第23話 最強との隔たり
「雷魔法──『
全身に青白い雷が迸り、髪は逆立ち、纏った雷は辺りに放電を繰り返している。
「おっ雷の身体強化だね、それも固有魔法にまで昇華させたものだ」
「どこ見てんだ、こっちだ!!」
リオンの目には既に俺は映っていない。
ただ立ち尽くすその背後に──
「フフッ流石に速いね」
「雷魔法──『
激しく轟く豪雷を収束させ、まっすぐ放つ。
雷は俺とリオンとを繋ぐ一本の線のように……
「うんうん、いい魔法だ──だけど甘い」
間違いなく不意をついた、魔力も全力で込めた……だが何事も無かったかのように、舞起こる土煙から男は姿を現した。
「まだだ!!」
「フフッ来なよ」
視界に捉えられる限度を軽く超えた雷速で辺りを駆け回る。そして完全に見失わせ死角から全力の一撃を──
「雷魔法──『
剣に雷魔力を込め、放った飛ぶ斬撃は間違いなく、リオンの身体に直撃した。
──今度こそ……
「フフッ」
リオンが何か魔法を唱えたと同時に雷の斬撃は消失した。
「なっ!」
魔法が掻き消された事には驚きはしたが、一番驚くことは技が直撃する直前にリオンと目があった気がしたのだ。完璧な不意をついたのにだ。だが、これで漸く分かった。
「なるほどな……」
「おや?何か分かったのかな?」
「最初から違和感はあったんだ。アンタが初めて俺の前に姿を現した時、あの騒動をずっと見ていたって言っただろ?」
「フフッ確かにそう言ったね」
「それは有り得ない……あそこにお前の気配は無かった。いや、お前は居なかったんだ」
「……それで?」
「あの時アンタは魔法で見ていたんだ。そして、それは現在も使われている。それが一つ目だ。そして二つ目、アンタが初めて目の前ではっきり魔法を行使した時のこと。俺は……考えたくも無いけど、魔法を奪っただけなのかと思っていたんだ。だけどあの魔法に攻撃能力は無いんだよ。つまりアンタは幾つかの魔法を多重発動させている。恐らく吸収系の魔法、攻撃魔法、そしてアンタが常に使用している索敵魔法だ。それも索敵魔法に関しては相当な範囲なはずだ」
──そうでなければ、この速さを捉えられるはずがないんだ。
「フフッさすが──大正解だよ」
「有り得ないだろ……アンタの属性魔法は風だ。俺も使えるから何となく分かる。そしてそれ程の魔法を同時に行使するのは……」
「君もできるだろう?」
「いや……それは」
「そう、君は雷魔法による『神経強化』を使用しているからだ」
──やっぱ全部バレてるか。恐らく俺の正体についても……
「うーん……よしっ、まだまだ未来のある君に一つ教えておこうか。君は知らないと思うけど、僕並みとはいかないまでも魔法の多重発動が出来る人間自体はザラにいるんだよ。ただ、それは今の君の魔法では無い。君はまだ掴んでいないんだよ──魔力の核心を」
──魔力の……核心?
「そしてそれを掴んだものと、そうでないものとでは強さの格が違う。まず、魔法が通じないだろうね。そうすると物理攻撃しか方法はなくなるわけだ。だけど、その相手に『身体強化』をされたらどうする?その時点で敗北が決まる」
『身体強化』は持ち主の魔力の質に大きく作用される、魔力の質に違いがあり過ぎれば剣ですら切り傷一つつけることさえ叶わない。
「今の君は有り余る才能だけで戦ってるに過ぎないんだよ。今の君に必要なのは死ぬという経験だ」
「は?」
「フフッ言い方が悪かったかな?つまり絶体絶命の危機にこそ、人は成長するって事だよ。その時初めて今の僕が言った言葉の本当の意味を理解できるだろう……その経験をするのには冒険者はうってつけだ。今の君の攻撃では高ランクの魔物にはまず効かない。そして高ランクの冒険者にもね……。君はまだまだ若い、いや若過ぎるくらいだ。焦らず、順調に成長していきなよ」
「……」
「すぐにどうこう出来るものじゃないさ、気長にね」
──魔力の核心がなんなのか……今すぐ知りたい。だけど、それは自分で見つけ出さなければならない何かなんだと思う。ここで仮に今それを聞いたとしたら、俺は一生『最強』に届かない気がする……
「あっそうだ!…………リオンありがと」
「うん?」
「リオンが魔法をわざと分かる様に使ったのは、俺にこれらの事を教える為だ。そんなもの使わなくたって俺の魔法では通用しなかった」
「やっぱり凄いよ……君は。よしっ! 良い子ちゃんには僕が使っている索敵魔法について少し教えてあげよう!」
──リオンの固有魔法か!
「教えて欲しい!!」
「うんうん、子供は素直が一番だね!」
「ムッ」
──早く言えよ。
「フフッまぁまぁ。風魔法──『
緑色の風が見渡す限り一帯に漂っている。
「この風には僕の意識を乗せてある。それが僕に教えてくれるんだ。視覚、聴覚、嗅覚そして魔力などの情報全てをね」
マジかよ……悪用し放題じゃないか。
「フフッ失礼なこと考えてるね。たまにしか覗かないさ」
──覗いてんじゃねぇか!!
その後、リオンは効果範囲や魔法の詳細について、詳しく教えてくれた。
「さぁ今日も遅い、子供はお家に帰る時間だよ?」
──子供扱いしやがって……まぁ確かにそろそろ帰らないとまずい時間だ。
「色々教えてくれてありがと!!
じゃーね、リオン!」
別れを告げた俺は家路を急いだのだった。
その場に残されたのは目を瞑り物思いに耽る男。
「アレン君……君がその経験を経て魔力の核心を掴んだとき、果たして今の君のままでいられるだろうか……。フフッ僕が人に興味を持ったのはいつ以来なんだろうね……うんうん、彼ら以来……かな?」
リオンの独り言は広い空間の中で小さく響いていた……。
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