第26話 孫バカ

一台の馬車を確認してからというもの、屋敷に戻る足取りは重かった。時間を掛けつつも俺は屋敷の扉の前に辿り着いた、いや辿り着いてしまった。


「あぁ、絶対待ち構えてるよ……。魔力感知しなくても分かる……うぅ分かりたくなかった」


意を決して扉を開く。


「おぉアレン!! 大きくなったなぁ!!」


飛び込んで来る巨大な筋肉……そう、おじい様だ。ムキムキな身体で俺の小さな身体を覆い隠し、力強く抱きしめてくる。


「く、苦しいです!! お爺様!!」


「おやめなさい、アレンが苦しんでいるでしょう!」


「ガハハハッ!! すまんすまん!!」


おじい様の頭を誰かが引っ叩いてくれたお陰で圧迫死せずに済んだ。この俺の窮地を救ってくれたのはおばあ様だ。


「ついつい、嬉しくなってしまってな。

ガハハハッ!!」


 ──笑い事じゃないわ! 


「離れていくでない! ほらジイジだぞー!! ほれジョリジョリー」


 ──やめろ!! 髭を擦り付けてくるな!!


「髭は嫌だー!」


「ガハハハッ遠慮するな! アレンがもっと小さい頃からジイジのジョリジョリが大好きなのは知っとるぞ!」


 ──ずっと嫌がってただろ!! この人には言葉は通じないのだろうか……いや、通じるはずがなかったな。


「だからおやめなさい!」


また叩かれるおじい様。


「ガハハハッ! すまんすまん!」


 ──すまんの意味を知って言ってるのだろうか。もう分かったと思うが、俺がダニエルに対して執拗にイタズラを仕掛ける理由は髭が嫌いだからだ。それは目の前で馬鹿笑いしている大男が原因だ。小さい頃からその髭を擦り付けられて来たせいで、髭を生やした奴全てを敵だと判断してしまうのだ。

ダニエルに関しては八つ当たりだと言われるかもしれないが、髭を生やす奴が悪いのだ。

俺は悪くない!!


「ごめんなさいね、アレン」


「うわぁぁん!」


俺は泣き叫びながらおばあ様に抱きついた。


「あらあら、筋肉髭だるまに襲われて可哀想にねぇ」


優しく抱きしめてくれるおばあ様の前では

何故か幼児退行してしまうのは仕方ないことなのだ。


「フフフツ良い子だから泣かないでちょうだいね、アレン」


おばあ様は頭を優しく撫でながら優しく語りかけてくれる。


「うん! 僕もう泣かない!」


「ガハハハッ! 流石男だアレン! 

どれ、ワシも撫でてやろう!」


 ──だから、アンタはやめろ!!


俺の小さな頭に魔の手が迫り、触れられると思われたが……


「ハハハッまたやってるみたいだな、父上」


「お久しぶりです。お義父様、お義母様」


「あー! おばあ様!」


父様、母様、アリアの3人が現れた。


 ──おい、来るの遅いだろ!!

てかアリア! おばあ様に抱きつくなっ! 

唯一の避難場所なんだぞ!


「シルフィアさん、アリアちゃん久しぶりね。元気そうで嬉しいわ」


「おーおーアレン。抱きつく相手ならワシが残っとるぞ?」


 ──締め殺されるとわかっていて、そこに行く馬鹿はいないんだよ!


「おっそうだアレン! ゼフィルスから聞いとるぞ、随分と強くなったそうだな。

どれ、ワシが相手してやろう!!」


 ──おじい様と……闘いか。まぁ闘いならやらない手はないだろ! 俺とのスキンシップは全部これで良いのだ!


「本当に闘いが好きなのだな、ジョリジョリには勝てんだろうがな!!」


 ──余裕で負けてるよ!


「よーし、ワシに勝ったらジョリジョリしてやるぞー!」


 ──どうしよう。俺、初めて闘いで負けたいと思ってる……


「さぁいくぞアレン!!」


「うわっ!」


おじい様は俺を軽々と持ち上げ肩に担ぐ。

そして扉を雑に開け放ち、外へと飛び出した。大きな足音を響かせながら、もの凄い速さで駆け抜けていく。


「相変わらず軽いなぁ! ガハハハッ!!」


 ──さて、アンタが重さを感じるのは一体どこからなんだろうなっ! てか俺は一人で歩けるよ!! おろせジジイーー!!

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