第24話 アレンの朝 (閑話)

いつかの朝のこと。


「ふあぁ〜」


ベッドの上で上半身だけを起こし、伸びをする。だが、まだ頭がボーッとしている。


 ──そう……俺は朝が弱いのだ。


「アレン様、おはようございます!」


朝からエレナの元気な声は脳に響く。


「エレナは今日も元気だな……」


「えへへ、そんなに褒められたら私困っちゃいます!」


頬を赤く染め、そこに手を置きながらクネクネしているエレナ。


 ──はっ……褒めたわけじゃないんだけど。


「そうだねー、困らせてごめんねー」


「むっ、気持ちが籠ってませんね」


「ハハハッ気の所為だよ。そんな事より、アリアは……」


ひとまずエレナの事より、朝の平穏を真っ先に壊してきそうな人物が居るのだ。ソイツの状況を把握しない限り、朝を静かに過ごす事は叶わないという事を十分に理解しているので、エレナに尋ねようとしたのだが……言葉の途中で勢いよく扉が開いた。


「アレン!! 呼んだ?」


扉から飛び出してきたのは、赤い髪をまとめる事なく垂らしている女の子……アリアだ。


 ──ってか、どんな耳してるんだよ……。うん、ピコピコ動いてるね。良く聞き取れそうな耳だなぁ。そしてその動く耳がちょっと可愛いと思ってしまったのはここだけの話だ。


「フフンッ! アレンの事なら私が一番分かってるのよ! 私の名前が呼ばれたなら何処からでも飛んで行くわ!」


無い胸を精一杯張りながら威張るアリア。


「なっアリア様! それは聞き捨てなりません! アレン様を一番理解しているのは私です!」


アリアと比べて少し胸が膨らんでいるエレナは対抗して胸を張った。それを見たアリアは少し不機嫌そうにしている。


 ──というかそんな事で張り合わないでくれ、二人の声は頭に響くんだ。


「フンッいつも逃げられてるくせに、よく言うわね!」


「そ、それは! アリア様も同じじゃないですか!」


「私はちゃんと捕まえてるわ!」


「同じ事です! 結局逃げられてるじゃないですか!」


「おい、二人とも……」


ヒートアップしているせいか、俺の声が届かない。


「違うわっ!」


「違わないですっ!」


「違……」


 ──あーもうっ!!


「うるさいわ!! 部屋の外でやれ!!」


「「……」」


怒鳴られた二人は黙り込みそのまま部屋を出て扉を閉めた。意外なことに何の抵抗も見せずに、だ。


「はぁ、やっと静かに……」


安心し一息ついた瞬間……


「違うわっ!!」


「いえ、違わないですっ!!」


 ──まだやってんのかよ!! てか聞こえてんだよ、さっきの状況と何一つ変わってないからな!!


「ったく……部屋に鍵つけてもらおうかな」


今も扉の向こう側では二人の声が響いている。


 ──防音の魔法とかって無いかな……いや、なんか作れそうかも。まぁ今すぐにとはいかないけど、後でやってみるか。

ってそんな事より……


「違うったら違うわ!」


「違わないと言ったら違わな……」


 ──この間も言い合いを続けている二人を止めなければ、頭がおかしくなりそうだ……。はぁ……まったく。


ベッドから立ち上がって今度こそ二人を静かにさせようかと思った時、部屋の近くに一人の気配が近づいてくるのが分かった。


「貴女達……」


「「あっ」」


「静かにしなさいっ!!」


「「ご、ごめんなさい……」」


たった一言で二人を黙らす事が出来るのは、この家に一人しかいない。




 ──ありがとう……母様。

そして、そんな貴女もうるさいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る