女冒険者達からは冷ややかな視線がこれでもかと送られている。


 ──おっ一人の女冒険者がアイツらに唾吐きかけた……でもかけられてちょっと嬉しそうな顔してるのは気のせいだろうか。どうするんだろうね、こんな恥を晒して……もうコイツら恥ずかしくてギルドに来られないんじゃないだろうか。ごめんなオイオイ。


「俺は……オイオイ……じゃ……な、い」


気絶して倒れているはずのオイオイが何かぶつぶつ言っているが当然聞こえない。


「ほらっ話進めるよ?それで最近、南の森でオークの出現が頻出しているんだよ。まぁ早めにその森への立ち入りを禁止したから被害はまだ耳に入って来てないんだけど。それより気になるのがそのオークはさ、十数体がまとまって行動しているみたいなんだよね」


 魔物は基本群れない、それも強い魔物ほどそれが顕著になる。掲示板に貼ってあった常設依頼にオークはCランクだと書いてあった。中級レベルの魔物が数体くらいで群れるのはそう珍しくは無い。だけど十数体ともなれば話は別だろう。魔物が大勢で群れて動くということは……


「……統率者が現れた?」


「そう、上位種が生まれたと推測されるね。この感じだと恐らく集落もできてるかな。

このまま放っておけば恐らく街に群れで侵略してくるかもしれないんだよ……そこで君だ」


 ──俺?なんでだろうか……


「フフッ分からないって顔してるね。まぁ一から説明するから安心してよ。今の状況から判断すると、近いうちにオーク集落の殲滅依頼をギルド側から出す予定なんだけど。その時にその集落の位置やオークの数などを把握する為に調査が必要なんだよ」


 ──だから調査依頼か……


「オーク討伐自体は常設依頼としてあるんだけど、それが受けられるのがC級。調査依頼は討伐よりランク一つ落としてD級ってとこかな。基本的に調査依頼は戦う必要は無いからランクが一つ落ちるようになってるんだ。それで調査依頼をいつも通り出そうと思うんだけど、今回はオークの数がちょっと多すぎるんだよね。あのオークの数でパーティーで動くと気付かれて、襲われる可能性が高いんだよ。だから単独で誰かに受けてもらいたいんだけど、オークの群れ、それも上位種がいる場所に一人で突っ込んでいけるような頭のイカれた冒険者ってなかなか居ないんだよね」


 冒険者は基本的にパーティーを組み依頼を受ける。しかし、上級冒険者ともなればパーティーを組む方が少なくなる。上級冒険者を除けばソロでいる冒険者はとても珍しいのだ。大抵、冒険者になった者は新たにパーティーを作るか既存のパーティーに入る。だから今回の調査依頼を受けるような冒険者が見つからないってことなのだろう。


「なるほどね、そこで頭のイカれた俺の出番ということか……おいっ!! 俺はイカれてなんかないぞ!!」


「フフッまぁそれだけが理由じゃないよ。万が一気付かれて襲われたとしても、君にとって出来るだけ刺激せずに逃げおおすのは、

どうって事は無いだろう?君みたいな低級なのに強いって言う都合の良い人材はそう居ないんだよ。どうかな?受けて貰えるかな?」


 ──コイツ、言い回しが悉くムカつくな。

まぁだからと言って依頼は断るつもりなんか無い。だってこの依頼超面白そうだし……


「うん、受けるよ!」


「フフッ良かったよ。よし、後で正式に君に指名依頼を出すから少し待ってもらうよ。大丈夫かな?」


「うん大丈夫。けどそんな事より……」


未だにくっついて離れないシエラをどうにかしないと……。俺の頬は確かにスベスベでプニプニなのかもしれないけど、人を惑わす様な成分は含まれていないはず……。


「フフッ本当に仲良いね……羨ましい限りだ。僕にもアレン君の──」


「やだ!!」


 卑猥な手の動きで近づいてくるリオンを本気で拒絶する。


 ──俺の周りは変態で溢れてる気がする……


「フフッ冗談さ。ほらっシエラ君仕事だよ」


「ふふぇ〜アレン君〜……はっ! やだっ私ったら正気を失って……」


 ──へ?正気って……本当に変な成分とかないよね……?


「シエラ君、指名依頼の件はイリーナに頼んであるから彼女の元にアレン君を連れてってあげてよ」


「え?あ、はいっ任せてください! ほら行こっか、アレン君!」


 正気に戻った?らしいシエラは未だに俺を離さず、抱えたままギルドの奥へと連れて行こうとする。


「あっそうだアレン君。僕はこれから王都に行かないといけないんだ。だから僕のいない間くれぐれも無茶だけはしないでね。命あっての冒険者だからさ。無事を祈ってるよ!

フフッじゃあまたね」


そう言い残したリオンは、何処からか風が吹いたと同時にリオンの姿は消えていた。


 ──リオンが俺の心配?もしかして、死ぬのかアイツ……


こうして俺はシエラに抱き抱えられて、連れて行かれている時にもそんなバカなことを考えていたのだった。

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