第25話 最強へ至るために
E級に昇格した次の日。昔アリアに膝枕をしてもらったことのある大木の下で俺は一人考えていた。
「魔力の核心……か」
──それが何なのか、それを掴むにはどうすれば良いのか。
「うん、分からん」
リオンの言っていた通り恐らくそれはすぐにどうこう出来るものではないのだろう。
長い時間の中で多くの経験の果てに辿り着くものなのかもしれない。
「まぁリオンの言う通り、焦らずゆっくり見つけていけばいいかぁー」
そう呟いて、鮮やかな緑の芝生に背中を預けた。そしてただ、風に揺られる枝をしばらく眺め続けた。
「…………ふざけんな。ゆっくりなんか、してらんねぇんだよ。最強を目指すって決めたんだろ!!」
──ゆっくり進んで辿り着く場所にあるのは最強なんかじゃない。死に物狂いで絶えず進み続けて、それでも辿り着くはおろか見ることさえ叶わない。そん場所に最強はあるんだよ。だからこそ、そんな場所だからこそ……俺は目指すって決めたんだ。
──そこに辿り着く為には、最強を得る為には。
「最初から答えは出ていたんだよな……
簡単なことだ、さっさと冒険者ランクを上げればいいんだ。そうすればもっと色んな強いヤツと戦える。そうすればもっと強くなれる」
俺の心を覆っていたモヤは晴れた。
──さぁ、改めてここからだ。
ここから最強を始めようか!!
グゥ〜っと腹の虫が大きく鳴り響いた。
「……お腹すいたな」
──実はさっきからずっと腹は鳴っていたのだ。取り敢えず何をするにもご飯を食べてからにしよう。
お腹を押さえながら無駄に広い庭を屋敷に向かって歩いていく。
「くそー!! 何で庭がこんなに広いんだよー! あーあ、こんな広さじゃダニエルも大変だろうなぁー」
この広い庭を手入れしているのは庭師のダニエルだ。
「あれ?でもこれって一人でやってるのかな?でもこの広さはなぁ……」
──1人では大変過ぎる、ちゃんと他にも庭師はいるのだろう。でも、ダニエルは一人で居るところしか見た事ないし……
「あっ分かった! ハブられてるんだなダニエルのやつ! あの髭野郎の事だ、そうに違いない!」
──そう思うと、色々可哀想に思えてきたな……今までダニエルには色々な悪事をチクられてきた。例えば何か物を壊してしまった時だ。当然のことだが、庭に埋めて証拠隠滅を図ろうとするのだが、悉くバレてしまうのだ。落とし穴にダニエルを落とした時なんて母様にチクってきたのだ、許される筈がない。許していい筈がないのだ。
だが! 俺は優しき心を持つ男だ。
そう、相手を思い遣ることが出来るのだ。
「可哀想なダニエルの為に何か……」
──うーん、イタズラの回数を減らしてあげた方が良いのだろうか。いや、それはダメだ。いつも通りの日常を送らせてあげた方がいいに決まっている。うんうん、そうだな!
やっぱり、ダニエルへの対応は変えずにいよう!
そんな風に考えていた時、何かが前方遠くを走っていることに気が付いた。
「ん?あれは……」
俺の眼に映っているのは一台の馬車。
屋敷へと続く道を走っていた。
既にダニエルの事なんかは頭から消えている。
「うわ、来ちゃったか……」
払ったばかりの心のモヤが、先程以上に濃く俺の心を埋め尽くした。
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