第16話 F級昇格試験
次の日の正午、俺は冒険者ギルドの扉の前まで来ていた。
「あっ! アレン君〜!こっちだよー」
中に入った途端、シエラが受付から大きく手を振っていた。恐らく試験場所まで案内してくれるのだろう。
「こんにちは! シエラさん」
「もうっ、私の事はシエラお姉ちゃんでしょ?ほらもう一回!」
「……シエラお姉ちゃん、こんにちは」
「はいっ! こんにちは!」
俺には一体いくつの姉が増えるのだろうか。
てか、姉が増えるってなんだよ。
まぁ……シエラが満足そうだからいいか。
「よしっアレン君! もう他の受験者も集まってるから急いで演習場に行くよっ」
シエラに手を引かれて下へと続く階段を降った。かなり深くまで続いている。
「へー、ギルドに地下なんてあるんだー」
「えへへ、すごいでしょー! 魔法の練習や模擬戦なんかに使われてるんだよ」
長く続いた階段を終えるとだだっ広い空間が広がっていた。そこに一歩を踏み出すと、何か違和感を感じた。
「これは……」
「?どうしたのアレン君?」
「フフッ凄いね、君」
背後から白髪の優男、リオンが不意打ちのように声をかけてきた。
「わっ! マスターいつの間にっ!」
コイツまた……はぁ。
「君の驚く顔を見るのが楽しくてね」
「もうっ! アレン君で遊ばないでくださいっ! アレン君は私のものなんですっ!」
この男から助けてくれるのは嬉しいけど、シエラのものになった覚えは無いので、少し複雑である。
「おっと、アレン君。君の疑問に答えようか。君が感じ取ったのは結界みたいなものさ。この場所にはね……大規模な防御魔法と回復魔法が施されているんだよ。その魔法によって、この演習場はそっとの事じゃ壊れもしないし、中に居るものは簡単に死にもしない。だから、誰でも本気で戦えるってわけさ」
まるでコイツはいつも俺の事を見ていて、心の内までも全て見透かすことが出来るのかと思ってしまう。もしかしたら、心の中で悪口言ったら伝わるかな?後でやってみようか……
「あっ! 急いで行かないと! 皆さんを待たせてるんですっ! ほら2人とも急いでくださいっ」
「うんうん、さぁ行こうか?アレン君」
そう言って俺を小さな子供扱いして、手を差し出してくる姿に少しのイラつきを覚える。
「アンタの手なんか握らないよ!」
俺は差し出された手を無視し、歩き出す。
「フフッ僕の事はマスターって呼んでよアレン君」
「やだね! べー」
目一杯舌を出してギルドマスター、リオンをバカにした後、振り切る様に駆け足でシエラの向かった場所に走っていく。
「おー意外に少ないんだ……」
そこに居たのは4人だけ、特に目立つのが
おカッパ頭のレイピアを腰に刺した男の子だ。そして恐ろしく派手でキモい。それと茶髪なのでなんとなくシエラと姿が重なってしまった。
「なんかシエラお姉ちゃんに似てる……」
「もうっアレン君! あんなのとは全然似てないよ!! 怒るよ!?」
もう怒ってると思うんだけど……。
「フフフフッそこの坊や、なかなか見どころがあるじゃないか! そう! 愛し合う二人は姿が似るって言うからね。あぁ、シエラさんからの愛を……感じる!!」
「全然違いますっ!! 私は別に……」
シエラは必死に否定しようとするが、それを目が完全にイッている男に遮られた。
「アアァ!! 言わなくて良い!……感じるんだ……愛を。初めて貴女を目にした時から……いや、貴女がこの世に産まれた時から!! イイィ!! この愛……心地イイィ!」
「……」
シエラは引きすぎて言葉も出ていない。
俺が当事者じゃなくて良かった。
こんなイカれた愛を向けられたら夢に出てきそうで眠れなくなる……。
「フフフフッ僕ばかり愛を貰ったら不公平だね……さあ飛び込んでおいで!! この僕の胸に……!!」
手を広げシエラに一歩、また一歩とジリジリ近づいていく変態。
「イヤっ!!」
我慢の限界を迎えたシエラ。
大きく振りかぶったビンタは変態を吹き飛ばし壁に激突させた。
「ほんとだ、壁が壊れてないや」
「ね、僕の言った通りでしょ?」
隣に来ていたリオンが笑いながら話しかけてきた。うーん……あとはあの変態が死んでなければリオンの言った通りなんだけど……。
「フフッあれは痛そうだ。そうだ! いつまでもこうしてはいられないね」
リオンは俺にそう言った後、皆の前まで歩いて行き……
「やぁ、みんな待たせたね! 今からF級昇格試験始めるよー」
リオンの気の抜けた声に皆がその方向を向いた。
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