第21話 甘酸っぱいハーモニー

「はぁぁ!!」


「フォォォーーー!!」


俺が斬りかかるとアフォーは奇声を発しながら、高速の突きを繰り出してきた。


「無駄だ」


その全てを見切り躱し、往なしてみせる。

ほんの数十秒の間に既に切り結んだ数は百を超える。その斬り合いの中で癖や攻撃パターンは把握し終わった。


「そろそろ終わらせる」


「フフフフッ、その美しき剣捌き。

キミは柔剣使いだったのかイィ!?」


「すぐに分かることだ、よ!」


『神経強化』で生まれた剛力により、無理矢理レイピアの剣先をずらす。そうした事でアフォーの胴体に隙が出来た。


「終わりだ」


俺はその隙を逃す事なく、剣を素早く振りかぶり、力強く振り切る。

一刀両断され、二つに分かれたそれは地に落ちた。






「あぁぁっ! 僕のレイピアァ!!」


レイピアを折られたアフォーがその折れた刀身を抱えながら吠えている。


 ──なんか、気持ち悪い……。



「す、すごいっ! アレン君すごいですっ」


「うんうん、やっぱりそうだ……。彼の使っている剣術は『雷神流』だね」


「へ?なんですかその……雷神流?って」


「まず……剣術の流派っていうのは大抵、攻撃、防御、回避このいずれかを得意としている。そしてそのどれかを軸にして剣技を極めていくのが剣術なんだ。たけど、雷神流はその全てに特化している。つまり、普通ではあり得ない……矛盾を抱えている剣なんだよ」


「え、矛盾って……でもアレン君は使ってるんじゃ……」


「そう、普通の人間には無理なんだ。それは何故か……流派にはそれぞれ流れがあるんだよ。剣術勝負は自身の得意領域に相手を引き摺り込んだ者に勝ちが訪れる。だけど雷神流は攻撃、防御、回避をまったくの同時に戦術を組み立て、その三つを高速で行き来させる。常人には耐えらないほどの、絶え間なく流れこむ情報量を処理する思考速度、そしてあり得ない反応速度を持ち合わせていなければならない」


「あ、アレン君が……その全てを?」


「そう、そしてその剣術が使える一族は一つだけ……ふふっアレン君。君が体内に施しているその魔法を見た時から薄々は気付いていたんだけど、やっぱりそうだったんだね」


「……?体内?アレン君のですか?」


「あまり深く考えなくてもいいさ。

さっ今はただこの戦いをみて楽しもうか」


「?……はいっ分かりました! アレン君がんばってー!」





目の前には……崩れ落ちているアフォー。


「アアアァ僕のレイピア……アモル・フォーがぁぁ!!」


折れた刀身抱えて泣いてる。


 ──本当に気持ちわるい。


「おい変態、降参か?」


声を掛けた瞬間、身体がビクビクと痙攣を始めたかと思うと急に笑い出した。


「フフフフッさすが僕の永遠のライバル……僕の愛剣を叩き切るなんてやるじゃないか!! たが、僕の美しくある所以は剣だけじゃ無いのさっ!」


目の前の変態は既に立ち直ったのか、クネクネ腰を振りながら奇声を発している。


「さぁ奏でよう!! 僕らの愛を!!

土魔法──『驚き飛び出る土棘ビックリ・フォー』!!」


レイに発動した時より何倍も多くの土棘が地面から飛び出してきた。


「勝手に俺をその愛に入れんな!! 風魔法──『天つ風アマツカゼ』!!」


俺は素早く身体を浮かせ、宙に高く退避する。


「フフフフッ! やはり! キミが風魔導士だと分かった時から僕はその魔法が使えることも考えに入れていたよ! そして! キミだけのために、今ここで新しい魔法を創りあげて魅せよう!!」


 ──は?今創りあげるって……


「土魔法──

天に焦がれた堕天使の嫉妬ジェラシー・フォー』!!」


アフォーの魔力が昂りを見せた瞬間、頭上に大きな魔力の塊が現れた。

そこには大きな岩の塊が、今まさに俺に降りかかるところだった。


「フフフフッ! さぁアレン!! 受け止めておくれぇ!!」


 ──結構デカイな……まぁこの魔法を避けるのは簡単なんだよね。落ちてくる速さよりも俺の飛行速度の方が断然速い。けどさ……真っ正面から迎え撃った方が面白そうでしょ!!


「ハハハッ! しょうがないな! 受け止めてやるよ!!」


「フフフフッそれでこそ、ハァ……ハァ、

永遠のライバルだ!!」


 ──これは正真正銘、アフォーの全魔力で創った本気の魔法だ。だが……


「風魔法──『風女神之手檻アウラノホウヨウ』」


暴風が巻き起こり、そして巨大な女性が形作られた。そしてその両の手で大岩を優しく包み抱き込んだ。大岩は落下する事なく空中で静止する。


「言葉通り、ちゃんと受け止めたよ。 

まぁ元々は対人用の捕縛魔法なんだけどね」


「フフフフッ……僕の……負けさ。

素晴らしいハーモニーだった、よ」


そう言い残した後、魔力切れのせいかアフォーは地に顔を埋めた。


 ──アフォーの言動や服装などは気持ち悪いものの、その実力は本物だ。剣捌き一つ取っても並みじゃなかった。『神経強化』で常人以上の身体能力で振るっていた剣を何度も受け止めて見せたのだ。そして魔法に関しても、初撃で空中に退避させられ、それを予測し土壇場で新たな魔法を創造した。

恐らく天才って奴だろう。


「永遠のライバル……か」


 ──それが変態なのは認めたくないけど……


「勝者、アレン君ですっ!」


シエラの掛け声を聞いた俺は地面に降りていく。


 ──あ、やばい。あの大岩どうしようか。


「二人とも良い勝負だったね。面白いものを見せてくれたお礼に、アレは僕がなんとかしよう!」


そう言った後、リオンの魔圧が一瞬にして跳ね上がった。それと同時に俺が今まで大岩を支えていた風魔法の魔力供給が切れた。


「え?」


だが、大岩が落ちる事はない。そして俺のものだったはずの風が一人でに動き、そのまま大岩を切り刻み塵に変えた。


「フフッお疲れ様、アレン君」


「リオン……俺の魔法に何した?」


「さぁ?フフッそれはすぐに分かる事さ。

今は皆さんお待ちかねの結果発表をしないとね」


 ──そのニヤニヤした顔は無性に腹が立つ。

けどまあ……なんとなく分かるよ。

恐らくリオンは奪ったんだ。俺の魔法かぜを。


「さぁ、君達集まってくれるかな。結果発表といこうか」


相変わらず何も考えていなそうな顔をしている男はそう言った。

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